税務執行
執行分野については、回答では取り締まりの強化が広く予想されたものの、この点は国により大きく異なる可能性が高いと考えられます。多くの税務当局が新たなデジタルデータの提出要件と、より幅広い透明性・情報開示に関する法律の導入を進める可能性が高く、問題を抱えている国・地域では引き続き課題が突き付けられることになるでしょう。イタリア、メキシコ、ポーランド、英国では最近、情報開示で新たな進展が見られました。
多くの国で、⼤⼿多国籍企業に対し、税務上の不確実性がないかをこれまで以上に綿密に調査していることがすでに明らかになっていますが、これにより新たな税務調査が⾏われ、その後に和解が発⽣する可能性があります。このような国の⼀部はすでに数億米ドル、場合によっては数⼗億米ドルに上る税務上の和解を発表しており、その動向や経緯はマスコミで広く取り上げられています。状況を⾒て、今後追随する国が増えるかもしれません。
新たな「フォレンジック」税務調査と文書化要件
回答者の懸念は、現実の動向を踏まえたものとなっています。日本では調査が10月から再開され、多国籍企業のクロスボーダー取引が新たに精査されるようになったほか、ほぼフォレンジックレベルの裏付文書の提出を求める要件が新たに設けられました。
また日本の税務当局は、移転価格調査による更正所得金額が過去3年間で22億から66億ドルへと3倍に増えたと報告していますが2、これはおそらく日本だけに限らないでしょう。
「日本では関税の観点から移転価格の文書化も精査されています」と、EYのAsia-Pacific Indirect Tax リーダーである大平洋一は述べていますが、これはこうした方向への大きな動きを反映しています。アジア太平洋地域では多くの税務当局が、移転価格の設定方法についてこれまでよりはるかに詳細な説明を輸入業者に要求するようになっていますが、自由貿易協定で付与される免税資格の申請にあたって提出される原産地証明書の審査の強化が予想されると大平は述べています。
間接税の引き上げ
パンデミックの初期、多くの国でVATが引き下げられました(一部の国では一時的な措置であり、ほとんどの国では対象を限定して引き下げられ、恩恵を受けたのは旅⾏・エンターテインメントセクターや個⼈向け衛生用品・⽇常⾷料品の購⼊だけでした)。ところが、変更の方向性は一様ではなく、例えば、サウジアラビアは2020年5月、VAT税率を5%から15%へと3倍に引き上げると発表し、VATを低水準で導入してから徐々に引き上げるという長期的な計画を実質的に断念しました3。コロンビア、オマーン、カタール、ウクライナも同様に、2021年にVAT税率を引き上げることが確実視されています。
「2021年には、欧州でも間接税の負担が重くなる見込みです」とEYのGlobal Indirect Tax LeaderのGijsbert Bulkは述べています。「政府や税務当局は、軽減税率や課税免除を撤廃してVAT課税対象を拡⼤させ、納税者から提出される書類などの精査の厳格化も図るでしょう」