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『国際会計の実務 International GAAP 2022』刊行記念 IAS第12号「法人所得税」に関する主なアップデート

2022年5月31日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2022年6月号 IFRS実務講座

品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 大島 隼

主として金融業及び石油ガス業の監査業務に従事。2019年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 マネージャー。

『国際会計の実務 International GAAP』シリーズが3年ぶりにリニューアルされ、『国際会計の実務International GAAP 2022(上巻・中巻・下巻)』と『国際金融・保険会計の実務 International GAAP 2022』が刊行されました。そこで、全3回にわたって、2019年版からアップデートされている論点の一部を紹介します。

第3回となる本稿では、IAS第12号「法人所得税」について取り上げています。

Ⅰ はじめに

『国際会計の実務 International GAAP』最新シリーズ発刊記念の第3回である本稿では、IAS第12号「法人所得税」の適用範囲について、『国際会計の実務International GAAP 2022』に新たに追加された実務上の論点を解説します。IAS第12号の適用範囲である法人所得税とは、課税所得(純額の利益)を課税標準として課せられる税金と定義されており、IAS第12号の適用範囲とならない税金は、IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」等の適用範囲に含まれ、異なる会計処理や開示が要求されることになります。従って、適用される会計基準の判断がしばしば論点となります。

近年の課税形態の多様化により、利益を課税標準とする測定値と、利益ではない項目(例:資本合計や純資産等の貸借対照表金額、実際生産高等の非財務測定値)を課税標準とする測定値との相互関係によって課税額が決まる取決め(「ハイブリッド課税」とも呼ばれます)が登場してきています。3つのハイブリッド課税の類型を例に、適用基準の判断としてとり得る考え方を紹介します。

Ⅱ 最低税額が利益以外の測定値に基づくケース

本ケースは、利益の一定割合として通常の法人所得税が計算されるものの、その金額が利益以外の測定値(固定額の場合も含む)による金額を下回る場合、当該一定の最低金額を支払うような取決めです。こうした取決めについての考え方は次の2通りが考えられ、継続的に適用される限り、いずれのアプローチも採用可能と考えられます。

  • アプローチ1
    最低税額部分をIAS第37号等に基づき法人所得税でないものとして、最低税額を超過する部分をIAS第12号の法人所得税として会計処理する
  • アプローチ2
    税額全体をIAS第12号の法人所得税として会計処理する

アプローチ1は、固定税額部分は利益に連動しない税額と捉え、超過部分のみを法人所得税として処理するのに対し、アプローチ2は、税金の全体的な意図が所得に基づく課税であることが明らかな場合には、実質を重視し税額全体を法人所得税と捉える考え方です。アプローチ1では、利益に基づく測定額が最低金額を上回る期間にのみIAS第12号の当期税金及び繰延税金を会計処理することになり、実務上煩雑かつ、法人所得税として会計処理する部分の実効税率の予測が難しいという側面があります。また、構成要素に分離せず税額全体としてIAS第12号の適用範囲か否かを判断するアプローチ2は、IAS第12号の適用範囲に関連する2017年9月、09年5月、06年3月の解釈指針委員会のアジェンダ決定とも整合する方法と考えられます。

Ⅲ 利益に基づく測定値と利益以外に基づく測定値のいずれか高い方が税額となるケース

本ケースは、利益に基づく測定値と、利益以外の測定値(例:収益や純資産)に基づく金額のいずれか高い方が税額となるような取決めです。こうした取決めについては、課税額全体を法人所得税かどうかのいずれかで捉える方法は適切ではなく、代わりに次の2通りのアプローチが考えられます。

  • アプローチ1
    課税額は主として法人所得税ではない税金であり、当該部分を超過する部分をIAS第12号の法人所得税として会計処理する
  • アプローチ2
    課税額は主としてIAS第12号の法人所得税であり、当該部分を超過する部分を法人所得税ではない税金として会計処理する

これらは、継続的に適用される限り、いずれのアプローチも採用可能と考えられます。各アプローチを適用した場合の具体例を<設例>に示しています。

設例

アプローチ1をとる場合、実効法人所得税率が大きく変動するため、法定税率が変わらない場合でも、将来の繰延税金を測定するための見積りを毎期見直す必要があります。一方で、アプローチ2をとる場合の実効法人所得税率は、法定税率である40%に、収益を課税標準とする税金として捉える部分の損金算入が実質的に認められないということを反映して調整された税率となります。

Ⅳ 利益に基づく測定値の方が少ない税額となる場合を除き、税額が利益以外の測定値に基づくケース

本ケースの代表例として、デジタルサービス税(DST)のような取決めが挙げられます。欧州でみられるDSTの一例には、次のような取決めがあります。

【DST税制の例】

  • その国の顧客から稼得したデジタル事業(オンラインマーケットプレイス等)により生じる収益のうち、年間の基準額を超えた金額に対して2%を課税する
  • 上記の課税計算方法に加えて代替的な課税標準による計算方法の選択権が認められており、1年毎に事業者が選択できる。代替的な方法では、営業利益の80%を課税標準として税額が計算される
  • 例えば、現地のデジタルサービス活動が損失を計上している期において、代替的な課税標準を選択すれば、DSTの納税額はゼロとなる

こうした取決めは、デジタル革命により企業が国境を越えた事業展開を増やすにつれて、各国政府が多国籍企業の利益について、その価値を生み出した国で課税されるように税制を発展させてきた背景から生まれています。

例のDSTのような取決めは、その全体を、IAS第12号の適用対象外である法人所得税以外の税金として取り扱うべきと考えられます。例のような取決めはその設計上、通常はデジタルサービス活動による収益を課税標準として課税されるケースが多く、代替的な課税標準の選択は、現地において(物理的な拠点を構え、従業員を雇う等しながら)低い利益率で同様の事業を行っている企業に対する救済措置として認められています。こうした課税制度の趣旨に鑑みれば、代替的な課税標準を選択したかどうか(又は将来においてするかどうか)により適用する基準を変えるのは適切ではなく、常にIAS第12号の適用外の税金としてIAS第37号等に基づき会計処理すべきと考えられます。

Ⅴ おわりに

世界的にさまざまな課税の枠組みが日々発展を遂げている中で、国際的に事業を展開する本邦企業にとっても、各法域の税金に適用される適切な会計基準の判断は非常に重要となっています。そのような判断が複雑かつ関係する金額に重要性がある場合、関連する法制度の内容と企業が行った判断について、IAS第1号第122項の規定に従い開示すべきかを検討すべきと考えられます。

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