公認会計士 湯本 純久
1.セグメント情報の開示
セグメント情報等の開示に関する会計基準の第3回解説では、マネジメント・アプローチに基づく具体的な開示例を中心に取り上げます。セグメント適用指針に示されている開示例を基に開示上の留意事項を示します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。
2.具体的な開示例
(1) セグメント利益と営業利益の間の差異を調整する場合の開示例
(セグメント適用指針の開示例1より抜粋)
(セグメント情報)
1.報告セグメントの概要
① 当社の報告セグメントは、当社の構成単位のうち分離された財務情報が入手可能であり、取締役会が、経営資源の配分の決定及び業績を評価するために、定期的に検討を行う対象となっているものである。
当社は、本社に製品・サービス別の事業本部を置き、各事業本部は、取り扱う製品・サービスについて国内及び海外の包括的な戦略を立案し、事業活動を展開している。
② したがって、当社は、事業本部を基礎とした製品・サービス別のセグメントから構成されており、「自動車部品事業」、「船舶事業」、「ソフトウェア事業」及び「電子事業」の4つを報告セグメントとしている。
③「自動車部品事業」は、自動車販売店に販売する自動車の交換部品を生産している。「船舶事業」は、海底採油産業などに販売する小型発動機船及び関連製品を生産している。「ソフトウェア事業」は、コンピュータ製造業者及び販売店に販売するソフトウェア及び関連製品を生産している。「電子事業」は、コンピュータ製造業者に販売する集積回路及び関連製品を生産している。
【開示上のポイント】
報告セグメントの概要について説明しています。報告セグメントは、事業セグメントを識別したものをまとめたものです。事業セグメントの識別の要件は、以下のとおりです(セグメント会計基準6項)。
(i) 収益を稼得し、費用が発生する事業活動にかかわるもの
(ii) 企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの
(iii) 分離された財務情報を入手できるもの
【セグメント会計基準の関連規定】
① 報告セグメントの決定方法を説明しています(セグメント会計基準18項(1))。
② 製品・サービス別の報告セグメントの区分を説明しています(セグメント会計基準18項(1))。
③ 各報告セグメントに属する製品およびサービスの種類を説明しています(セグメント会計基準18項(2))。
2.報告セグメントの利益(又は損失)、資産及び負債等の額の測定方法
④ 報告されている事業セグメントの会計処理の方法は、棚卸資産の評価基準を除き、「連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」における記載と概ね同一である。
⑤ 棚卸資産の評価については、収益性の低下に基づく簿価切下げ前の価額で評価している。報告セグメントの利益は、営業利益(のれん償却前)ベースの数値である。セグメント間の内部収益及び振替高は市場実勢価格に基づいている。
【開示上のポイント】
マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報において、企業は各報告セグメントの利益(または損失)の額を開示しなければならないとされています(セグメント会計基準19項)しかし、その利益の算定方法は会計基準においても特に示されてなく、最高意思決定機関に報告される金額に基づくものとされています(セグメント会計基準23項、78項)。また、損益計算書と異なる会計処理を採用した場合には、必要に応じてその主な内容を開示することになり、さらに、各報告セグメントの利益(または損失)の合計額と損益計算書の利益(または損失)計上額の差異調整に係る事項を開示する必要があります(セグメント会計基準25項(2))。
【セグメント会計基準の関連規定】
④ セグメント情報の各開示項目の測定に関する内容について説明しています。 報告されているセグメント情報を作成する会計処理と連結財務諸表を作成するための会計処理の方法に違いがあるため、その内容を説明しています(セグメント会計基準第24項(2))。
⑤ 報告セグメント利益について棚卸資産の評価については、簿価引き下げ前の価額で評価している旨、セグメント利益については、営業利益を基礎としている旨を記載しています(セグメント会計基準第26項)。また、報告セグメント間取引について会計処理の基礎となる事項を記載しています(セグメント会計基準第24項(1))。
3.報告セグメントの利益(又は損失)、資産及び負債に関する情報
※1 報告セグメントで開示されているセグメント情報の数値と連結財務諸表計上額の差異調整額を記載します(セグメント会計基準17項(3)、25項、26項)。
※2 最高意思決定機関に報告されるセグメントの利益、資産、負債の金額が開示されます(セグメント会計基準19項、20項)。セグメント利益、資産の開示については、必須とされていますが、セグメント負債については、最高意思決定機関に対して定期的に提供され使用されている場合に開示されます(セグメント会計基準20項)。
※3 報告セグメントの利益が、財務諸表の損益計算書の利益と差異がある場合、差異調整に関する事項を開示します。この場合の損益計算書の利益とは、営業利益、経常利益、税金等調整前当期純利益のいずれかとし、当該科目を開示します(セグメント会計基準17項(3)、25項、26項)。
本開示例では、報告セグメントの利益は、営業利益が採用されており、報告されているセグメントの営業利益と連結財務諸表の営業利益の差異調整額を説明しています。その他、各報告セグメント情報と対応する連結財務諸表の各開示項目の調整額を説明しています。
4.地域に関する情報
- 国内の外部顧客への売上高と海外の外部顧客への売上高を開示します(セグメント会計基準31項(1))。
- 国内に所在する有形固定資産の額と海外に所在する有形固定資産の額を開示します(セグメント会計基準31項(2))。
5. 主要な顧客に関する情報
- 主要な顧客がある場合には、その旨、当該顧客の名称又は氏名、当該顧客への売上高および当該顧客との取引に関連する主な報告セグメントの名称を開示します(セグメント会計基準32項)。
- 固定資産の減損損失を計上した場合は、報告セグメント別の内訳を開示します(セグメント会計基準33項)。
- 報告セグメントに配分されていない減損損失がある場合には、その額およびその内容を記載します。
- 損益計算書にのれんの償却額または負ののれんの償却額を計上している場合には、償却額および未償却残高に関する報告セグメント別の内訳をそれぞれ開示します(セグメント会計基準34項)。
- 報告セグメントに配分されていないのれんまたは負ののれんがある場合には、その償却額および未償却残高ならびにその内容を記載します。
2.具体的な開示例
(2) セグメント利益と税金等調整前利益の間の差異を調整する場合の開示例
【開示上のポイント】
「セグメント適用指針」の開示例では、報告セグメントの2種類の開示例が示されています。開示例1は、報告セグメントの開示項目と開示される連結財務諸表の各開示内容を1表にまとめて両者の差異を示す開示例です。開示例2は、報告セグメント情報を1表にまとめて開示し、別表で開示される各開示項目について連結財務諸表との差異調整額について開示しています。
以下で報告セグメント情報を1表にまとめて開示し、別表で開示される各開示項目について連結財務諸表との差異調整額を開示している例をセグメント適用指針の開示例2より一部抜粋して示します。
1. 報告セグメントの概要
当社の報告セグメントは、当社の構成単位のうち分離された財務情報が入手可能であり、最高経営責任者(CEO)が、経営資源の配分の決定及び業績を評価するために、定期的に検討を行う対象となっているものである。①当社は、主に自動車部品等を生産・販売しており、国内においては当社が、海外においては米国、欧州(主に、英国、フランス、ドイツ)、中国等の各地域をアメリカ・カンパニー(米国)、ロンドン・カンパニー(英国)、中国公司(中国)及びその他の現地法人が、それぞれ担当している。現地法人はそれぞれ独立した経営単位であり、取り扱う製品について各地域の包括的な戦略を立案し、事業活動を展開している。したがって、当社は、生産・販売体制を基礎とした地域別のセグメントから構成されており、「日本」、「米国」、「欧州」及び「中国」の4つを報告セグメントとしている。各報告セグメントでは、自動車部品等のほか、玩具・模型及びその他の製品を生産・販売している。
2. 報告セグメントの利益(又は損失)、資産及び負債等の額の測定方法
省略
【セグメント会計基準の関連規定】
① 報告セグメントの決定方法を開示しています(セグメント会計基準18項(1))。本開示例では、事業セグメントを識別するために用いた方法として、日本、米国、欧州などの各地域を報告セグメントとしています。
3. 報告セグメント情報の利益(又は損失)、資産及び負債等に関する情報
① 報告セグメントの内容が、生産、販売体制を基礎とした地域別のセグメントから構成されていることを説明しています(セグメント会計基準18項)。開示されている報告セグメントの区分と整合しています。
② 報告セグメントの各開示情報を1表で作成し、連結財務諸表の各開示項目との差異調整額は、別表で開示されています。
4. 報告セグメント合計額と連結財務諸表計上額の差異の調整
- 報告セグメントの売上高合計額と損益計算書の売上高の差異調整額について開示しています(セグメント会計基準25項(1))。
- 報告セグメントの利益合計額と損益計算書の利益計上額の差異調整額について開示しています(セグメント会計基準25項(2))。
- 報告セグメントの資産の合計額と貸借対照表の資産計上額の差異調整額について開示しています(セグメント会計基準25項(3))。
- 事業セグメントに資産を配分していない全社資産があるため、その金額を開示しています。(セグメント会計基準24項(3))。
- 報告セグメントの負債の合計額と貸借対照表の負債計上額の差異調整額について開示しています(セグメント会計基準25項(4))。
- その他の開示される各項目について報告セグメントの合計額とその対応する科目の財務諸表計上額の差異調整額について開示しています(セグメント会計基準25項(5))。
この記事に関連するテーマ別一覧
セグメント情報等の開示に関する会計基準
- 第1回:セグメント開示制度の概要 (2012.04.10)
- 第2回:報告セグメントの決定 (2012.04.10)
- 第3回:セグメント情報の開示 (2012.04.10)