【前編】生成AIの機能に着目することなかれ 新価値創出には本質の理解が不可欠

寄稿記事

掲載誌:2024年5月24日、日経ビジネス電子版 Special
執筆者:EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・イノベーション AI&データ
パートナー  山本 直人
ゲスト編集者 山本 直人

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・イノベーション AI&データ パートナー

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生成AIは間違いなくイノベーティブ、
しかし活用実態はイノベーティブと言えるのか

生成AIのビジネス展開は着実に広がっている。だが、その多くは業務効率化の枠を出ないものばかりである。「生成AIは間違いなくイノベーティブなテクノロジー。しかしこれを活用した企業レベルでの今までにない新価値、いわばイノベーションを創出していくことが社会の更なる発展のためには必要である」と語るのは、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの山本直人氏だ。ビジネスを変革し、企業が今までにない価値を創出するための視点とは何か、詳細を聞いた。

生成AIが実現する
非線形の成長

2022年秋ごろにChatGPTが大きな話題となりはや2年近く。日本企業が生成AIをビジネスに活用しようとする動きも着実な広がりを見せているようだ。

しかし、「生成AIを企業の新価値創出、圧倒的な変革につなげているケースはまだ少ないのではないでしょうか。数年前にディープラーニングが一世を風靡(ふうび)し、『これからはデータアナリティクス、AIだ』としきりに言われていた状況に酷似しています。まさに“生成AIを活用する”という、手段が目的化していることに他なりません」と語るのは、EYストラテジー・アンド・コンサルティングで、生成AI分野をけん引する山本直人氏である。

「現在は『猫も杓子(しゃくし)も生成AI、さらに言うとChatGPT』という状況です。さまざまな企業でPoC(概念実証)が行われていますが、外国語メールの翻訳や、長文の要約、文書のドラフト生成、社内文書検索といった、事務作業の効率化に関するものが大半を占めています」と山本氏は続ける。

「生成AIとはイノベーティブなテクノロジーです。だからこそ、生成AIの本質を捉えることで、より大きなビジネス上のインパクトが創出できます。ChatGPTでできること、機能に着目してしまうが故に、誰でも容易に想像がつくようなユースケースに終始してしまうのではないでしょうか」(山本氏)

山本氏が考える「生成AIの本質」とは、まさに世界を読み解くことだ。「生成AIの本質とは何か、これは研究者の視点により異なるところで唯一の解は存在しません。そんな中で個人的な見解を述べると、生成AIの本質とは、『読み解く力』と『掛け合わせる力』であると考えています」(山本氏)。

では、生成AIは何を読み解き、何を掛け合わせるのか。

「読み解くものは、まず『人の思考』です。また人の思考は自然発生的に生まれるものではないので、人の思考に影響を与える『世の中の動き』を、さらに世の中の動きは企業の活動で成り立っているため『企業の動き』を読み解くことが必要です。そして、それらを掛け合わせることで、今までにないビジネスチャンスや新たな価値のヒントを人は得られるのだと言えます」(山本氏)

生成AIが読み解き掛け合わせる情報は多様かつ膨大であり、人間では到底たどり着かない発想、意外な組み合わせを導き出すことができる。これが生成AIの本質であり、「本質を捉えることで、企業にイノベーションをもたらし、今までにない非線形の成長につなげていけるのではないでしょうか」と山本氏は語る。

そもそも生成AIは、自然言語や画像、音声といった“非構造化データ”からの解釈、推論を得意とする。他方、生成AIもいわゆるシステムの一種として、情報システム部門が要件を取りまとめて活用の旗振りを担うケースが少なくないが、この状況についても山本氏は警鐘を鳴らす。

「従来、企業の情報システム部門は、構造化されたデータ、いわゆるリレーショナルデータベースにあるデータをいかに効率よく扱うかということに知恵を働かせてきました。その延長線上で生成AIと向き合おうとしても、『イチITツール』としての向き合い方となり、ビジネスに価値変革をもたらすアイデアにはつながらず、結果として誰しもが思いつくような単純業務の効率化に終始してしまいます。従来のDXツールは、業務効率化の側面がありましたが、生成AIは『人の知識をいかに増幅するか』という視点で向き合う必要があるのではないでしょうか」と山本氏は提言する。

では、「生成AIの本質」とは、具体的にどのようなものなのか。山本氏の考える「モノゴトを読み解く力」と、これを「掛け合わせる力」について、次より解説する。

新たな価値創出を可能にする
「構造分解と新結合」

「大きなお話をします。現在の世の中においては、すべてのモノゴトは構造を持っていると言えます」と山本氏は語る。

例えば、目の前に置かれているパソコン。このプロダクトは、液晶ディスプレーやCPU、メモリー、ディスクなどの主要部品で構成されており、さらにそれらの部品もより小さなベースコンポーネントから成り立っている。

また社会課題もしかり。例えば「高齢化社会」という最上位の課題の構造を分解していけば、介護難民問題や認知症問題などに分解することができる。「社会課題の最上位階層について、一度は耳にした言葉が並ぶものの、なかなか自分事化できません。しかし構造を掘り下げていくと、おそらくは自分の身の回りで発生している事象に行き着くのではないでしょうか」(山本氏)。

次に企業活動の例を見てみたい。企業活動は何らかの社会課題解決につながる場合が多く、例えばエコカー開発は環境問題に対する企業の取り組みの一つと言えるだろう。「世の中の構造を読み解き、世の中の動きに企業の動きを関連付けることができるようになるとどうなるでしょうか。まさに企業にとっては先行きが見えない世の中における意思決定の羅針盤を手に入れることに等しいのではないでしょうか」と山本氏は語る。

別の例として、キャリア構築にも同様のことが言える。世の中の動きに対して、自身のキャリアとして有している専門性や経験を重ね合わせることができれば、まだ見ぬキャリア開拓につながるかもしれない。「この構造を読み解くことと、全く異なる要素を掛け合わせることこそが新たな価値創出の切り口であると考えています」(山本氏)。

このように生成AIは、企業がイノベーションを目指す上で、構造分解した外的要因と自社の事業活動を、「掛け合わせる力」で新たに結合することで、自社の意外な強みや、思わぬ事象の解決に役立つ方法といった、独自の価値提案を可能にする。

多様化する世の中においては、掛け合わせのパラメーターはほぼ無限に近い。しかし生成AIは、人にはできない速度での演算が可能であり、処理を分散させることでさらなるスループット向上が見込める。掛け合わせからのシミュレーションにより、まだ見ぬ価値の創出につなげることができるだろう。

構造分解と新結合

構造分解と新結合

「オーストリアの経済学者、ヨーゼフ・シュンペーターは、イノベーションは『既存の知と既存の知の組み合わせから生まれる』と語っています。現在では、既存の知は構造を持っています。世の中は多様化しており、構造における構成要素の掛け合わせはもはや人間ではさばききることはできないでしょう。この『構造分解と新結合』を行い、人間では出せないような答えを導き出してくれるのが生成AIの力です」と山本氏は説明する。

総合力で実現する
イノベーティブな生成AI活用

EY Japanは、生成AI活用と従来培ってきた経営コンサルティングの知見を組み合わせ、業務の効率化にとどまらない企業の新たな価値創出を支援するコンサルティングサービスを提供している。

企業の将来構想をEY Japanグループ全体で伴走支援

「アルゴリズム開発も進めており、学術論文の理論なども教え込ませた上で、飛躍的な発想を生み出せる生成AIを創り上げます。さらに、技術支援のみならず、イノベーションを目指すクライアント企業の生成AI活用を、経営戦略やM&A戦略などもカバーするEY Japanの総合力をもって包括的にサポートできるのが、当社の大きな強みです」と山本氏は語る。

後編では、生成AIを活用すると、具体的にどのようなイノベーションが生まれるのか、ユースケースを見ていきたい。

【後編】⽣成AIの本質を理解することで創出されるユースケースとは

著作・制作 株式会社 日経BP(2024年日経ビジネス広告特集)

※執筆者の所属・役職は掲載時点のものです。

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