現実になりつつあるサステナブルな未来を待ち望んでいるか

執筆者
Randall Miller

EY Global Advanced Manufacturing & Mobility Leader

Passionate about manufacturing, mobility and disruption. Champion for women and diversity & inclusiveness in the Advanced Manufacturing & Mobility industries.

David Borland

EY UK&I Automotive Leader

Passionate about the automotive industry and delivering innovative solutions for clients. Outside of work, focused on family and community. Enjoys sports.

Gaurav Batra

EY Global Advanced Manufacturing & Mobility Analyst Leader, EY Knowledge

Passionate about mobility disruption. Helping share the auto industry narrative in this disruptive landscape.

投稿者
8 分 2021年12月6日

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行により、消費者の環境に配慮した生活や電気自動車(EV)購入への関心が高まっています。本記事では、EY Mobility Costumer Index(MCI)の調査結果をもとに解説します。

要点
  • 最新の調査「EY Mobility Consumer Index」によると、次に購入する自動車の選択肢としてEVへの関心が高まっている
  • 課題は、この消費者心理の変化を行動に転換させる
  • サステナブルなEVを選択したいという新たなトレンドの障壁となるのは、コスト、航続距離、充電インフラに関する懸念


COVID-19は混乱と苦しみをもたらす一方で、自動車業界にとっては、EVの普及を拡大させるきっかけにもなり得ます。消費者の意識は急速に変化しています。この1年半の間に、世界中の大勢の人々が環境問題への関心を再燃させ、以前にも増して、サステナビリティが自らの移動に関する最優先課題とする意識を高めています。最新のEY Mobility Consumer Index(MCI)(英語版のみ)の調査結果によると、新車購入意向者の41%がEVを積極的に検討しており、そのうち66%が今後12カ月以内にEVを購入する意向であることがわかりました。これほど大きな購買心理の変化は、過去あまり例がありません。

EV

41%

の新車購入意向者が積極的にEVを検討している。

自動車業界や政府にとっての共通の課題は、このような消費者心理の変化を、いかにして行動に転換させるかということです。クリーンでグリーンなEVの未来は近いものの、コスト、航続距離、充電インフラなどの障壁が依然一部存在します。ただし、これらの中には実態より深刻に捉えられているものもあるでしょう。このような普及を妨げる障壁、および、障壁への対応としての自動車メーカー、業界パートナー、政府が取り得る施策を理解する必要があります。それが、サステナビリティが牽引するEV普及拡大の鍵となるでしょう。


            車で移動する家族
(Chapter breaker)
1

第1章

主役は(電気)自動車

消費者は安全でサステナブルな移動手段を求めており、EVが望ましい選択肢となるだろう。

在宅勤務、バーチャルなコミュニケーション、宅配サービスの増加により、日常的な移動の多くが不要になったとはいえ、消費者は一カ所に留まるより移動することを望んでいます。より安全でよりサステナブルに移動したいと考える消費者にとって、EVは、有望な選択肢となります。業務上の移動を除き、移動量はCOVID-19以前の水準に戻ると見られており、業務関連の移動の14%が、今後は回避されることが予想されています。感染リスクへの懸念が、依然として消費者の移動手段の選択に大きく影響しており、マイカーが安全で感染リスクの低い移動手段として好まれるようになりました。現在の自動車所有者と将来的に所有を予定している人の半数以上(56%)が、マイカーを日常的に利用できることが極めて重要であると回答しました。また、現在自動車を所有していない人の38%が、購入を予定していると回答しており、昨年のパンデミック初期段階に実施された前回調査と比較して7%増加しています。

躍進を遂げる

より環境に配慮した生活やサステナブルなEVに対する昨今の関心の高まりに対する阻害要因となっているのは、コスト、航続距離、充電インフラを巡る根強い懸念です。これは、環境へ配慮して生活することによる、経済的、時間、利便性、日々感じるストレスや不安などの観点から、消費者の負担への不安と言い換えることができるでしょう。消費者は、どの程度の負担であればコストに見合うと考えているのでしょうか。現在EVに関する情報は錯そうしており、サステナブルな選択が正しいことを確認したいEV購入意向者への解にはなっていません。

これらの課題は今に始まったことではなく、業界と政府双方の長年の取り組みにもかかわらず、依然としてEVの普及に対する主な障壁となっていることが、本調査結果により明らかになりました。より顧客志向の新たな解決策が必要です。
 


            車でコーヒーを飲むカップル
(Chapter breaker)
2

第2章

節減できるコストを可視化し、社会の分断を防ぐ

低所得者層のEV購入を支援することが、普及拡大、サステナビリティの促進、悪影響をもたらす社会の分断の防止につながる

全回答者の50%が述べているとおり、コストが依然として、EVを所有する上での最大障壁です。しかし、富裕層と大多数を占める一般層との差が拡大している兆候があります。全ての所得層において、サステナブルなEVの選択意向が見られます。裕福な消費者は、EVオーナーとなるために相当のプレミアムの支払いに対して肯定的ですが、低所得者層は追加費用の支払いを望まず、従来の内燃機関(ICE)車を選択する傾向があります。初期費用と月々の支払額が少ないICE車の方が安価に見えるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。EVの維持費はICE車より低いため、保有コスト総額で考えると、EVは経済的にICE車と比べてほとんど遜色がなく、その一方で、明らかに、よりサステナブルなのです。

このような「目に見えない」コストを理解し、総コストを意識するために、自動車メーカーは何ができるでしょうか。特に低所得者層にとって、サステナブルなEVが想像以上に手が届く選択肢の一つであることが理解できるよう、後押しできないでしょうか。EVに対して20%を超えるプレミアムを支払う意欲がある回答者の割合は、高所得者層では3分の1近く(30%)であるのに対し、低所得者層では19%に過ぎません。低所得者層回答者の39%が、プレミアムを支払う用意がまったくないと述べています。この割合は、高所得者層では21%に減少します。低所得者層のEV購入を支援することは、EV普及の急拡大とサステナビリティの促進につながるだけではなく、サステナブルなパーソナルモビリティをめぐって社会が分断され、悪影響がもたらされるのを防ぐことにもなるでしょう。


            電気自動車の充電ステーション
(Chapter breaker)
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第3章

充電をめぐる難題

充電ポートの設置状況とEVの航続距離への懸念は解消していない。充電スポットを公共交通機関と同じ場所に配置することにより、EVがサステナブルであることの証明となるだろう

充電インフラの整備は目覚ましい進捗を遂げているにもかかわらず、充電速度と充電スポットの利便性が、依然としてEVの購入意向者にとって大きな心理的障壁となっています。EVの現所有者と購入意向者双方の45%以上が、駐車場に設置されている急速充電器の増加を求めています。しかし、公共の場に設置されている急速充電器の不足ばかりが取り上げられ、充電の大部分は夜間に自宅で行われることになるという点が見過ごされがちです。現在市販されているEVの航続距離は大半の日常における使用には十分であるため、実際には、多くの消費者が想像するほどの急速充電器数は必要ないでしょう。

このような懸念への対応には、エネルギー企業と連携して電気料金と充電費用のセット販売を実施するなど、自動車メーカーからの働きかけも必要でしょう。EVの現所有者と購入意向者の5人に2人(39%)が、充電スポットが十分ではないという点に「強く同意」あるいは「同意」しています。従って、充電のパッケージ化は、このような懸念を緩和する手段として、自動車メーカーにとって、引き続き重要となるでしょう。また、100%再生可能な電力をEV購入者に提供することも、真にサステナブルなEVエコシステムに欠かせない要素となるでしょう。これは自動車メーカーが、充電インフラのみならず、例えばバッテリーの寿命、再利用、再生利用のような生活全体に関わるサステナビリティをも含む、消費者中心のエコシステムの中核的存在となる貴重な機会にもなり得ます。

航続距離をめぐる懸念 — 多くは思い込みか?

バッテリーが空になって立ち往生したい人はもちろんいないでしょう。しかし、この不安は現実以上に大きく認識されているのではないでしょうか。回答者の約43%が、EVの航続距離が200マイル(約322km)あれば十分だと述べており、300マイル(約483km)であれば、この割合は62%に増加します。しかし、現世代のEVはすでにこの航続距離を達成しており、消費者の認識との乖離が生じているのです。EVではなくICE車を選択する購入者にとっては、航続距離は二番目に大きな阻害要因になっています。

このような認識のギャップを解消するために、自動車メーカーは情報だけではなく安心感も提供するべきでしょう。航続距離について最新の改善点を提示するだけでは足りず、顧客がEV支持者となる新たな販売ツールが必要です。顧客の力を借りて、EV体験を活性化し、200マイル(約322km)の航続距離があれば日常の移動のほぼ全てに十分であると証明するのです。

公共交通の新たな役割

サステナブルなモビリティとは、統合されたモビリティです。未来のモビリティが真にサステナブルであるためには、特に都市部において、公共交通が重要な役割を果たす必要があるでしょう。しかし、公共交通が安全で利便性の高い移動手段であると述べた回答者は33%に過ぎません。EVの充電スポットを公共交通機関の敷地内に設置するなど、都市部における「ラストワンマイル」の選択肢を設けることで、アフターコロナ時代の公共交通網の再構築が促進され、消費者のEVのサステナビリティに対する信頼がさらに強化されるでしょう。

 


            駐車場を上から見たところ
(Chapter breaker)
4

第4章

真にサステナブルなモビリティの実現を阻む難題に立ち向かう

サステナブルなEVの未来をもたらすための5つの検討点

サステナブルなパーソナルモビリティに関する消費者の意識は劇的に高まっています。しかし、潜在的購入者が、環境に配慮した生活は実現可能で手が届くものと確信するためには、政府や業界からの支援が必要です。EVの輝かしくサステナブルな未来を実現するための鍵には、以下に挙げるものが含まれます。

  • 消費者との対話のあり方を再考 — 言葉ではなく、根拠を見せるのです。航続距離と充電に対する懸念は、多くのユーザーにとって想像に過ぎないにもかかわらず、根強く残っています。自動車メーカーとディーラーは、新たなメッセージ、関係性、ツールを開発して消費者のためにEV体験を活性化させ、サステナブルな選択が正しい選択であると消費者が確信できるようにするべきです。
  • 洗練されたインセンティブの提供 — EVが低所得者層と富裕層の双方にとって手が届くものと示すために、政府と自動車メーカーは、どのようにすれば、硬直的な補助金以上に効果のある手段を見つけられるでしょうか。悪影響をもたらす社会の分断を防ぎ、マスマーケットでの普及拡大を目指すにあたり求められているのは、洗練された新たなファイナンスパッケージと所有・利用モデルです。
  • インフラ面での協働 — 国家の充電インフラ整備計画を策定するために、政府、自動車メーカー、充電サービス提供者がそれぞれ個別に取り組むのではなく、協働することが必要でしょう。相互の運用性と透明性の向上は、充電スポットへのアクセスやその利用可能性に対する根強い懸念の解消につながるでしょう。
  • 公共交通再構築に向けたモビリティの統合 — EVの所有と公共交通の利用は、どちらかひとつを選択するということではありません。自治体は今なお、公共交通の統合に関し主要な役割を担っていますが、支援が必要でしょう。自動車メーカー、自治体および政府が協力することにより、サステナブルなモビリティへのコミットメントを示し、アフターコロナ時代の公共交通の再構築を促進することができます。
  • エコシステム観点の導入— well-to-wheel(石油採掘から車両で使用されるまで)の全過程におけるサステナビリティの実現、特にEVバッテリーの再利用と再生利用は、自動車メーカーにとって新たな機会となるでしょう。

サマリー

消費者の意識はサステナビリティに向いています。この機運を捉えるには、EVの販売、所有、利用、リサイクルのあり方を抜本的に見直す必要があるでしょう。ライフサイクル全体にわたり、EV体験が理解しやすく、またEVを購入しやすくするためには、何ができるでしょうか。懸念が解消され、購入および所有体験のすべてにおいて「ディープグリーン(環境に極めて配慮されている)」であると、明確になった場合、消費者は、EVを現実的な選択肢として考えるでしょう。

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Randall Miller

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