モビリティ(海外赴任)コラム:海外赴任者の税金はどこまで負担するの?

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年が明け、4月に向けて海外赴任の内示の時期が近づいてきました。コロナ前と比べて在留邦人の総人数は減少していますが、一部の国では海外在留邦人数が対前年比で増加するなど回復の兆しが見えてきています。

最近では、円安やインフレの影響から、海外赴任者のコストの見える化や見直しを進めている企業も増えてきています。そこで今回は、赴任者給与の半分近い割合を占める海外税金にかかる会社の負担方法について、考えていきたいと思います。

日系企業の多くは、海外赴任者に対し手取り保証(ネット保証)の考え方を採用し、赴任先国の税金は企業が負担することが一般的となっています。では、賃金以外の課税対象、例えば個人所得が課税されている場合でも会社が全額負担しなければならないのでしょうか?これは企業が規程等でどのように負担の内容を決めているかによります。

欧米の多くの企業では、ネット保証ではなくタックスイコライゼーションという租税手当制度を採用しています。当該制度は、赴任元国にいた時と同等レベルの税相当金額をみなし税として赴任者に負担させ、その代わりに給与にかかる海外の税金を雇用主が負担することによって、赴任者には得も損もさせない税負担の公平性を担保することを目的としています。この考え方の下では、個人所得にかかる税金相当について会社は負担しないということになります。一方、日系企業が採用しているネット保証においては、規程において手取り保証とする対象を明文化していないことから、赴任者の収入に関する全てに対して手取り保証をせざるを得ないケースが見受けられます。明確に規程化されていない場合、個人の投資所得など給与以外の所得についての想定していない税金を結果的に企業が負担することになる可能性もありますので、留意が必要となります。個別に個人の投資所得は対象外として赴任者に取扱いの変更について説明し理解を得た上で、給与として払った税金の一部を後から返金させることも可能ではありますが、不利益変更に該当する懸念もあり、従業員への説明や説得に時間や労力がかかることは言うまでもありません。

また給与所得においても、株式報酬などの長期インセンティブに係るみなし税の負担方法について明確化されていないケースがよくあり、赴任者間で不公平が生じ、また企業が想定外の負担を余儀なくされるケースも生じています。

政府による資産所得倍増プランなどの後押しもあり、今後ますます個人の投資への意識は高まることが想定されます。そのため、個人が負担すべき税金相当の計算方法などを明確化し、規程整備をしない場合には、会社が想定外のコストを負担せざるを得ないケースが想定されます。赴任者には得も損もさせない公平、公正な税金の振り分けルールを整備することが、今後より重要になると思われます。

お問い合わせ先

kumiko.kawai@jp.ey.com 川井 久美子 パートナー

akiko.hayama@jp.ey.com 羽山 明子 ディレクター

※所属・役職は記事公開当時のものです

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