EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 井澤依子
3.資産除去債務の計上基準
(1) 資産除去債務の負債計上
資産除去債務は、有形固定資産の取得、建設、開発または通常の使用によって発生したときに負債として計上します。資産除去債務の発生時に、当該債務の金額を合理的に見積もることができない場合には、これを計上せず、当該債務額を合理的に見積もることができるようになった時点で負債として計上します(会計基準5)。
資産除去債務を合理的に見積もることができない場合とは、決算日現在入手可能なすべての証拠を勘案し、最善の見積もりを行ってもなお、合理的に金額を算定できない場合をいいます(適用指針2)。また、資産除去債務の履行時期を予測することや、将来の最終的な除去費用を見積もることが困難であるため、合理的に資産除去債務を算定できない場合もありますが、このような場合も、当該債務の金額を合理的に見積もることができない場合に該当します(会計基準35)。
(2) 資産除去債務の算定
資産除去債務は、それが発生したときに有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローを見積もり、割引後の金額(割引価値)で算定します。
① 割引前の将来キャッシュ・フローの算定
有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローの見積もりは、合理的で説明可能な仮定および予測に基づく自己の支出見積もりにより算定します(会計基準6(1))。将来キャッシュ・フローには、有形固定資産の除去に係る作業のために直接要する支出のほか、処分に至るまでの支出(例えば、保管や管理のための支出)も含まれますが、法人税等の影響額は含まれないとされます(適用指針4)。具体的には、次の情報を基礎として、割引前の将来キャッシュ・フローを見積もることとなります(適用指針3)。
(ア) 対象となる有形固定資産の除去に必要な平均的な処理作業に対する価格の見積もり
(イ) 対象となる有形固定資産を取得した際に、取引価額から控除された当該資産に係る除去費用の算定の基礎となった数値
(ウ) 過去において類似の資産について発生した除去費用の実績
(エ) 当該有形固定資産への投資の意思決定を行う際に見積もられた除去費用
(オ) 有形固定資産の除去に係る用役(除去サービス)を行う業者など第三者からの情報
次に、(ア)から(オ)により見積もられた金額について、インフレ率や見積値から乖離(かいり)するリスクを勘案します。また、合理的で説明可能な仮定および予測に基づき、技術革新などによる影響額を見積もることができる場合には、これを反映させることとなります。
有形固定資産の除去に要する割引前の将来キャッシュ・フローの見積もりは、生起する可能性の最も高い単一の金額または生起し得る複数の将来キャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額として算定されます。
② 無リスクの割引率
割引率は、将来キャッシュ・フローが発生すると予想される時点までの期間に対応する貨幣の時間価値を反映した無リスクかつ税引前の利率とされます(会計基準6(2)、適用指針5、23)。無リスクであるのは、将来キャッシュ・フローがその見積値から乖離するリスクについては、将来キャッシュ・フローの見積もりに反映されることからであり、無リスクの割引率の例示として、将来キャッシュ・フローが発生するまでの期間に対応した利付国債の流通利回りなどが挙げられています(適用指針23)。
(3) 資産除去債務に対応する除去費用の資産計上と費用配分
資産除去債務に対応する除去費用は、資産除去債務を負債として計上したときに、当該負債の計上額と同額を、関連する有形固定資産の帳簿価額に加えます。資産計上された資産除去債務に対応する除去費用は、減価償却を通じて、当該有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分されます(会計基準7)。
資産除去債務が有形固定資産の稼動等に従って、使用の都度発生する場合には、資産除去債務に対応する除去費用を各期においてそれぞれ資産計上し、関連する有形固定資産の残存耐用年数にわたり、各期に費用配分します(会計基準8)。なお、この場合には、上記の処理のほか、除去費用をいったん資産に計上し、当該計上時期と同一の期間に、資産計上額と同一の金額を費用処理することもできます(会計基準8なお書き)。
時の経過による資産除去債務の調整額は、その発生時の費用として処理します。当該調整額は、期首の負債の帳簿価額に当初負債に計上したときの割引率を乗じて算定します(会計基準9)。
有形固定資産の取得原価と、資産除去債務の計上および時の経過による資産除去債務の調整額について、図表化して示すと図表1のようになります。なお、有形固定資産の取得時点において、資産除去債務が認識されたという想定です。
図表1
有形固定資産の取得価額と割引後の資産除去債務の金額の合計額が有形固定資産の取得原価を構成するため、減価償却を通じて各期に費用配分されます。一方、時の経過による資産除去債務の調整額は、時の経過に応じて費用計上されるとともに負債(資産除去債務)の増加として計上されます。
4.具体的な資産除去債務の会計処理
適用指針には、設例が8個紹介されていますが、そのうち〔設例1〕に則して、資産除去債務の会計処理について解説したいと思います。
(1) 資産除去債務の計上
有形固定資産の購入価額を10,000(耐用年数は5年:定額法)、資産除去債務と資産除去債務に対応する費用を1,000とする場合、当該有形固定資産計上時の仕訳は以下のとおりです。
当該有形固定資産の購入時点をある事業年度の期首とし、購入時点から資産除去債務を合理的に見積もることができることを前提としています。また割引率は3%としており、資産除去債務として計上される将来キャッシュ・フローの見積額は、以下の計算式となります。
将来キャッシュ・フロー見積額 = 1,000 / (1.03) ⁵
有形固定資産の購入と資産除去債務計上直後の状態を貸借対照表で示すと図表2のようになります。
図表2:有形固定資産購入・資産除去債務計上直後の貸借対照表
(固定資産取得と資産除去債務計上に係る部分のみ)
(2) 時の経過による資産除去債務の調整額の計上と減価償却
決算期末には、時の経過による資産除去債務の調整額と減価償却費を計上します。
- 時の経過による資産除去債務の調整額の計上
時の経過による資産除去債務の調整額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します(会計基準13)。
計算式 : 863 × 3% = 25.89
この調整額は、退職給付会計における利息費用と同様の性格を有するものと理解されます(会計基準48)。
- 減価償却費の計上
有形固定資産の取得原価10,863を5で除して算定します。資産計上された資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額は、損益計算書上、当該資産除去債務に関連する有形固定資産の減価償却費と同じ区分に含めて計上します。
図表化すると以下のとおりです(図表3)。
図表3:取得後最初の決済における時の経過による資産除去債務の調整額の計上と減価償却
先の仕訳につき、図表で示すと以下のようになります(図表4)。
図表4
(3) 除却時の会計処理
5年の耐用年数の経過後の状態を貸借対照表形式で示すと図表5のようになります。
図表5:耐用年数の終了後、除却処分直前の貸借対照表の一部
除却する場合の仕訳は以下のとおりです。実際の除却費用は、見積りと異なるため、差額が生じています。資産除去債務の履行時に認識される資産除去債務残高と資産除去債務の決済のために実際に支払われた額との差額は、損益計算書上、原則として、当該資産除去債務に対応する除去費用に係る費用配分額と同じ区分に含めて計上することとされます。
- 有形固定資産の除却
- 資産除去債務の履行
この記事に関連するテーマ別一覧
資産除去債務の会計処理
- 第1回:資産除去債務の会計処理の概要 (2012.04.06)
- 第2回:資産除去費用と資産除去債務の計上 (2012.04.06)
- 第3回:見積りの変更 (2021.01.29)
- 第4回:開示 (2021.01.29)