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『国際会計の実務 International GAAP 2022』刊行記念 IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に関する主なアップデート

2022年4月28日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2022年5月号 IFRS実務講座

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 IFRSデスク 公認会計士 佐野敏行

当法人入所後、主としてテクノロジーセクターでの監査業務に従事。2021年よりIFRSデスクに所属し、IFRS導入支援業務、研修業務、執筆活動などに従事している。当法人 マネージャー。

『国際会計の実務 International GAAP』シリーズが3年ぶりにリニューアルされ、『国際会計の実務International GAAP 2022(上巻・中巻・下巻)』と『国際金融・保険会計の実務 International GAAP 2022』が刊行されました。そこで、全3回にわたって、2019年版からアップデートされている論点の一部を紹介します。

第2回となる本稿では、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」について取り上げています。

Ⅰ はじめに

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」が適用されてから数年が経過し、その間に生じた実務上の論点が『国際会計の実務 International GAAP 2022』に多数追加されました。

本稿では、追加された実務上の論点の中から、次の内容について解説しています。

① 契約の属性
長期基本契約

② 本人か代理人かの検討
法的な権利が瞬間的にのみ存在し、物理的所有が見られない場合(消化仕入や直送取引など)

③ 独立販売価格の算定
一定の幅を設けた見積り

なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 契約の属性―長期基本契約

ビジネスにおいて、長期基本供給契約を通じて企業と顧客との間のビジネス関係の全体的な条件を定めることがあります。通常、企業と顧客が長期基本供給契約を結ぶと、その後の購入は、顧客が明確に長期基本供給契約に言及し、引き渡される製品やサービス及びその数量を特定する取消不能な注文書を発行することで行われます。

そのような場合、長期基本供給契約だけでは、IFRS第15号の収益認識モデルの適用対象である契約とみなされるために必要となる強制可能な権利及び義務が生じる可能性は低いと考えます。通常、長期基本供給契約は価格や支払条件を定めるものの、移転すべき具体的な製品やサービス及びその数量を定めることがない(最低購入数量に関する定めがない前提)からです。したがって、移転される財又はサービスに関する各当事者の権利及び義務が識別できないことから、長期基本供給契約とその後の顧客の注文を一体で捉えてはじめてIFRS第15号が適用される契約となる可能性が高いと考えます。そのため、長期基本供給契約とその後の顧客の注文の両方を評価して、IFRS第15号第9項の顧客との契約の要件が満たされるか、また満たされる場合にはいつの時点で充足されるかを判断する必要があります。

Ⅲ 本人か代理人かの検討―法的な権利が瞬間的にのみ存在し、物理的所有が見られない場合(消化仕入や直送取引など)

IFRS第15号では、複数の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合、顧客との約定の性質を評価し、企業がそれらの取引において本人又は代理人のいずれとして行動しているのかを判断することが求められます。企業が顧客に移転する前に約定した財又はサービスを支配している場合、本人となり収益は総額で計上します。一方、企業の役割が他の企業による財又はサービスの提供を手配することである場合、代理人となり代理業務に関する手数料を純額で収益計上します。<図1>は、本人か代理人かの評価を行う際のプロセスをまとめたものです。

図1 本人か代理人かの評価

本稿では、実務上の論点の中から、法的な権利が瞬間的にのみ存在し、物理的所有が見られない場合の留意点について解説します。

企業は第三者販売業者と契約を締結し、その販売チャネルを利用して販売される財又はサービスを提供する場合があります。そのような契約では、消化仕入契約など、財が顧客に移転される前に瞬間的にしか財に対する法的な権利を獲得しない場合があります(例:販売業者が、製品が最終的に販売されるまでその保管、流通及び管理に責任を負う)。また、財を物理的に保有しない、又は法的な権利も獲得しないこともあります(例:財が販売業者から顧客に直接出荷されるメーカー直送契約)。これらの状況でIFRS第15号の支配の原則及び本人を示す指標を検討する際に考慮すべき事項としては次の事項が挙げられ、これらの状況に至った背景及び理由も含めて評価することが有用であると考えます。

  • 発注から納入の過程のどこかで、企業が財に対する所有権を獲得することはあるか。
  • 販売業者は製品の検収に責任を負う当事者か(例:苦情や返品を取り扱う)。
  • 販売業者と当該業者への返品に関して契約を締結しているか、あるいは顧客が返品した後に返品された財を販売業者に返品した実績があるか。
  • 販売業者はその裁量で財の価格を設定できるか。
  • 財が企業の店舗にある場合の紛失や損傷に販売業者が責任を負うのか。
  • 販売業者は企業に納品された財を取り戻す契約上の権利を有しているか。有している場合には、販売業者は財の消費期限が終了した以外の状況で当該権利を行使したことがあるか。
  • 企業は販売業者の許可を得ずに財を店舗間で移動する、又は店舗内でその位置を変えることができるか。
  • 企業は、顧客の注文を販売業者に伝達する以外に顧客に対する責任を有するか。
  • 顧客の発注後、企業は財を他の企業に仕向ける又は財が顧客に移転されるのを防ぐことができるか。

また、事業目的及び販売業者と企業の間の契約条件の根拠を理解することは、最終顧客に移転される前に特定された財を支配しているか、そして最終顧客への販売に関し本人であるのかを判断する上で有用であると考えます。

このように、法的な権利を瞬間的にしか持たない、又は一度も物理的に所有することのない特定された財に関する取引において、本人又は代理人のいずれであるかを判断するには相当の判断を要し、事実と状況に基づいて慎重な検討が必要となります。

Ⅳ 独立販売価格の算定― 一定の幅を設けた見積り

IFRS第15号の取引価格の配分目的は,「顧客への約定した財又はサービスの移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額を描写する金額」に基づき、取引価格を各履行義務に配分することにあります。IFRS第15号は見積りの幅について何ら規定していませんが、財又はサービスの独立販売価格を見積もるのに一定幅を設けた方がより現実的である場合には、独立販売価格の見積りにおいて単一の推定値を設定する必要はないと考えます。

独立販売価格の見積りに関し合理的な範囲を定め、明記される契約上の価格がその範囲に収まる場合、取引価格の配分において、契約上の価格を独立販売価格として用いることが適切となる場合もあると考えます。

Ⅴ おわりに

収益の認識は非常に多くの論点が存在します。IFRS第15号適用後の企業においても、新たな種類の販売取引、ビジネスの環境や取引先との関係などの変化が生じることにより、従来の会計処理の再検討が必要となる可能性がある点に留意が必要です。

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