IPOの基礎 2022 第8章 関連当事者等との取引・関係会社の整備

2023年2月13日
カテゴリー IPOの基礎

2022年7月発行のIPOガイドブックを転載したものであり、本文中特に断り書きのない限り、2022年4月15日現在の法令・規則等に準拠して作成しています。

1. 関連当事者等との取引及び関係会社の整備の目的

近年、新規公開会社の経営者による不適切な取引など、新規公開に対する株主・投資者の信頼を損ないかねない事例が散見されています。とくに、関連当事者等との取引は、申請会社の企業グループと特別な関係を有する相手との取引であるため、本来不要な取引を強要されたり取引条件が歪められたりする懸念があります。また、株式上場を目指す会社の中には、複数の関係会社を経営戦略の中に組み込み、事業の多角化や国際化等を進めている例がしばしばみられます。このような場合には関係会社の整備が非常に大きなポイントになります。

関連当事者等の取引や関係会社の整備に当たっては、投資者保護の観点から不当利益供与等の排除及び企業グループの実態開示の2点について留意する必要があります。
なお、上場審査における関係会社には、「人的関係会社」と「資本的関係会社」の概念が含まれていますが、それぞれの定義は以下のとおりです。

 

① 人的関係会社

人的関係会社とは、「人事、資金、技術、取引等の関係を通じて、(a)新規上場申請会社が他の会社を実質的に支配している場合、または(b)他の会社により実質的に支配されている場合における当該他の会社」と定義されており、申請会社が株式を保有していない場合であっても、申請会社からの役員の派遣の状況や外注先との取引の状況によってグループ会社と見做されるケースがあります。
 

② 資本的関係会社

資本的関係会社とは、「(a)新規上場申請会社(その特別利害関係者を含む)が他の会社の議決権の100分の20以上を実質的に所有している場合、または(b)他の会社(その特別利害関係者を含む)が申請会社の議決権の100分の20以上を実質的に所有している場合における当該他の会社」と定義されており、申請会社の役員等の「特別利害関係者」が所有している持分も含めて判定されます。
なお、ここでいう特別利害関係者とは、「新規上場申請会社の役員(役員持株会を含む)、その配偶者及び二親等内の血族(以下「役員等」という)、役員等により発行済株式総数の過半数を所有されている会社並びに新規上場申請会社の関係会社及びその役員」を指します。

(1) 不当利益供与等の排除

申請会社の企業グループが関連当事者等との取引行為等を通じて不当な利益を供与することは、一般株主の利益を侵害することであり上場会社として非常に問題となる行為です。
このような利益供与行為については、現に行われているか否かだけではなく、将来行われる可能性についても審査上の問題とされています。
また、財務諸表等規則では、一定の「関連当事者」との取引は財務諸表に注記しなければならないため、関連当事者等との取引関係は、ディスクロージャー制度の問題としても取り扱われます。

(2) 申請会社の企業グループの実態開示

関係会社を含む関連当事者等との取引を悪用するケースにおいては、「押し込み販売」による決算期末近くの売上計上などにより、申請会社グループの財務諸表等が実態を反映していないものとされてしまうおそれがあります。
このため、上場審査に際しては、このような決算操作を可能とするような関係会社の存在自体を可能な限り整理することが要請されてきました。さらに、関連当事者等との取引や所有割合の不当な調整により企業グループの実態の開示が歪められていないかについて、審査上も重要項目として扱われています。

(3) 親会社等に係る開示

申請会社が親会社等を有する場合※で、かつ、当該親会社等が非上場である場合には、「支配株主等に関する事項」及び「非上場の親会社等に関する決算情報」の内容を記載した書面を提出する必要があります。
なお、上場後においては、支配株主を有する上場会社は、「支配株主との取引等を行う際の少数株主の保護の方策に関する指針」について、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書(第9章参照)」の中で開示を行うものとされています。

※ 上場前の公募又は売出し等により上場後最初に終了する事業年度の末日までに「親会社等」を有しないこととなる見込みがある場合を除きます。

2. 関連当事者等との取引の整備

関連当事者等とは、関連当事者及びその他の特定の者をいいます。

ここでいう関連当事者は、財務諸表等規則第8条第17 項に掲げる「関連当事者」であり、主に、申請会社の親会社、子会社、関連会社、法人主要株主、役員、個人主要株主などが含まれます。また、役員及び個人主要株主についてはその近親者(二親等内の親族)も含まれることに留意が必要です。
「その他の特定の者」とは、関連当事者の範囲に含まれないものの、申請会社の企業グループと人的、資本的な関連を強く有すると考えられる者をいいます。
関連当事者等との取引に関しては、次のように取引自体の合理性や取引条件の妥当性に留意するほか、取引の把握や牽制をする仕組みを整備する必要があります。

関連当事者等との取引の整備のチェックポイント

  1. 取引行為の合理性及び取引条件の妥当性
    (1) 当該取引を行うことに合理性(事業上の必要性)はあるか。
    (2) 当該取引条件が第三者取引や近隣相場などと比較して妥当か。
    (3) 当該取引を継続する合理性(事業上の必要性)や、取引条件を定期的に検討・見直しているか。
    (4) 関連当事者等との取引について監査役監査や内部監査の対象としているか。
  2. 関連当事者等との取引の把握
    (1) 関連当事者等との取引に対する適切な認識(注意する必要が高い取引であるという認識)を有しているか。
    (2) 関連当事者等との取引の存在を適切に把握する仕組みがあるか。
    (3) 関連当事者等との取引を適切に牽制する仕組みがあるか。
  3. 経営者が関与する取引の把握と牽制
    (1) 経営者が関与する取引(経営者自らが営業して獲得した案件・企画した案件や、例外的に経営者が決裁を行っている案件等)の存在を適切に把握できるか。
    (2) 経営者が関与する取引に対しても組織的に検討が行われ、牽制機能が発揮されるような適切な体制が整備されているか。
  4. 役員・大株主等との取引のチェック
    (1) 申請会社との役員兼務の状況、営業上の取引、債権債務の関係、出資関係等の取引関係を把握しているか。

3. 関係会社の整備対策

関係会社に関しては、以下のような多岐にわたる点に留意してその整備を行う必要があります。

関係会社整備のチェックポイント

  1. 関係会社の事業内容はどのようなものか。
    (1) 実質的な事業活動を行っている会社か。
    (2) 事業内容の発展性、危険性についての理解は充分か。
  2. 関係会社の財政状況と経営成績
    (1) 申請会社の業績に与える影響にはどのようなものがあるか。
    (2) 財政状況と経営成績についての将来の見通しがあり、関係会社に多額の負債、在庫の過剰、滞留など、申請会社の負担となる要因はないことが確認されているか。
  3. 関係会社の管理体制はどのようになっているか。
    (1) 関係会社の管理方針は明確になっているか。
    (2) 関係会社には管理部門があり、当該部門の業務内容は明確に定められており、実施されているか。
    (3) 各業務についての報告、承認の制度が適切に整備されているか。
  4. 申請会社との関係における関係会社の存在の意義はどのようなものか。
    (1) 関係会社が別会社として存在することに合理的な理由はあるか。
    (2) 関係会社の整備方針はあるか。整備方針がある場合には、その内容はどのようなものか。
    (3) 経営不振の関係会社がある場合には、再建計画を立てて、申請会社の負担とならないという保証はあるか。
  5. 関係会社との取引関係は妥当なものであるか。
  6. 連結決算体制は確立しているか。
  7. 申請会社に親会社等がある場合には、親会社等により申請会社の業績などが左右されない独立性があるか。