公認会計士 鯵坂雄二郎
公認会計士 中村 崇
1. 『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)の「発生」と「解消」
【ポイント】
『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)の中には、「発生」した後「解消」されるものがあります。
それぞれの会計の目的が異なるため、『企業会計』と『税務会計』には違い(ズレ)があるとしましたが、この違い(ズレ)の中には、「発生」した後「解消」されるものがあります。
具体的に、第1回で使用した長期滞留在庫の例を用いて、「発生」と「解消」の流れを見ると次のようなイメージとなります。
- 発生(×1年度)と解消(×2年度)
×1年度:発生 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が発生)
※1 損金として認められなかった在庫の評価損100を加算(プラス)
×2年度:解消 (『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)100が解消)
※2 ×1年度に評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄し損金として認められたため、在庫の評価損100を減算(マイナス)
前提条件
- ×1年度の収益は500、費用は400。費用400には損金(『税務会計』上の費用)として認められない長期滞留在庫の評価損100が含まれている(損金として認められるのは300)
- ×2年度の収益は500、費用は300。×2年度に、×1年度に評価損を計上した長期滞留在庫を廃棄したため、×1年度に発生したズレが解消し、100が損金として認められている。
2. 税効果会計の適用対象となる差異(ズレ)
【ポイント】
『企業会計』と『税務会計』の違い(ズレ)は、「一時差異」と「永久差異」の二つに分かれます。
(1) 一時差異 → 税効果会計の対象となる差異
(2) 永久差異 → 税効果会計の対象外となる差異
『企業会計』と『税務会計』の差異(ズレ)は、二つに分かれます。
(1) 一時差異:
『企業会計』と『税務会計』の認識時期のズレによるもの(いずれ解消されるズレ)
(2) 永久差異:
『企業会計』と『税務会計』の考え方自体が異なるもの(永久に解消されないズレ)
すなわち、一時差異は「発生」したら「解消」される差異と言え、永久差異は「発生」しても「解消」されない差異と言えます。
3. 一時差異の種類
【ポイント】
一時差異は、その解消する際のパターンで「将来減算一時差異」と「将来加算一時差異」の二つに分かれます。
(1) 将来減算一時差異:
将来解消する時に、課税所得が『減算』(マイナス)される一時差異
(2) 将来加算一時差異:
将来解消する時に、課税所得が『加算』(プラス)される一時差異
税効果会計の適用対象となる一時差異はさらに二つに分かれます。
(1) 将来減算一時差異:
将来解消する時に、課税所得が『減算』(マイナス)される一時差異
特徴
(2) 将来加算一時差異:
将来解消する時に、課税所得が『加算』(プラス)される一時差異
特徴
ここまでを要約すると、差異は次のように分類されます。
4. 繰延税金資産・繰延税金負債とは
【ポイント】
「将来減算一時差異」・「将来加算一時差異」に、それぞれ税率を乗じることで「繰延税金資産」・「繰延税金負債」が計算されます。
(1) 繰延税金資産:
将来の税金が安くなる権利(実質的には、法人税の前払い)
(2) 繰延税金負債:
将来の税金が高くなる要因となるもの(実質的には、法人税の未払分)
ここまで説明した「将来減算一時差異」・「将来加算一時差異」というものに、それぞれ税率を乗じることで「繰延税金資産」・「繰延税金負債」の金額が計算されます。
なお、「繰延税金資産」・「繰延税金負債」という勘定科目を使う際には、法人税等調整額(P/L科目)という勘定科目を相手勘定として使用します。
- 繰延税金資産
将来減算一時差異 → 繰延税金資産 |
将来、課税所得が『減算』(マイナス)される一時差異 ~仕訳~ |
- 繰延税金負債
将来加算一時差異 → 繰延税金負債 |
将来、課税所得が『加算』(プラス)される一時差異 ~仕訳~ |
- 繰延税金資産の発生・取り崩しのイメージ
【前提】
税引前利益500
将来減算一時差異100が×1年度に発生し×2年度に解消
税率は40%
- 繰延税金負債の発生・取り崩しのイメージ
【前提】
税引前利益500
将来加算一時差異100が×1年度に発生し×2年度に解消
税率は40%
この記事に関連するテーマ別一覧
わかりやすい解説シリーズ「税効果」
- 第1回:税効果会計とは (2011.11.28)
- 第2回:一時差異と永久差異、繰延税金資産と繰延税金負債 (2011.12.22)
- 第3回:税効果会計の具体的な適用方法 (2012.02.15)
- 第4回:繰延税金資産の回収可能性 (2012.04.13)