シンガポールの税制の特徴は日本の税制と比較し、2点に注目
シンガポールの税制の特徴は、日本の税制と比較すると、以下の2点が大きな特徴となります。まず1点目は課税対象となる所得は、①シンガポールで生じた所得または稼得された所得、②国外源泉所得のうちシンガポールで受領された所得です。ただし、②に含まれるシンガポール国外からの配当所得、海外支店の事業所得等のうち、シンガポールに送金された年における当該外国の最高法人税率が15%以上であること、当該外国において課税されているという要件を満たすものは課税所得の対象から除外されます。
2点目は営業取引から生じるゲインやロスは課税所得の対象になるものの、資本取引から生じるゲインやロスは課税所得の対象から除外されます。2点目の例外的な取り扱いとしては、固定資産の所得に要した費用は資本取引に該当するため、原則として減価償却費は損金に算入することができません。ただし、投資奨励の政策的配慮から、機械設備など一定の固定資産については償却が認められており、税務上の減価償却費として損金算入することができます。
シンガポールで明確化されたのはPillar2の適用開始時期のみ
次に2023年2月14日に公表された2023年度予算案については、下記の通り、Pillar2の適用開始時期が公表されました。ただし、法制化の時期や制度内容までは明らかにされていません。
① 2025年1月1日以降に開始する会計年度からIIR、UTPR、DTTを運用開始予定。
② シンガポール政府は国際的な動向を注視し、遅延が生じた場合は、それに合わせて実施時期を調整する。
特に①については、日本親会社が3月決算で、日本のIIRが2025年3月期から適用される場合、シンガポールのDTTは2026年3月期から適用されることになります。そのため、日本で1期分シンガポールのDTTが適用されない会計年度が生じることに留意する必要があります。
また、IIR、UTPR、DTTの適用開始時期は明確化されましたが、制度内容については現時点で明らかになっていません。現地では特にDTTがどのような制度になるのかに関心が高まっています。シンガポールでは日本のCFC税制により合算される会社が他国と比べて多いことからCFCプッシュダウンが考慮されない場合は、CFCを課税されないような検討がより重要になっていくでしょう。
Pillar2の影響が大きいと予測される場合は日本企業も所轄官庁との交渉を推奨
Pillar2に関する法制化の動向については、シンガポールのローレンス・ウォン財務大臣が2021年7月の国会答弁で、主に次のように述べています。
「Pillar2が適用された場合は、シンガポールへの投資を促進する手段としての優遇税制の有効性が制限される」
なぜならシンガポールにおける主要な優遇税制の概要については、既存の優遇税制の多くは法人税率の減免(0%、5%、8%、10%など)や追加的損金算入(200%損金算入など)となります。シンガポールの法人税率は17%のため、優遇税制を適用した場合、通常は実効税率が15%を下回ることとなります。その場合は日本のIIRやシンガポールのDTTにより、追加納税が必要となり、影響度に応じて事業計画および事業運営の修正が必要となるケースも想定されます。一方、現時点で新たな優遇税制は公表されていません。ただし、シンガポール政府は、Pillar2の影響を低減するための案を、パブリックなものとしてではなく、各企業との交渉の過程で投資規模および業種・業態などに応じて出してくることが想定されます。実際、複数の欧米企業はシンガポールの経済開発庁や企業庁と交渉を開始しています。日本企業も所轄官庁との交渉を早期に開始されることを推奨します。
Pillar2の導入による影響については、税務的な側面だけでなく、多面的な観点での検討が必要となります。影響が大きいと予測される場合は、優遇税制の見直しを始め、所轄官庁との交渉、シンガポールの事業そのものの意義および計画の見直しが必要となるケースも想定されます。ただ、シンガポールは大まかな方向性については打ち出しているものの、その内容については明確化されておらず、今後も動向を注視しつつ、対応策を検証していく必要があるでしょう。