金融商品 第1回:金融商品の定義、会計基準の適用範囲

2020年3月31日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸聡
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 湯本純久
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 中村崇
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 水野貴允

1.金融商品の定義

(1)金融商品

「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計基準)第1項において、「本会計基準は、金融商品に関する会計処理を定めることを目的とする。」とされています。
従って、金融商品会計基準の適用範囲となる「金融商品」とは何かということが重要になりますので、まず、金融商品の定義を確認します。

金融商品とは...
金融商品会計基準の定義 「金融商品会計に関する実務指針」(以下、実務指針)の定義
金融資産、金融負債及びデリバティブ取引に係る契約を総称したもの(金融商品会計基準第52項) ①一方の企業に金融資産を生じさせ他の企業に金融負債を生じさせる契約
②一方の企業に持分の請求権を生じさせ他の企業にこれに対する義務を生じさせる契約(株式その他の出資証券に化体表章される契約)(実務指針第3項)。

金融商品会計基準の定義は取引当事者間の一方から見たものとなっていますが、実務指針においては、二企業間で締結されるという面に言い換えて定義されています。
また、持分についての請求権は金融資産ですが、当該請求権に対応する義務は資本であり、金融負債としてくくれないため、他の一方に資本や持分の義務を生じさせる契約も含まれるということが補足されています(実務指針第211項)。

(2)金融資産、金融負債、デリバティブ

上記のとおり金融商品の定義は「金融資産、金融負債及びデリバティブ取引に係る契約を総称したもの」とされているため、次に金融資産、金融負債、デリバティブ取引それぞれの定義を確認します。

a.金融資産

金融資産は金融商品会計基準及び実務指針において、下記のように定義されています。

金融資産とは...
金融商品会計基準の定義 実務指針の定義
現金預金、受取手形、売掛金及び貸付金等の金銭債権、株式その他の出資証券及び公社債等の有価証券並びに先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引(以下「デリバティブ取引」という。)により生じる正味の債権等(金融商品会計基準第4項) 現金、他の企業から現金若しくはその他の金融資産を受け取る契約上の権利、潜在的に有利な条件で他の企業とこれらの金融資産若しくは金融負債を交換する契約上の権利、又は他の企業の株式その他の出資証券(実務指針第4項)。

金融商品会計基準では具体的な項目を例示する定義となっており、実務指針では抽象的な定義となっています。
これらの金融資産の定義を整理し、具体的に例示すると下記のとおりになります。

項目 例示
現金 現金、外国通貨、当座小切手
他の企業から現金を受け取る契約上の権利 預金、金銭債権(受取手形、売掛金、貸付金等)、公社債等の有価証券
他の企業から現金以外の金融資産を受け取る契約上の権利 金銭債権の受領権(債権流動化に伴う譲受人の受領権等)
他の企業の持分権の請求権(株式申込証拠金、有価証券売買に伴う買手側の請求権等)
潜在的に有利な条件で他の企業と金融資産もしくは金融負債を交換する契約上の権利 デリバティブ取引(先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引)により生じた正味の債権
他の企業の株式その他の出資証券 株式、その他の出資証券

b.金融負債

金融負債は金融商品会計基準及び実務指針において、下記のように定義されています。

金融負債とは...
金融商品会計基準の定義 実務指針の定義
支払手形、買掛金、借入金及び社債等の金銭債務並びにデリバティブ取引により生じる正味の債務等(金融商品会計基準第5項) 他の企業に金融資産を引き渡す契約上の義務又は潜在的に不利な条件で他の企業と金融資産若しくは金融負債(他の企業に金融資産を引き渡す契約上の義務)を交換する契約上の義務(実務指針第5項)。

金融資産の定義同様、金融商品会計基準では具体的な項目を例示する定義となっており、実務指針では抽象的な定義となっています。
これらの金融負債の定義を整理し、具体的に例示すると下記のとおりになります。

項目 例示
他の企業に現金を引き渡す契約上の義務 金銭債務(支払手形、買掛金、借入金、社債等)
他の企業にその他(現金以外)の金融資産を引き渡す契約上の義務 金銭債権の引渡義務(債権流動化に伴う譲渡人の引渡義務等)
金銭債務の引受義務(債務引受に伴う譲受人の引受義務等)
他の企業の持分権の引渡義務(有価証券売買に伴う売手側の引渡義務等)
潜在的に不利な条件で他の企業と金融資産もしくは金融負債を交換する契約上の義務 デリバティブ取引(先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引)により生じた正味の債務

c.デリバティブ取引

デリバティブ取引とは、先物取引、先渡取引、オプション取引、スワップ取引及びこれらに類似する取引の総称です(金融商品会計基準第4項)。デリバティブは金融派生商品とも呼ばれ、基礎となる商品の価格の変化に対応して価値が変化するものであり、純額で現金、その他の金融資産やデリバティブを授受する権利又は義務を生じる契約です。
デリバティブとは、次のような特徴を有する金融商品とされています(実務指針第6項)。

(ア)その権利義務の価値が、特定の金利、有価証券価格、現物商品価格、外国為替相場、各種の価格等(基礎数値と呼ばれる。)の変化に反応して変化するa.基礎数値を有し、かつ、b.想定元本か固定若しくは決定可能な決済金額のいずれか又は想定元本と決済金額の両方を有する契約。
(イ)当初純投資が不要であるか、又は市況の変動に類似の反応を示すその他の契約と比べ当初純投資をほとんど必要としない。
(ウ)その契約条項により純額(差金)決済を要求若しくは容認し、契約外の手段で純額決済が容易にでき、又は資産の引渡しを定めていてもその受取人を純額決済と実質的に異ならない状態に置く。

2.会計基準の適用対象

(1)会計基準の適用範囲

金融商品会計基準では、金融商品をその適用対象としていますが、金融商品の定義を満たすものであっても、他の会計基準が適用されるものについては、金融商品会計基準は適用されません。実務指針において、会計基準の適用対象となる取引が例示されています。

適用対象を整理すると以下のようになります。

適用対象 有価証券の消費貸借契約・消費寄託契約(実務指針第9項)
建設協力金等の差入預託保証金(実務指針第10項)
商品ファンド(実務指針第11項)
ゴルフ会員権(実務指針第12項)
債務保証契約(実務指針第15項)
クレジット・デリバティブ(実務指針第16項)
ウェザー・デリバティブ(実務指針第17項)
当座貸越契約及び貸出コミットメント(実務指針第19項)
コモディティ・デリバティブ(実務指針第20項)
適用対象外 保険契約(実務指針第13項)
退職給付債務「退職給付に係る会計基準」が適用されます(実務指針第14項)
リース取引「リース取引に関する会計基準」が適用されます(実務指針第18項)
不動産の証券化(実務指針第21項)
証券化の対象となった不動産は金融資産ではないため、不動産の証券化は対象外となります。
ただし、特別目的会社が発行した社債、優先出資証券等は有価証券であるため、適用対象となります。

(2)有価証券の範囲

金融商品会計基準における有価証券の範囲は、原則として金融商品取引法に定義される有価証券に基づきますが、一部例外的な取扱いが示されています。
金融商品取引法上の有価証券の定義には該当しないものの、これに類似するもので活発な市場のあるもの(国内CD(譲渡性預金)等)は有価証券として取り扱います。
一方、金融商品取引法上の有価証券であっても、信託受益権(金融商品取引法2条2項1号及び2号に該当するものに限る)については、信託受益権が優先劣後等のように質的に分割され、その保有者が複数である場合などを除いて、質的に単一の場合は信託財産構成物を受益者が持分に応じて直接保有するのと同様の評価を行い、有価証券として取り扱わないこととされています(実務指針第8項、金融商品会計に関するQ&A Q1)。

  金融商品取引法の取扱い 金融商品会計基準の取扱い
・国内CD 有価証券として取り扱わない 有価証券として取り扱う
・信託受益権(金融商品取引法2条2項1号及び2号に該当するものに限る) 有価証券として取り扱う 有価証券として取り扱わない
(上記の信託受益権の例外を除く)

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