公認会計士 伊藤 毅
公認会計士 友行貴久
1. 債権の評価
【ポイント】
債権の価値を貸借対照表に正しく反映させるには「キャッシュで回収できなくなってしまう部分」の見積額を、貸倒引当金として債権価額から差し引く必要があります。
ここで債権とは金銭債権のことであり、営業債権である売掛金や受取手形のほか、未収金、貸付金等が挙げられます。これら債権は、通常、近い将来に「キャッシュで回収する」ものであり、有価証券のように活発な市場で時価が形成されるものではないため、基本的に時価評価はされません。
ただし、債務者の支払能力の低下により、将来において「キャッシュで回収できなくなってしまう部分」が生じることが見込まれる場合には、債権の価値を貸借対照表上で正しく示すために、この「キャッシュで回収できなくなってしまう部分」の見込額を債権の金額から差し引く必要があります。そこで、その際に用いられる勘定科目が貸倒引当金になります。
図4-1
(例)売掛金100のうち、キャッシュで回収できなくなってしまう部分が20と見積れる場合
2. 債権の分類
【ポイント】
債権のうち「キャッシュで回収できなくなってしまう部分」は債務者の支払能力によって決まると考えられます。金融商品会計では、債務者の状態に応じて債権を①一般債権②貸倒懸念債権③破産更生債権等に分類します。
一般的に、債権のうち「キャッシュで回収できなくなってしまう部分」は債務者の支払能力がどれだけあるか、によって決まってくるものと考えられます。当然ですが、支払能力の高い債務者であれば貸し倒れの危険性は低くなり、逆に、支払能力の低い債務者であれば貸し倒れの危険性は高くなるといえます。そこで、金融商品会計では債権を債務者の状態に応じて①一般債権②貸倒懸念債権③破産更生債権等の3種類に分類して、それぞれに対して貸倒見積高を計算することとしています。
図4-2
①一般債権
「経営状態に重大な問題が生じていない債務者」
に対する債権
②貸倒懸念債権
「経営破綻の状況には至っていないが、
債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性の高い債務者」
に対する債権
③破産更生債権等
「経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者」
に対する債権
3. 貸倒引当金の計算方法
【ポイント】
債権の分類に応じて貸し倒れの危険度は異なるため、計上するべき貸倒引当金の金額も異なります。金融商品会計では貸倒実績率法、キャッシュ・フロー見積法、財務内容評価法が定められています。
金融商品会計では債権の貸し倒れのリスクに応じて、貸倒実績率法、キャッシュ・フロー見積法、財務内容評価法の3種類の貸倒見積高の計算方法を定めています。なお、①一般債権②貸倒懸念債権③破産更生債権等とこれら3種類の計算方法の対応関係は以下の図のようになります。
図4-3
※貸倒懸念債権は債権の状況に応じてキャッシュ・フロー見積法か財務内容評価法のどちらかを選択します。
(1)貸倒実績率法
【ポイント】
貸倒実績率法とは基本的に債権全体に対して、過去の貸倒実績率等により貸倒見積高を算定する方法です。
貸倒実績率法は貸し倒れのリスクが低い一般債権に対して適用する計算方法です。一般債権に区分される相手先は通常多いことが考えられるため、個々の相手先ごとに貸倒見積高を計算することは非常に煩雑であると考えられます。そこで、金融商品会計では債権全体に対して過去の貸倒実績率を掛けることにより簡便的に貸倒見積高を計算する方法が採用されています。ここで貸倒実績率とは過去2~3算定期間に係る貸倒実績率の平均値が採用されています。
図4-4
上記の算定期間に係る貸倒実績率の平均値を計算して貸倒実績率を算定します。
1期を基準年度とする貸倒実績率=30÷1,000=3%
2期を基準年度とする貸倒実績率=20÷2,000=1%
3期を基準年度とする貸倒実績率=30÷1,500=2%
4期の決算で貸倒引当金の計算に使用する貸倒実績率=(3%+1%+2%)/3=2%
(2)キャッシュ・フロー見積法
【ポイント】
キャッシュ・フロー見積法とは、将来のキャッシュ・フロー(債権の元本の回収及び利息の受け取り)について、当初の約定利子率で現在価値に割り引いた金額の総額と債権価額との差額を貸倒見積高とする方法です。
貸し倒れのリスクがある程度以上高いと認められる債権については、一般債権のように一定率を用いて簡便的に貸倒見積高を計算するのではなく、個々の相手先ごとにそのリスクに応じて貸倒見積高を計算することが必要となります。金融商品会計では、貸倒懸念債権に区分される相手先については、将来回収されるキャッシュ・フローの見積額を現在の価値に割り引いた合計額を、債権額が超える部分について貸倒見積高とする方法を定めています。
なお、貸倒懸念債権についてはキャッシュ・フロー見積法と財務内容評価法(後述)の選択適用が認められています。
図4-5
(例)期末後3年間にわたり原本の回収がなされる場合
※債権の発生当初の約定利子率をxとします。
(3)財務内容評価法
【ポイント】
財務内容評価法とは、債権額から担保の処分見積額及び保証による回収見込額等を減額した残高について、債務者の支払能力等の状況を考慮して貸倒見積高を算定する方法です。
財務内容評価法とは、貸し倒れのリスクがある程度以上高いと認められる債権について、相手先の現在の支払能力等の状況(資金繰りの状況や、貸借対照表の純資産の金額の程度、流動資産と流動負債の比率等)を考慮して貸倒見積高を算定する方法です。財務内容評価法では、担保の処分見積額及び保証による回収見込額等といった確実に回収できると想定される金額については貸倒見積高からは除かれます。
4.ゴルフ会員権の評価
【ポイント】
ゴルフ会員権の価値が著しく下落した場合(50%以上の下落)、回復可能性があると認められる場合を除いて、減損処理を行います。
ゴルフ会員権は、ゴルフ場の運営会社の発行する株式や、当該会社に対する預託保証金等から構成されており、施設利用権を表すものです。株式や預託保証金は金融資産なので、これらから構成されるゴルフ会員権は金融商品会計基準の対象となります。
ゴルフ会員権は株券等と異なり時価評価はせずに取得原価をもって計上し、価値が著しく下落した場合に減損処理をします。というのも、ゴルフ会員権の時価としては流通業者の公表する相場がありますが、これは株式市場の「株価」に比べると取引量が少なく時価の信頼性等が劣ると考えられるためです。ただし、このようなゴルフ会員権の相場も減損の検討に当たっては、価値の著しい下落の有無を判定する指標として用いられることになります。
(1)株券形態の場合
【ポイント】
ゴルフ会員権が株券形態で発行されている場合で減損処理をする際には、取得価額と時価(時価がない場合は実質価額)との差額を評価損として計上します。
ゴルフ会員権が株券形態で発行されている場合において、ゴルフ会員権の価値が取得価額よりも50%以上下落している場合には、その下落額をゴルフ会員権評価損として減損処理をする必要があります。なお、会員権に時価がある場合には時価で評価しますが、時価がない場合にはゴルフ場運営会社の財政状態に応じて評価をする必要があります。そのため、この場合にはゴルフ場運営会社の貸借対照表をベースにして、基本的に1株当たりの純資産額に持株数を乗じてゴルフ会員権の実質価額を計算することになります。
図4-8
(例)ゴルフ会員権を100で取得、期末の時価が40の場合
(2)預託保証金方式の場合
【ポイント】
ゴルフ会員権が預託保証金方式で発行されている場合で、時価のあるものについて著しい時価の下落が生じるか、時価を有しないものについて発行会社の財政状態が著しく悪化した際には、有価証券に準じた減損処理を行います。なお、預託保証金のうちキャッシュで回収できなくなってしまう部分は貸倒引当金を計上します。
ゴルフ会員権が預託保証金方式で発行されている場合において、ゴルフ会員権の価値が取得価額よりも50%以上下落している場合には、株券方式と同様にその下落額を減損処理する必要があります。この場合、預託保証金部分を上回る部分については評価損を計上し、預託保証金部分の範囲内については預託保証金に対する貸倒引当金を計上することになります。預託保証金は敷金のように債権としての性質があるため、回収可能性を検討し、「キャッシュで回収できなくなってしまう部分」の見込額については貸倒引当金を計上する必要があります。
これにより、価値の下落額が預託保証金部分に食い込む場合には、P/Lにおいてゴルフ会員権評価損と貸倒引当金繰入額が両建てで計上されることになります。
なお、この場合においても、会員権に時価がある場合には時価で評価しますが、時価がない場合にはゴルフ場運営会社の財政状態に応じて評価をする必要があります。すなわち、ゴルフ場運営会社の純資産の状況やキャッシュ・フローの状況等を基に回収可能性を評価することになります。
図4-9
(例)ゴルフ会員権を100で取得(うち、預託保証金部分60)、期末の時価が40の場合
この記事に関連するテーマ別一覧
わかりやすい解説シリーズ「金融商品」
- 第1回:金融商品の定義と金融商品会計基準の適用範囲 (2012.10.08)
- 第2回:有価証券の評価 (2012.10.15)
- 第3回:有価証券の減損 (2012.10.22)
- 第4回:貸倒引当金、ゴルフ会員権の評価 (2013.05.24)
- 第5回:デリバティブとヘッジ会計 (2013.07.23)