一株当たり情報 第3回:潜在株式調整後一株当たり情報と一株当たり情報の開示

2014年11月17日 PDF
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 蟹澤 啓輔

1.潜在株式調整後一株当たり当期純利益とは

潜在株式とは、その保有者が普通株式を取得することができる権利もしくは普通株式への転換請求権(またはこれらに準じる権利)が付された証券又は契約のことであり、例えばワラントや転換証券などが含まれます(会計基準9項)。ワラントとは、保有者が普通株式を取得できる権利(またはこれに準じる権利)であり、新株予約権などのことです(会計基準10項)。転換証券とは、新株予約権付社債など、普通株式への転換請求権(もしくはこれに準じる権利)が付された金融負債、及び普通株式以外の株式が含まれます(会計基準11項)。簡略に表現すると、潜在株式とは将来増加する可能性のある普通株式と考えることができます。

潜在株式に係る権利の行使を仮定し、計算式の分母である発行済株式総数が増加した結果、一株当たり当期純利益が下がる場合、当該潜在株式は「希薄化効果を有する」と表現されます。例えば、ストック・オプションとして新株予約権が発行されており、当該新株予約権が権利行使された場合、発行済株式総数が増加し、一株当たり当期純利益が下がることになります。このように希薄化効果は既存の株主に重要な影響を与えることから、希薄化効果を有する潜在株式が存在する場合、当該潜在株式を調整して一株当たり当期純利益を計算し、開示する必要があります。

2.潜在株式調整後一株当たり当期純利益の計算

潜在株式が希薄化効果を有する場合、潜在株式調整後一株当たり当期純利益は、普通株式に係る当期純利益に希薄化効果を有するおのおのの潜在株式に係る当期純利益調整額を加えた合計金額を、普通株式の期中平均株式数に希薄化効果を有するおのおのの潜在株式に係る権利行使を仮定した場合の普通株式増加数を加えた合計株式数で除して算定します(会計基準21項)。

具体的には以下の計算式で計算します。一株当たり当期純利益の計算式に、普通株式増加数と当期純利益調整額を加味して計算することになります。なお、潜在株式が複数存在する場合、最大希薄化効果を反映して算定することになります(会計基準22項)。

潜在株式調整後一株当たり当期純利益の計算
普通株式に係る当期純利益 損益計算書上の当期純利益-普通株式に帰属しない金額(第1回参照)
当期純利益調整額 転換証券が転換されることに伴う税引後費用減少額など、希薄化効果を有する潜在株式に係る当期純利益調整額(会計基準29項)
普通株式の期中平均株式数 普通株式の期中平均発行済株式数-普通株式の期中平均自己株式数(第1回参照)
普通株式増加数 潜在株式に係る権利の行使を仮定したことによる普通株式の増加数(会計基準26項、30項)

なお、潜在株式が存在しない場合、潜在株式が存在していても希薄化効果を有しない場合、一株当たり当期純損失の場合、潜在株式調整後一株当たり当期純利益の開示は行われません(会計基準23項)。

ワラント(新株予約権など)のケース

「1株当たり当期純利益に関する会計基準」においては、ワラントの希薄化効果を反映させるために、期中平均株価が行使価格を上回っている場合に権利行使が行われ、権利行使による入金額は自己株式の買受に使用されると仮定する「自己株式方式」(会計基準56項)を採用しています。ストック・オプションなどで新株予約権が発行されているケースでは、普通株式の期中平均株価が当該新株予約権の基準価格を上回っている場合、希薄化効果を有することになります。

ワラントの場合、潜在株式調整後一株当たり当期純利益算定式分子の当期純利益の調整額はなく、算定式分母のみ調整します。具体的には、算定式分母の普通株式増加数に関して、希薄化効果を有するワラントが期首または発行時において全て権利行使が行われたと仮定した場合に発行される普通株式数から、期中平均株価によって普通株式の買受を行ったと仮定した普通株式数(権利行使の際の払込入金額からワラントが存在する期間の平均株価を除して算定)を控除し算定します(会計基準26項)。期中に消滅、消却、または権利行使されたワラント及び、期中に発行されたワラントについては、原則として日数に応じて算定することになりますが、月数に応じて算定する方法を採用することもできます(適用指針20項)。なお、希薄化効果を有するワラントは、行使期間が開始していない場合でも普通株式増加数の算定上すでに行使期間が開始したものとして取り扱うことになるため留意が必要です(適用指針21項)。

設例-ワラントがある場合の潜在株式調整後一株当たり当期純利益

希薄化効果を有するワラント(新株予約権)があるケースを設例を用いて説明します。設例3に基づくと新株予約権の権利行使の際の払込入金額②は100百万円(=権利行使された新株予約権の数<c>×権利行使時の払込金額<e>)となることから、期中平均株価によって普通株式の買受を行ったと仮定した普通株式数③は125,000株(=権利行使の際の払込入金額②÷期中平均株価<f>)となります。普通株式増加数④は、75,000株(=期首に権利行使が行われたと仮定した場合に発行される株式数①-期中平均株価によって普通株式の買受を行ったと仮定した普通株式数③)となり、潜在株式調整後一株当たり当期純利益⑤は600円/株(=当期純利益<a>/[普通株式の期中平均株式数<b>+普通株式増加数④])と計算されます。

設例3

前提

 a 当期純利益 765百万円
 b 普通株式の期中平均株式数 1,200,000株
c 権利行使された新株予約権の数 200,000個
d 新株予約権の目的となる株式の数 200,000株
e 権利行使時の払込金額(基準価格) 500円/個
f 期中平均株価 800円/株

期首に権利行使が行われたと仮定した場合に発行される株式数
200,000株(=d)

権利行使の際の払込入金額 100百万円(=c×e)
期中平均株価によって普通株式の買受を行ったと仮定した普通株式数 125,000株(=②÷f)
普通株式増加数 75,000株(=①-③)
潜在株式調整後一株当たり当期純利益 600円/株(=a÷[b+④])

転換証券のケース

転換証券が転換された場合、例えば転換社債の利息の支払いが不要になるなど、当期純利益を増加させるケースがあり、転換による当期純利益増加分を当期純利益の調整額とする「転換仮定方式」が採用されています(会計基準57項、適用指針24項)。当期純利益の調整額を転換証券の発行によって増加する株式数で除した金額が、一株当たり当期純利益を下回る場合、結果的に潜在株式調整後一株当たり当期純利益は一株当たり当期純利益を下回ることになるため、当該転換証券は希薄化効果を有するとされます。

転換証券の場合、潜在株式一株当たり当期純利益の算定式分子の当期純利益の調整額は、転換社債などの支払利息額、社債を割引(打歩)発行した場合の償却原価法による当期償却額、利払いに係る事務手数料等の費用の合計額から、当該金額への課税見込み額を控除した金額、及び、優先配当などの転換株式に関連する普通株式に帰属しない金額から構成されます(会計基準29項、適用指針25項)。他方、算定式分母の普通株式増加数は、期首時点において存在する転換証券が全て期首に転換されたと仮定した場合に発行される普通株式数、及び、期中発行された転換社債が全て発行時に転換されたと仮定した場合に発行される普通株式数の合計によって算定されます(会計基準30項)。なお、転換請求期間が期中に満了したものや、期中に償還したもの、期中に転換されたものについても、期首から当該期間満了時、または、償還時、転換時までの期間に応じた普通株式を算定することになります。当該算定は、原則として日数に応じて行うことになりますが、月数に応じて算定する方法を採用することもできます(適用指針26項)。

設例-転換証券がある場合の潜在株式調整後一株当たり当期純利益

希薄化効果を有する転換証券(転換社債)があるケースを設例を用いて説明します。転換社債が転換された場合、当該社債の利払いの必要がなくなることから、利益調整額は転換社債の支払利息額(税引後)を計算することによって算定します。設例4に基づくと、当期純利益調整額④は20百万円(=新株予約権付社債(転換社債型)<c>×転換社債の利子率<e>×[1-実行税率<f>])となります。また、普通株式増加数⑤は、200,000株(=期首時点で転換されたと仮定した場合に発行される普通株式数①)となり、潜在株式調整後一株当たり当期純利益⑥は350円/株(=[当期純利益<a>+利益調整額④]÷[普通株式の期中平均株式数<b>+普通株式増加数⑤ ])と計算されます。

設例4

前提

 a 当期純利益
400百万円
 b 普通株式の期中平均株式数
1,000,000株
c 新株予約権付社債(転換社債型)
800百万円 ※額面発行
d 新株予約権の目的となる株式の数
200,000株
e 転換社債の利子率
5%
f 実行税率
50%

期首時点で転換されたと仮定した場合に発行される普通株式数
200,000株(=d)

転換社債の支払利息額(税引前)
40百万円(=c×e)
転換社債の支払利息額(税引後)
20百万円(=②×[1-f ])
当期純利益調整額
20百万円(=③)
普通株式増加数
200,000株(=①)
潜在株式調整後一株当たり当期純利益 350円/株(=[a+④]÷[b+⑤])

※なお、期中に株式分割(1株を2株に分割)が行われた場合、期首に株式分割が行われたと仮定するため、b普通株式の期中平均株式数が2,000,000株になり、⑤普通株式増加数が400,000株となることから、潜在株式調整後一株当たり当期純利益は175円/株と計算されます。

3. 一株当たり情報の開示

一株当たり情報は投資家等の利害関係者にとって重要な意思決定情報になるため、有価証券報告書、四半期報告書等の開示書類において、複数の箇所で記載が行われます。

例として有価証券報告書における開示箇所及び開示内容を示すと下記の通りです。

記載箇所
記載内容
第一部【企業情報】第1【企業の概況】
1【主要な経営指標等の推移】
連結経営指標等/提出会社の経営指標等
  • 1株当たり純資産額
  • 1株当たり当期純利益金額又は純損失金額
  • 潜在株式調整後株1当たり当期純利益金額
第一部【企業情報】第5【経理の状況】
【連結財務諸表等】/【財務諸表等】
【注記表】(1株当たり情報)
  • 1株当たり純資産額(及び算定上の基礎(※1))
  • 1株当たり当期純利益金額又は純損失金額及びその算定上の基礎(※2)
  • 潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額及びその算定上の基礎(※3)

(※1)1株当たり純資産額(及び算定上の基礎) 一株当たり純資産額の算定上の基礎については、以下の事項を注記することが望ましいとされています(適用指針40項)

  • 貸借対照表上の純資産の部の合計額と一株当たり純資産額の算定に用いられた普通株式に係る期末の純資産額の差額の主要な内訳
  • 一株当たり純資産額の算定に用いられた期末の普通株式の数の種類別の内訳

(※2)1株当たり当期純利益金額又は純損失金額及びその算定上の基礎(会計基準33項、適用指針38項)

  • 損益計算書上の当期純利益金額又は当期純損失金額、1株当たり当期純利益金額又は当期純損失金額の算定に用いられた普通株式に係る当期純利益金額又は当期純損失金額及びこれらの差額(普通株主に帰属しない金額)の主な内訳
  • 1株当たり当期純利益金額又は当期純損失金額の算定に用いられた普通株式及び普通株式と同等の株式の期中平均株式数の種類別の内訳

(※3)潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額及びその算定上の基礎(会計基準33項、適用指針38項、39項)

  • 潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額の算定に用いられた当期純利益調整額の主な内訳
  • 潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額の算定に用いられた普通株式増加数の主な内訳
  • 希薄化効果を有しないため、潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額の算定に含まれなかった潜在株式については、その旨、潜在株式の種類及び潜在株式の数等

潜在株式が存在しない場合の注記

潜在株式が存在しない場合、当期純損失の場合は、潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額の注記を行わない旨を記載することになります。

期中に株式併合又は株式分割が行われた場合の注記

期中に株式併合又は株式分割が行われた場合、以下の注記を記載する必要があります(会計基準31項)。

  • 株式併合又は株式分割が行われた旨
  • 表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首に株式併合又は株式分割が行われたと仮定して1株当たり当期純利益金額又は当期純損失が算定されている旨

一株当たり情報の記載例

一株当たり情報を有価証券報告書に記載する場合の記載例を紹介します。なお、記載している数値は、「2.潜在株式調整後一株当たり当期純利益の計算」の設例4に記載している例を使用しています。

  当事業年度
自 平成○○年4月 1日
至 平成○×年3月31日
一株当たり純資産額
××円
一株当たり当期純利益金額
400.00円
潜在株式調整後
一株当たり当期純利益金額
350.00円

(注)一株当たり当期純利益金額及び潜在株式調整後一株当たり当期純利益金額の算定上の基礎は、以下の通りです。

  当事業年度
自 平成○○年4月 1日
至 平成○×年3月31日
一株当たり当期純利益金額
 
 当期純利益(百万円) 400
 普通株主に帰属しない金額(百万円)
 普通株式に係る当期純利益(百万円) 400
 普通株式の期中平均株式数(株) 1,000,000
   
潜在株式調整後一株当たり当期純利益金額  
 当期純利益調整額(百万円) 20
 (うち支払利息(税額相当額控除後))(百万円) 20
 普通株式増加数(株) 200,000
 (うち転換社債型新株予約権付社債(株)) 200,000
 (うち新株予約権(株))
希薄化効果を有しないため、潜在株式調整後一株当たり当期純利益金額の算定に含めなかった潜在株式の概要

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