金融商品 第6回:複合金融商品

2020年3月31日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野貴允

18.複合金融商品会計

(1) 複合金融商品

金融商品会計は、金融資産、金融負債を対象としていますが、これらを複数組み合わせることで、新たに組成される金融商品も対象としています。デリバティブが内在している預金や貸出金、ある種の仕組債や新株予約権付社債などがこれに当たり、これらを、複合金融商品といいます。
こうした複合金融商品に関する会計処理のポイントは、複数内在するおのおのの金融商品をそれぞれ区分して経理処理する(区分法)か、あるいは、一体のものとして経理処理する(一括法)か、いずれかが適用されるかという点です。
金融商品会計基準では、複合金融商品について、「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品」と「その他の複合金融商品」に区分した上で、それぞれの処理方法を定めています。

<複合金融商品の分類と金融商品会計基準等の関係>

分類 金融商品会計基準等
払込資本を増加させる可能性のある部分を含む ・金融商品に関する会計基準   35-39,112-115
・金融商品会計に関するQ&A   Q59-3
・金融商品会計に関する実務指針   185-2-187
・企業会計基準適用指針 第17号
「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」
その他(上記以外) ・金融商品に関する会計基準   40,116-118
・金融商品会計に関するQ&A   Q60-Q62,Q66
・企業会計基準適用指針 第12号
「その他の複合金融商品(払込資本を増加させる可能性のある部分を含まない複合金融商品)に関する会計処理」

(2) 払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品

企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下、適用指針17号)では、複合金融商品のうち、払込資本を増加させる可能性がある部分を含むものとして、新株予約権付社債を取り上げ、適用すべき会計処理方法を明示しています。
そもそも新株予約権付社債とは、株式を一定の条件で取得するための権利である新株予約権を付与された社債ですが、新株予約権と社債という複数の金融商品から組成されていると考えられるため、新株予約権付社債もまた、複合金融商品として取り扱われています。
こうした、契約の一方の当事者(新株予約権付社債の場合は発行者)の払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品については、払込資本を増加させる可能性のある部分とそれ以外の部分の価値をそれぞれ認識することができるのであれば、それぞれの部分を別個に会計上も認識することが合理的であると考えられます。
しかし、転換社債型新株予約権付社債のように、新株予約権と社債がそれぞれ単独で存在し得ないような場合には、払込資本を増加させる可能性のある部分とそれ以外を区分して処理する必要性が乏しいことから、一括法により処理することも認められています(ただし、取得者側については、一括法のみが認められています金融商品会計基準第112項、113項)。

<新株予約権付社債の会計処理>

  転換社債型 その他
発行者 区分法 いずれかの方法で処理 区分法
一括法
取得者 一括法 区分法

(3) 自己新株予約権の会計処理

自己新株予約権とは、自らが発行した新株予約権を自らが取得する場合を想定したもので、会計処理は次のようになります。

<自己新株予約権の会計処理>

取得時 取得した自己新株予約権の時価に取得時の付随費用を加算して算定します。取得時には損益を計上しません(適用指針17号第11項)。
保有時

取得原価による帳簿価額を、純資産の部の「新株予約権」から原則として直接控除します。なお、間接控除する場合には、純資産の部において新株予約権の直後に、自己新株予約権の科目をもって表示します(適用指針17号第13項)。

 <保有時の注記事項>

  • 保有する自己新株予約権に関する注記を株主資本等変動計算書に行います(「株主資本等変動計算書に関する会計基準の適用指針」第13項(3))。

 <損失として処理する場合>

  • 自己新株予約権の帳簿価額が、対応する新株予約権の帳簿価額を超える場合において、当該自己新株予約権の時価が著しく下落し、回復する見込みがあると認められないときは、時価との差額(ただし、自己新株予約権の時価が、対応する新株予約権の帳簿価額を下回るときは、当該自己新株予約権の帳簿価額と当該新株予約権の帳簿価額との差額)を当期の損失として処理します(適用指針17号第14項)。自己新株予約権の帳簿価額が、対応する新株予約権の帳簿価額を超える場合において、当該自己新株予約権の時価が著しく下落し、回復する見込みがあると認められないときは、時価との差額(ただし、自己新株予約権の時価が、対応する新株予約権の帳簿価額を下回るときは、当該自己新株予約権の帳簿価額と当該新株予約権の帳簿価額との差額)を当期の損失として処理します(適用指針17号第14項)。
  • 自己新株予約権が処分されないものと認められるときは、当該自己新株予約権の帳簿価額と対応する新株予約権の帳簿価額との差額を当期の損失として処理します(適用指針17号第14項)。
消却時 消却した自己新株予約権の帳簿価額とこれに対応する新株予約権の帳簿価額の差額を、自己新株予約権消却損(又は自己新株予約権消却益)等の適切な科目をもって当期の損益として処理します(適用指針17号第16項)。
処分時 受取対価と処分した自己新株予約権の帳簿価額との差額を、自己新株予約権処分損(又は自己新株予約権処分益)等の適切な科目をもって当期の損益として処理する(適用指針17号第17項)。

連結財務諸表における会計処理

(イ)発行会社が親会社で保有会社が親会社の場合

(ロ)発行会社が連結子会社で保有会社が当該連結子会社の場合

(ハ)親会社又は連結子会社が発行した新株予約権をその他の連結会社が保有している場合

(イ)と(ロ)の場合は、個別財務諸表と同様の処理で、連結財務諸表上、自己新株予約権として計上します(適用指針17号第15項)。

連結財務諸表における会計処理

(ハ)の場合は、連結会社相互間の債権・債務の相殺消去に準じて処理します(適用指針17号第15項後段)。

連結財務諸表における会計処理

<まとめ>

発行会社 保有会社 会計処理
親会社 親会社 連結財務諸表上、自己新株予約権として計上
(個別財務諸表と同様の処理)
連結子会社
当該連結子会社
親会社 その他の連結会社 連結会社相互間の債権・債務の相殺消去に準じて処理
連結子会社

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