持続的経営と税(7)「実効税率15%」が目安に

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2023年1月18日 PDF
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寄稿記事

掲載誌:2023年1月18日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 ディレクター 大堀 秀樹

2021年に国際合意した「BEPS(税源浸食と利益移転)包括的枠組み」の「GloBEルール」によるグローバルミニマム課税制度が導入されると、日本企業を取り巻くグローバル課税の環境は一変します。

GloBEルールとは、法人税に世界共通の最低税率を設けようとする多国間協調の取り組みです。多国籍企業が国境を越えたグループ内取引を利用して低税率国へ所得を移転させて租税負担を少なくしようとする動きや、企業誘致のため各国が法人税率の引き下げ競争に走ったことに歯止めをかける狙いなどから検討が始まりました。

企業経営上の税金コストには、税務申告による納税額と、財務諸表に計上する税金費用の2つがあります。企業は決算時に会計上と税務上の差異を計算しながら会計上の納税額を合理的に見積もって税金費用を計算する一方、税務申告に際しては会計上の税金費用とは別に、税法に基づいて課税所得と納税額を計算しています。

会計上と税務上で別物として扱われてきた税金コストですが、GloBEルールが導入されると、会計と税務の関係は一変します。会計上の税金費用がグローバルミニマム課税額に影響を与えることになります。GloBEルールの導入では企業ごとに必要となる100以上にのぼる項目のデータをいかに収集するかが日本企業の喫緊の課題となっていますが、それ以上に重要になるのが、会計上どのような税金費用の数値として計上しているかになってきます。

BEPS導入の背景に、米国のグローバル企業による過度なタックスプランニングによって、連結実効税率が10%前後と極めて低いことがありました。GloBEルールが導入されると、米国のグローバル企業の実効税率は15%まで上昇すると期待されています。

日本の財務省によると、米国の実効税率は27.98%など欧米主要国の多くの実効税率が20%台後半(2022年1月時点)であり、ある意味それより低い15%が実効税率の目標として「正当化」されることになります。日本の実効税率は29.74%と比較的高いですが、GloBEルール導入後は15%を目安とした実効税率の管理が求められることになります。

とはいえGloBEルールでは15%を下回ると直ちに課税が生じるわけではありません。実体のある所得を除いた超過利益に対してのみグローバルミニマム課税するため、税率が低い国であっても実体があれば課税は生じません。

日本のタックスヘイブン(租税回避地)対策税制でも実体のある事業活動からの所得は合算課税から除外していますが、実体があるかどうかの判断には事業活動をする拠点があるかといった定性的な基準となっていました。GloBEルールでは、固定資産と給与費用から実体のある所得を計算することになるため、各国・地域での事業活動の実体を数値として示すことが、グローバルな税務リスクの管理では重要になってきます。

 

(出典:2023年1月18日 日経産業新聞)

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