グループ通算制度の概要 後編
情報センサー2020年12月号 Tax update
EY税理士法人 税理士 矢野 瞳
2014年よりEY税理士法人 ビジネスタックスサービス部にて連結納税導入支援業務、連結納税開始・加入時における時価評価業務、連結納税グループを含む日系企業の組織再編に関するアドバイザリー業務および連結納税グループを含む申告業務等に従事している。
Ⅰ はじめに
前編(本誌2020年11月号)では、令和4年4月1日以後開始事業年度から連結納税制度(以下、連納制度)が廃止され、グループ通算制度(以下、通算制度)へ移行されること及びその通算制度の特徴について説明しました。後編となる本稿では、通算制度への移行に伴う実務上の対応と移行に向けての検討事項を中心に説明します。
Ⅱ 通算制度における所得計算と税額計算の概要
通算制度ではグループ各社が個別に所得計算と税額計算を行うことを基本とし、これにグループ全体で計算する損益通算等や一部の税額控除の調整を行う仕組みとすることで計算の簡素化及び事務負担の軽減が図られています(<図1>参照)。また、通算制度への移行に伴い、通算制度の適用がない単体納税においても一部の計算項目にグループの考え方が取り入れられます(<表1>参照)。通算制度移行後もグループ全体で計算する項目の計算結果は連納制度と比べて不利にならないよう設計されていますが、各社別の所得金額・税額は大きく変わることになります。このため連納制度と有利不利の判断が変わる項目も出てくることが考えられ、通算制度への移行又は導入に際して十分な検討が必要と考えられます。
Ⅲ 通算制度への移行に伴う実務上の対応
1. 連結納税適用済の企業グループ
(1) グループ通算制度への自動移行
連納制度を適用しているグループは令和4年4月1日以後開始事業年度から通算制度へ自動的に移行されます。移行に当たっては承認申請書や届出書の提出は必要ありません。損益通算や欠損金の通算等のメリットが引き続き見込まれる場合には通算制度へ移行することが考えられます。
(2) 単体納税制度への復帰
連納制度の取りやめは、連納制度の継続適用により事務負担が著しく過重になると認められる場合等のやむを得ない事情がある場合に限られています。今回の経過措置では、やむを得ない事情の無い場合にも令和4年4月1日以後最初に開始する事業年度開始の日の前日までに届出書を提出するだけで単体納税に戻ることができます。損益通算等のメリットが見込めず単体納税へ復帰した場合、その後5年間は通算制度の適用ができなくなり、5年後に通算制度を開始する場合に資産の時価評価課税と繰越欠損金の切捨ての取扱いが適用されます。また、この制限は自社の通算制度の開始だけでなく、他の通算グループに加入する場合も適用されることからM&Aへの影響など長期的な視点からの検討も必要になります。
2. 単体納税の企業グループ
(1) 連納制度の適用後に通算制度へ自動移行
現在単体納税を適用しているグループは、令和4年3月31日までに開始する事業年度の開始の日の3月前まで連納制度に係る承認申請書を提出し、連納制度を先行適用した後に通算制度へ自動移行することができます。連納制度では親法人が制度開始前から有する繰越欠損金はグループ全体で使用が可能な非特定欠損金として通算制度移行後も通算グループ内の他の法人の所得と通算が可能とされますが、通算制度から開始する場合は自社の所得の範囲内でのみ使用可能な特定欠損金とされます。このため、親法人に繰越欠損金がある場合には、税負担の適正化のため連納制度を先行適用した後に通算制度へ自動移行することが考えられます。なお、連納制度を先行適用するには、親会社が3月決算法人の場合は令和2年12月末まで、12月決算法人の場合は令和3年9月末までに承認申請が必要となります。
(2) 通算制度の開始
単体納税を継続し、令和4年4月1日以後に開始する事業年度開始の日の3月前までに承認申請を行い通算制度を導入する選択もあります。連納制度による損益通算等のメリットが見込まれるものの、制度開始時の資産の時価評価課税と繰越欠損金の切捨て等の影響を考慮して適用を見合わせていたグループは、通算制度での時価評価課税の緩和により通算制度からの適用も考えられます。
(3) 単体納税の継続
通算制度の適用による損益通算等のメリットと、個別制度の改正や中小法人特例、開始・加入・離脱時の取扱い、決算申告対応やシステム変更等の影響を検討し、通算制度導入のメリットよりデメリットの方が大きくなると考えられる場合には当面は単体納税を継続し、導入の可能性を検討していくことが考えられます。
Ⅳ 通算制度への移行・導入に向けての検討事項
通算制度への移行・導入には、税務だけでなく会計やグループ経営(実務)における検討が求められます(主な検討事項として<表2>を参照)。令和3年・令和4年度の税制改正や税効果会計の対応に関する動向、グループの状況や経営環境の変化等を考慮し、移行の判断、最適な導入時期の検討を行う必要があると考えられます。