2024年8月21日
「リースに関する会計基準(案)」等のポイント解説 ~リースの識別~
情報センサー2024年8月・9月 企業会計ナビダイジェスト

「リースに関する会計基準(案)」等のポイント解説 ~リースの識別~

執筆者 EY 新日本有限責任監査法人

グローバルな経済社会の円滑な発展に貢献する監査法人

Ernst & Young ShinNihon LLC.

2024年8月21日

2023年5月2日に公表された「リースに関する会計基準(案)」(以下、本会計基準案)及び「リースに関する会計基準の適用指針(案)」(以下、本適用指針案。また、以下、本会計基準案と本適用指針案を合わせて「本会計基準案等」)のうち、「リースの識別」について解説します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 第2事業部 公認会計士 鎌田 光蔵

監査部門に所属し、主に製造業、不動産業、情報サービス業の監査など、上場準備会社を含む会計監査に携わる傍ら、雑誌への寄稿、書籍執筆、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)に掲載する会計情報コンテンツの執筆に携わっている。

要点
  • リースの識別に関する定めは企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、現行リース基準)では置かれていなかった定めとなる。
  • 本会計基準案等において契約にリースが含まれるか否かは「特定された資産」と「支配」の2要件が満たされているか否かがポイントとなる。
  • 「特定された資産」と「支配」の要件が満たされていると判断する場合、現行の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」によりリースとして会計処理されていなかった契約において、リースが含まれると判断される点に留意が必要。

本記事は企業会計ナビの解説シリーズ「リースに関する会計基準(案)」等のポイント解説のダイジェスト版です。詳しい解説はこちらからご覧いただけます。

Ⅰ 本会計基準案等における「リース」の定義

本会計基準案等におけるリースの識別に関する定めは、リースの定義に関する定めと合わせて、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの識別に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があるとされています(本会計基準案BC25項)。

本会計基準等における「リース」の定義及びリースの識別に関する定めは<図1>の通りです。

図1 本会計基準案等における「リース」の定義

本会計基準案等における「リース」の定義

(本会計基準案第5項)

(本適用指針案第5項)

  • 「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいう。
  • 契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断する。当該判断にあたり、当該契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む。特定された資産の使用期間全体を通じて、次の(1)及び(2)のいずれも満たす場合、当該契約の一方の当事者(サプライヤー)(※)から当該契約の他方の当事者(顧客)(※)に、当該資産の使用を支配する権利が移転している。

(1) 顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している。

(2) 顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している。

(※)リースの識別において、「借手」及び「貸手」の用語を使用せずに「顧客」及び「サプライヤー」という用語を使用しているのは、リースの識別の判断の段階は契約がリースを含むか否かを判断する段階であり、契約がリースを含まない場合があるためです(本適用指針案BC8項)。

したがって、契約にリースが含まれるか否かの判定に当たっては、

  • 「特定された資産」であり、
  • 当該特定された資産の使用を「支配」する権利が顧客に移転していること

の、いずれも満たしているかどうかがポイントとなります。

上記2要件を図に表すと、<図2>の通りとなります。

図2 契約にリースが含まれるか否かを判定するに当たっての要件

図2 契約にリースが含まれるか否かを判定するに当たっての要件

Ⅱ 本会計基準案等において「リース」と判定される具体的要件

先に述べたように、契約にリースが含まれるか否かは「特定された資産」と「支配」の2要件が満たされているか否かがポイントとなります。次に、当該「特定された資産」と「支配」に関し、本会計基準案等では具体的にどのような定めが置かれているのか、確認していきます。

1. 要素1:「特定された資産」

契約において、下記2つの要素をいずれも満たす場合は、資産が特定されていると判定されます。

  • サプライヤーが実質的な入替権を有していない(本適用指針案第6項)
  • 当該資産が物理的に区分可能である(本適用指針案第7項)

(1) 実質的な入替権

資産は、通常は契約に明記されることにより特定されますが、資産が契約に明記されている場合であっても、一定の状況下においては、サプライヤーが当該資産を代替する実質的な権利を有しており、顧客は特定された資産の使用を支配する権利を有していないとされます。具体的には、<図3>のいずれも満たす時は、実質的な入替権を有しており、「特定された資産」に該当しないことになります。

図3 実質的な入替権を有しているか否かの判定基準

実質的な入替権を有しているか否かの判定基準

(本適用指針案第6項)

① サプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有している

② サプライヤーにおいて、当該資産を他の資産に代替することからもたらされる経済的利益が、代替することから生じるコストを上回ると見込まれるため、当該資産を代替する権利の行使によりサプライヤーが経済的利益を享受する

端的に言えば、サプライヤーが資産を別のものに入れ替える能力があり、かつ、入れ替えることに関し経済的メリットがあるか否か、ということになります。

(2) 物理的区分可能性

資産が特定されているかどうかは、物理的に区分可能かどうか、という観点からも判定されます。具体的には、<図4>の通りとなります。

図4 物理的区分可能性に関する判定基準

物理的区分可能性に関する判定基準

(本適用指針案第7項)

① 顧客が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合

⇒「特定された資産」に該当しない

② ただし、以下の場合は「特定された資産」に該当する

  • 顧客が使用することができる資産の稼働能力が、当該資産の稼働能力のほとんどすべてであり、かつ、
  • 顧客が当該資産の使用による経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している

顧客が資産を使用しているものの、顧客が使用することができる当該資産が物理的に別個のものではない場合(稼働能力のほとんどすべてを使用する場合を除く)は、「特定された資産」に当たらないことになります。

上記2要件を図に表すと、<図5>の通りとなります。

図5 「特定された資産」か否かを判定するに当たっての要件まとめ

図5 「特定された資産」か否かを判定するに当たっての要件まとめ

また、上記<図4>②の要件を満たしており、資産が特定されているケースと、②の要件を満たさず、資産が特定されていないケースを図に表すと、<図6>の通りとなります。

図6 稼働能力部分が特定された資産に該当するか

図6 稼働能力部分が特定された資産に該当するか

2. 要素2:「支配」

特定された資産の利用を支配する権利が顧客に移転しているかを判定するためには、以下のいずれも満たす必要があります。

  • 顧客が、使用期間全体を通じて特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している(本適用指針案第5項(1))
  • 顧客が、特定された資産の使用を指図する権利を有している(本適用指針案第5項(2))

上記要件を図に表すと、<図7>の通りとなります。

図7 資産の使用を支配する権利が移転しているか否かの判定に当たっての要件まとめ

図7 資産の使用を支配する権利が移転しているか否かの判定に当たっての要件まとめ

上記のうち、特定された資産の使用を指図する権利を顧客が有しているか否かに関し、本適用指針案第8項では<図8>の通り定められています。

図8 特定された資産の使用を指図する権利を顧客が有しているか否かの判定基準

特定された資産の使用を指図する権利を顧客が有しているか否かの判定基準

(本適用指針案第8項)

以下のいずれかの場合

(1) 顧客が、使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合

(2) 使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされており、かつ、次のいずれかである場合

① 使用期間全体を通じて顧客のみが、資産を稼働する権利を有している又は第三者に指図することにより資産を稼働させる権利を有している

② 顧客が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように、資産を設計している

(1) 使用方法を指図する権利

資産の使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を、顧客が有しているのか、それともサプライヤーが有しているのかによって、契約がリースを含むかどうかの結論が変わってきます。当該権利を顧客が有している場合は、契約はリースを含むこととなり、反対にサプライヤーが有している場合は、契約はリースを含まないこととなります(本適用指針案第8項(1))。

(2) 資産の使用方法に係る決定

契約の中には、資産の使用を指図する権利を顧客とサプライヤーのどちらが有しているか不明瞭な場合があります。このような状況においては、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされていることを前提として、以下に基づいた判定が行われます(本適用指針案第8項(2))。

① 資産を稼働させる権利

資産を稼働させる権利を顧客のみが有している状況においては、顧客は、当該資産を顧客自身で稼働、又は第三者に指図のうえ稼働させることが可能となります。本ケースにおいては、顧客が当該資産の使用を指図する権利を有しているとされ、契約はリースを含むことになります。

② 資産の設計

顧客が資産の設計に関わることで、使用期間にわたる当該資産の使用方法が事前に決定されているケースがあります。このようなケースにおいては、顧客が当該資産の使用を指図する権利を有しているとされ、契約はリースを含むことになります。

Ⅲ 「リース」の判定に関するフローチャート

これまで述べてきた通り、本会計基準案等においては、現行リース基準には定めのなかった「リース」の判定に関するガイダンスが定められており、その内容も複雑となっています。フローチャートで示すと<図9>の通りとなります。

図9 リースの識別に関するフローチャート

図9 リースの識別に関するフローチャート

※本適用指針案「設例1」を元に修正しています。

※各権利や契約内容の判断をする際は、すべて「使用期間全体を通じて」該当するかの判断を行う必要があります。

Ⅳ おわりに

より詳しい内容につきましては、「リースに関する会計基準(案)」等のポイント解説-リースの識別 第2回:事例解説(特定された資産)、及び第3回:事例解説(特定された資産の使用の「支配」)において具体的な事例も交えて解説していますので、併せてご覧ください。

サマリー

一見するとリースに該当しないような契約であっても、条件によっては、契約にリースが含まれる場合が想定されることから、実態に基づき個別に判断することが必要となります。賃貸借契約だけでなく、従来、利用料、使用料、業務委託料、サービス料等で処理されていた契約についても、契約にリースが含まれるか否か留意する必要があります。

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