持続的経営と税(4)BEPS、税率下げ競争に歯止め

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2023年1月13日 PDF
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寄稿記事

掲載誌:2023年1月13日、日経産業新聞「戦略フォーサイト」
執筆者:EY税理士法人 パートナー 中森 学
ゲスト編集者 中森 学

EY Japan エネルギー・資源・タックスリーダー/商社セクター・タックスリーダー EY税理士法人 国際税務・トランザクションサービス パートナー

「一期一笑」がモットー。出会いと笑顔を大切に、何事にも真摯に向き合う。

企業と国の税をめぐる国際的な議論に新しいルールが導入されようとしています。その背景を改めて整理します。

税は、国家の歳入確保の手段であり、各国が経済状況や政策を踏まえて独自の制度を構築しています。企業が自国内でのみ活動している場合には、その国で納税すれば完結しますが、企業の活動が国境を越えるようになると、企業は複数の国で納税する必要が生じることになります。

企業は獲得した利益を複数国で課税される「二重課税」を回避しようとし、国家は自国の税収確保に最大限の努力をします。結果、企業の利益への課税を複数の国家間で奪い合う事態が生じます。グローバルな企業とローカルな政府(税法)との間に歪(ひず)みが生じました。

この歪みを解消する手段として「租税条約」があります。租税条約は国家間の条約であり、課税に対する共通理解を醸成することで二重課税を回避する役割を果たしています。配当などに有利な税率の適用を促して投資を促進する役割もあります。日本は2022年12月1日時点で84の条約などを締結しています。

資本市場では株主価値の最大化が重視されるようになり、企業が納める税も費用という点では例外ではなく、株主からの厳しい視線にさらされるようになりました。

経済のあり方も、モノの生産・消費中心の経済からサービスの価値重視へと大きく変わりました。従来の税法ではサービスや無形な資産の価値を適切に捕捉することが徐々に困難となり、新たな歪みが生じました。

サービスはデジタル化とも相性が良いです。デジタルなサービスではサプライチェーン(供給網)の構築が不要となり、立地や活動展開地域といった企業のロケーション選択の自由度が増しました。法人税率の引き下げを伴う国家間の企業誘致合戦を招くことにもなりました。

こうした状況を利用したのがGAFAに代表される米国企業だとされます。法人税率の低い国に拠点を設け、自ら構築したエコシステム(生態系)に従来の税法や租税条約を適用することで、税の空白地帯(「二重非課税」)を創出しました。この結果、長年続いた経済と税の関係が崩れ、経済の発展と税収との間にアンバランスが生じました。

こうした背景から、税の基礎となる概念を修正し、健全な経済発展に向けて国家間の税率引き下げ競争に歯止めをかけるという問題意識から誕生したのが、経済協力開発機構(OECD)による「BEPS(税源浸食と利益移転)」プロジェクトです。

13年に行動計画(課題)が示され、15年にBEPS最終報告書、18年にBEPS防止措置実施条約の発効に至っています。21年に「BEPS包摂的枠組み」で経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する合意が実現しています。

21年の取り組みは「BEPS2.0」といわれ、国際税務の世界に一石を投じることとなります。

 

(出典:2023年1月13日 日経産業新聞)

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