公認会計士 井澤依子
8. 共同支配企業の形成
(1) 共同支配企業の会計処理
a.資産及び負債の会計処理
共同支配企業の形成において、共同支配企業は、共同支配投資企業から移転する資産および負債を、移転直前に共同支配投資企業において付されていた適正な帳簿価額により計上します(企業結合会計基準38、結合分離指針184)。
b.増加資本の会計処理
増加資本の会計処理は、連結子会社同士の合併の会計処理(5.(1)a.ウ.ⅰ.ⅱ.)に準じて処理します。
(2) 共同支配投資企業の会計処理
共同支配企業の形成において、共同支配企業に事業を移転した共同支配投資企業は次の会計処理を行います(企業結合会計基準39)。
a. 個別財務諸表上、当該共同支配投資企業が受け取った共同支配企業に対する投資の取得原価は、移転した事業に係る株主資本相当額に基づいて算定する。
b. 連結財務諸表上、共同支配投資企業は、共同支配企業に対する投資について持分法を適用する。
(3) 共同支配企業の形成:数値例による解説
以下では、共同新設分割を前提に、共同支配企業の形成の会計処理につき、数値例を用いて解説します。
a. 前提条件
- X22年4月1日にA社とB社は共同新設分割によりW社を設立した。A社とB社の共同新設分割は共同支配企業の形成と判定された。
- A社およびB社の移転する事業の移転直前の内容等は、次のとおりである。
b. W社(共同支配企業)の個別財務諸表上の会計処理
ア. G事業の受け入れ
イ. H事業の受け入れ
ウ. 受入仕訳の合計
c. 共同支配投資企業の会計処理
ア. 持分変動についての考え方について
共同支配投資企業の具体的な会計処理に入る前に、分割される事業に係る持分変動を整理したいと思います。
ⅰ. G事業の純資産に係る持分変動
分割直前では、G事業に係る純資産は、A社が100%支配していましたが、分割により40%部分をB社の支配持分として手放すこととなります。 図表13中、緑で塗られた部分がA社の持分額、黄色で塗られた部分がB社の持分額です。共同新設分割直前では、G事業はA社が100%支配しています。
企業結合直後の状態では、G事業に係る純資産に対する持分額が、B社に移転しています(220)。外側の縁取りの内側の面積が、G事業の時価720です。このうち、A社からB社へ移動した部分の時価288(=720×40%)から、同じくB社へ移動したG事業簿価純資産220(=550×40%)を差し引いた金額が持分変動差額68となります。
一方、B社の立場からは,A社からの移転部分(時価にして288)は、取得となり、G事業簿価純資産220を超える部分はのれんとなります。
【図表13】
ⅱ. H事業の純資産に係る持分変動
分割直前では、H事業に係る純資産は、B社が100%支配していましたが、分割により60%部分をA社の支配持分として手放すこととなります。図表14中、緑で塗られた部分がA社の持分額、黄色で塗られた部分がB社の持分額です。共同新設分割直前では、H事業はB社が100%支配しています。
企業結合直後の状態では、H事業に係る純資産に対する持分額が、B社からA社に移転しています(270)。外側の縁取りの内側の面積が、H事業の時価480です。このうち、B社からA社へ移動した部分の時価288(=480×60%)から、同じくB社へ移動したH事業簿価純資産270(=450×60%)を差し引いた金額が持分変動差額18となります。
一方、A社の立場からは、B社からの移転部分(時価にして288)は、取得となり、H事業簿価純資産270を超える部分はのれんとなります。
【図表14】
イ. 共同支配投資企業(A社)の会計処理
ⅰ. X22年4月1日における、個別財務諸表上の会計処理
ⅱ. X22年4月1日における、連結財務諸表上の会計処理
- 持分変動差額の計上
100%支配していたG事業を、会社分割によりB社に分離することで、持分比率が60%に下落したと考えて、B社へ移行する40%部分より持分変動差額を計上します。
- のれん相当額の認識
B社よりH事業の60%部分を取得することからのれん相当額18を認識しますが、仕訳はなし。 - 持分法投資損益の計上
X23年3月末でW社は利益を上げているので、A社持分比率相当額につき、持分法投資利益を計上します
- のれん償却額の計上
のれんは20年で償却(18÷20≒1)
ウ. 共同支配投資企業(B社)の会計処理
ⅰ. X22年4月1日における、個別財務諸表上の会計処理
ⅱ. X22年4月1日における、連結財務諸表上の会計処理
- 持分変動差額の計上
100%支配していたH事業を、会社分割によりA社に分離することで、持分比率が40%に下落したと考えて、A社へ移行する60%部分より持分変動差額を計上する。
- のれん相当額の認識
A社よりG事業の40%部分を取得することからのれん相当額68を認識しますが仕訳はなし。 - 持分法投資損益の計上
X23年3月末でW社は利益を上げているので、B社持分比率相当額につき、持分法投資利益を計上します。
- のれん償却額の計上
のれんは20年で償却(68÷20≒3)
9.開示
(1) 企業結合会計及び事業分離等会計に係る注記の注意点
従来、企業結合会計基準は、合併、株式交換・株式移転、会社分割、事業譲渡・譲受、現物出資等に対して適用され、連結会計基準は、現金を対価とした子会社株式の取得に対して適用されるものとされていましたが、平成20年改正の企業結合会計基準および連結会計基準において、企業結合に該当する取引はすべて企業結合会計基準が適用されることとされました(結合分離指針31-2)。よって、現金を対価とする子会社株式の取得についても、取引の実態が「企業結合」の定義に当てはまるものであれば、連結財務諸表上、企業結合会計基準および事業分離等会計基準に準拠して注記を行うこととなりました。
(2) 企業結合に係る注記
企業結合に係る注記には、以下のようなものがあります。
<企業結合の注記>
a. 取得による企業結合が行われた場合の注記(企業結合会計基準49)
b. 共通支配下の取引等の注記(企業結合会計基準52)
c. 共同支配企業の形成の注記(企業結合会計基準54)
<事業分離の注記>
d. 事業分離における分離元企業の注記(事業分離等会計基準28)
e. 事業分離が企業結合に該当しない場合の事業分離における分離先企業の注記(連結財規15‐17、財規8‐24)
f. 子会社の企業結合の注記(事業分離等会計基準54)
<後発事象の注記>
g. 企業結合に関する重要な後発事象等の注記(企業結合会計基準55)
h. 事業分離に関する重要な後発事象等の注記(事業分離等会計基準30)
i. 子会社の企業結合に関する後発事象等の注記(事業分離等会計基準56)
<連結財務諸表を作成しない場合の注記>
j. 逆取得となる企業結合が行われた場合の注記(企業結合会計基準50)
k. 段階取得となる企業結合が行われた場合の注記(企業結合会計基準51)
l. 子会社が親会社を吸収合併した場合で子会社が連結財務諸表を作成しない場合の注記(企業結合会計基準53)
この記事に関連するテーマ別一覧
企業結合(平成15年会計基準)
- 第1回: 企業結合会計の範囲と取得の会計処理 (2010.10.01)
- 第2回:組織再編の手法と会計処理の具体例 (2010.10.08)
- 第3回:逆取得の会計処理 (2010.10.15)
- 第4回:共通支配下の取引等の会計処理①(親会社と子会社の合併) (2010.10.22)
- 第5回:共通支配下の取引等の会計処理②(子会社同士の合併) (2010.10.29)
- 第6回:共同支配企業 (2010.11.05)