法人がSコーポレーションの株式を取得すると、その時点でSコーポレーションとしての適格性が失われるため、買収対象会社はCコーポレーションとなります。その場合には、以下のデメリットが発生します。
- Sコーポレーションとしてのステータスが過去にさかのぼって否認された場合の法人税の税債務を買収後のCコーポレーションが承継する
- 買収対象会社が保有する資産の税務簿価がステップアップ(時価への洗い替え)せず、ボーナス減価償却のメリットも享受することができない
- 売り手の株主が買収対象会社の株式の一部を継続保有する場合、売り手側の従来のパススルー課税のメリットが消失し、二重課税が発生する
- 買い手の買収主体が米国法人であっても、株式保有割合が80%未満となる場合は、内国法人間配当控除率が100%とならず、買い手側でも二重課税が発生する
売り手側は売却益全額が優遇税率の対象となるキャピタルゲインとして取り扱われることから、株式の単純譲渡を志向するかもしれませんが、買い手にとっては上述の通りデメリット尽くしです。仮にSコーポレーションの持分を100%買収する場合には、買い手としては受け皿会社を作ってSコーポレーションから事業資産を買収するアセット・ディールとするのがベストです。これにより、事業資産の税務簿価はステップアップし、適格資産についてはボーナス減価償却が可能となり、さらに過去の法人税債務等のリスクも原則的に遮断できます。
ただし、買収対象会社から移管できない契約や許認可がある場合や、資産・負債の移管に多大な事務的コストが発生する場合には、アセット・ディールは選択肢から外れる可能性があります。また、売り手が部分売却を希望している場合や、買収後の事業継続の観点から既存株主の一部を残す必要性があり、100%買収が難しいケースもあります。そのような場合には、次善の策として内国歳入法第338条(h)(10)に基づく「みなしアセット・ディール」制度を利用することが考えられます。この場合、取引の法形式は株式譲渡になりますが、連邦法人税法上はSコーポレーションが事業資産を新会社に譲渡して清算したものとして取り扱われます。
この結果、事業資産の税務簿価のステップアップやボーナス減価償却が可能となります。ただし、株式の80%以上が譲渡される必要があり、買収対象会社の過去の法人税債務を遮断することは原則的にできません。また、過去にさかのぼってSコーポレーションとしての適格性が否認されると、みなしアセット・ディールは成立しなくなります。
一方、売り手の観点からは、事業資産のみなし譲渡益の100%について課税され、株式を継続保有する既存株主はパススルー課税のメリットを失うことになります。また、売り手にとって単純株式譲渡の譲渡益は優遇税率の対象となるキャピタルゲインとなりますが、みなしアセット・ディールの場合は譲渡益の一部が一般税率で課税される通常所得となる可能性があり、買収対象会社が事業活動を行っている各州で譲渡益の申告が必要となります。