わかりやすい解説シリーズ「キャッシュ・フロー計算書」 第4回:キャッシュ・フロー計算書の読み方

2012年12月21日 PDF
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 蟹澤啓輔
公認会計士 牧野幸享

第4回では、キャッシュ・フロー計算書から企業の資金繰りなどの状況をどのように読むのかについて、典型的な例を基に解説します。

1. 営業キャッシュ・フローがプラスのケース

【ポイント】
営業キャッシュ・フローは、新規投資や借り入れの返済などの原資となる重要な指標です。

設例4-1

設例4-1

営業キャッシュ・フローは、主に企業の営業活動から生じたキャッシュ・フローを表示しており、企業の資金繰りなどの状況を読むために、まず確認すべき指標となります。

  • 営業キャッシュ・フローがプラスのケース

    営業キャッシュ・フローがプラスの場合、企業の事業活動を維持するための仕入や、給料の支払い、経費の支払いなどの支出を超える収入を本業で稼いでいることになります。その余剰キャッシュについては企業が自由に使い道を決めることができます。例えば、事業拡大のために新規の投資を行うことや、借り入れの返済、株主への利益還元の一環として配当金を増やすことなどが考えられます。このように、営業キャッシュ・フローがプラスの場合、キャッシュ・フロー計算書は、営業キャッシュ・フローのプラスに対して、新規投資、借り入れの返済や配当金の支払いなどによってキャッシュが支出される結果、投資キャッシュ・フローや財務キャッシュ・フローがマイナスになることが想定されます。

2. 営業キャッシュ・フローがプラスで、工場新設などの巨額の設備投資が生じたケース

【ポイント】
営業キャッシュ・フローがプラスの場合でも、投資活動で工場の新設など巨額の設備投資による支出が生じた場合、財務キャッシュ・フローでどのように資金を調達しているかが重要になります。

設例4-2

設例4-2

営業キャッシュ・フローがプラスの場合でも、投資活動で工場の新設など巨額の設備投資による支出が生じ、手元資金に加えて金融機関からの借り入れなどを行った場合、財務キャッシュ・フローはプラスになります。財務活動によるキャッシュ・フローを見ることにより、企業の設備投資に係る資金調達方針を確認することができます。

  • 財務活動による資金調達が必要なケース

    設例4-2のように、巨額の設備投資による支出が単年度の営業活動によるキャッシュ・フローだけでは賄いきれない場合、新規の借り入れや社債の発行、増資などの財務活動によって資金を調達することや、手元資金を利用することなどが考えられます。このような場合、キャッシュ・フロー計算書では、投資活動がマイナス、財務活動がプラスとなります。手元資金を利用した場合は、キャッシュの残高が減ることになります。

    なお、規模の大きな投資が行われている場合でも、有価証券や遊休資産の売却などによって、資金を調達している場合、投資キャッシュ・フローの中で相殺され、結果として投資キャッシュ・フローが大きく変動しないケースもあります。

  • 成長企業のケース

    成長段階にある企業の場合、営業キャッシュ・フローが不安定的な場合でも成長のための新規投資を旺盛に行っているため、営業キャッシュ・フローや投資キャッシュ・フローのマイナスが大きくなっているケースが多く見られます。このような企業の成長性を分析する上で、事業拡大の状況を損益計算書比較等で確認するとともに、財務キャッシュ・フロー等に着目し、営業キャッシュ・フロー及び投資キャッシュ・フローのマイナスをどのような形で資金調達しているかを見ることが重要です。

3. 営業キャッシュ・フローがマイナスで、追加借り入れなどの資金調達を行ったケース

【ポイント】
営業キャッシュ・フローがマイナスの場合、借り入れの増加などによって必要な資金を調達する必要があります。

設例4-3

設例4-3

企業の本業が不振で営業キャッシュ・フローがマイナスの場合、企業の取り得る戦略の幅は制約を受けるケースが多いです。

  • 営業キャッシュ・フローがマイナスのケース

    事業を維持するためには、ある程度の更新投資などが必要になりますが、営業キャッシュ・フローがマイナスの場合、手元資金を使うほか、追加の借り入れを行うなどによって財務活動によって資金を調達する必要があります。このようなケースの場合、キャッシュ・フロー計算書は、営業キャッシュ・フローがマイナス、投資キャッシュ・フローがマイナス、財務キャッシュ・フローがプラスのような構成になります。
    また、営業活動によるキャッシュ・フローが大幅にマイナスの場合、企業の信用力も低下するため、金融機関も新規(追加)の貸し出しに慎重になるケースもあり、借り入れの際に財務制限条項が付されるなど借入条件が厳しくなる可能性もあります。

  • 営業キャッシュ・フローがプラスであるが小計欄がマイナスのケース

    営業キャッシュ・フローには、本来の事業活動以外の納税や災害保険金の受け取りなどのキャッシュ・フローも含まれています。しかし、第2回の図2-2にあるように企業の本来の営業活動によって生じたキャッシュ・フローは小計欄に記載されています。このため、営業キャッシュ・フローがプラスであっても、小計欄がマイナスの場合、事業の継続性があるかを含めて慎重に企業の状況を見ることが必要になります。

  • 財務制限条項(コベナンツ)とは

    金融機関からの借り入れの際、企業の信用力に応じて担保や他企業ないしは経営者の保証が求められるケースもありますが、財務制限条項(コベナンツ)が契約書に追加されることもあります。財務制限条項とは、企業が純資産を一定金額以上に維持することや、連続して当期純損失を計上しないなどの財務条件をクリアしない場合、借入金の一括返済や金利の増額を求められるような契約条件のことです。

4. 営業キャッシュ・フローがマイナスで、追加資金調達が困難なケース

【ポイント】
営業キャッシュ・フローがマイナスで、金融機関等からの追加資金調達が困難な場合、有価証券などの保有資産を売却することによって、資金を調達する必要があります。

設例4-4

設例4-4

営業キャッシュ・フローがマイナスで、金融機関等からの追加資金調達が困難な場合、有価証券などの保有資産を売却することによって、資金を調達することが必要になります。

  • 営業キャッシュ・フローのマイナスのケース

    営業キャッシュ・フローのマイナスの場合、金融機関等から追加で借り入れを行うことが困難になることや、借り入れの早期弁済を求められるケースもあります。その場合、企業は有価証券や不動産などの保有資産を売却するなどによって資金を調達する必要があります。このようなケースの場合、キャッシュ・フロー計算書は営業活動がマイナス、投資活動がプラス、財務活動がマイナスとなります。

  • 営業キャッシュ・フローのマイナスが続くケース

    通常、企業は「継続して事業を行う前提」で取引を行い、会計報告を行っています。会計上、この「継続して事業を行う前提」は継続企業の前提(ゴーイング・コンサーンの前提)と呼ばれています。
    営業キャッシュ・フローのマイナスが続く場合、この継続企業の前提が将来的に成立しない可能性が認識されることになります。

  • 企業が経営破たんするケース

    債務返済に対しキャッシュが不足する債務不履行が生じた場合、企業は経営破たんします。たとえ、損益計算書で利益を計上していても、キャッシュが不足した場合は経営破たんする可能性があります(一般的に黒字倒産と呼ばれます)。キャッシュは企業の血液に例えられることもありますが、キャッシュが不足する=血液の循環が停止した瞬間、企業は活動を停止します。営業活動、投資活動、財務活動のそれぞれのキャッシュ・バランスを考慮し、各活動間でキャッシュを循環させることが経営者の重要な役割の一つといえます。

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