2021年10月29日
レギュレーションギャップをビジネスチャンスへつなげる ―規制のサンドボックス制度

レギュレーションギャップをビジネスチャンスへつなげる ―規制のサンドボックス制度

執筆者 小川 恵子

EY Japan 銀行・証券セクター 兼 アセットマネジメントセクター・コンサルティングリーダー/RegTechリーダー/ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス・金融サービスリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

30年にわたる金融アドバイザリーのプロフェッショナルとして金融界を力強くサポート。趣味は自然と音楽と楽しいお酒。

2021年10月29日

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テクノロジーの進歩が加速する中、技術と規制との差「レギュレーションギャップ」をビジネスチャンスとする取り組みが行われています。


EY Japan RegTechリーダーの小川恵子パートナーは、2021年9月29日~10月1日開催の本イベントでのモデレーターを務め、松山大貴氏(内閣官房成長戦略会議事務局企画官)、鳴海禎造氏(glafit株式会社代表取締役CEO)、富永源太郎氏(Frich株式会社代表取締役CEO)と「規制のサンドボックス制度」を活用したビジネス戦略について意見を交わしました。

要点
  • 現在のテクノロジーは、従来に比べ進化のスピードが速く、社会全体への影響も大きく無視できないものとなってきている。
  • 企業が既存の規制に対し、対応をどのように進めていくかが鍵である。
  • 「規制のサンドボックス制度」をはじめとする当局の施策をより適切に活用することが、レギュレーションギャップに対する戦略として注目されている。

加速するイノベーションと現実との乖離が顕在化している規制

ーー「規制」は、時代の状況を背景に作られてきたルールであり、変化していく時代と規則との乖離、すなわちレギュレーションギャップが生じるのは当然のことです。しかし、昨今の急速に変化する社会環境においては、レギュレーションギャップの拡大がグローバルマーケットにおいて障壁になっています。このギャップをどう埋めていくのかが、規制のサンドボックス制度を始めとするさまざまな施策の本質的な問題意識です。(松山氏)

ーーもともと現行法にのっとった製品を販売していましたが、規制によりユーザーに不便が生じているという声が多く寄せられたことで、レギュレーションギャップを認識しました。(鳴海氏)

ーー世の中をよくしたいという思いから、個人が少額を拠出し合って相互扶助するP2P保険のビジネスを立ち上げようとしたものの、現行の保険業法施行令では、少額短期保険業者は再保険の引き受けができないことが判明し、規制の壁に直面しました。(富永氏)

レギュレーションギャップをビジネスチャンスへつなげる ―規制のサンドボックス制度

企業のレギュレーションギャップに対する戦略

現在のテクノロジーは、従来に比べ進化のスピードが速く、社会全体への影響も大きく無視できないものとなってきています。そうした状況下で、既存の規制に対し企業が対応をどのように進めていくかが鍵であり、企業戦略上その重要性は日に日に増しています。

こうしたレギュレーションギャップがテクノロジー進化の足かせにならないよう、これまでに国としても、さまざまな施策を講じています。その1つが「規制のサンドボックス制度」です。このような当局の施策をより適切に活用することが、レギュレーションギャップに対する戦略として注目されています。

「規制のサンドボックス制度」については、インタビュー記事もご参照ください。

レギュレーションギャップをビジネスチャンスへつなげる ―規制のサンドボックス制度

当局の施策を活用することのメリット

ーー大企業や金融機関との連携においては、「規制のサンドボックス制度」を活用し、当局との対話を行った上でサービスを提供できるということは、提携先における安心感につながっていると感じています。(富永氏)

新しい技術やサービスは、既存の規制などが想定しておらず、その法律的な取り扱いが不明確であることから、企業にとってイノベーション推進の壁となっています。官民で連携することで、イノベーションのよりスピーディーな社会実装を実現するものと期待を寄せています。

規制のサンドボックス制度は、間違いなく機能し始め進み出している――改革の突破口として、次世代の産業を生み出すキッカケになると確信しています。

glafit株式会社 代表取締役CEO 鳴海禎造

日本は世界第3位の保険大国でありながらInsurtechの取り組みは世界に比べると大きく遅れています。一部の起業家にとって「法律に書かれていないが社会実装できないもの」が存在することを理解できない場合があります。「規制」が、法の趣旨を踏まえて都度リスクベースで判断するものであり、数式のように一義的に答えが決まるものではないことがどうしても理解できないのです。また、その問題を解決する実力に乏しい場合もままあります。

「規制のサンドボックス制度」は、まさにそのような社会的課題を解決するために生まれたものだと思っています。この制度によって規制当局とスタートアップが円滑にマッチングされ、日本に次々とイノベーションが起きることを心から期待しています。

Frich株式会社 代表取締役CEO 富永源太郎

レギュレーションギャップをビジネスチャンスへつなげる ―規制のサンドボックス制度
 

金融DXサミット
Financial DX/SUM(フィナンシャル・ディークロッサム)

開催日時:2021年9月29日~10月1日

主催:日本経済新聞社

後援:金融庁、日本銀行

Financial DX/SUM 特設ウェブサイト  (xsum.jpウェブサイトへ)

書籍のご案内

レグテック・イノベーション ダイナミックに新たなるDX社会を創造する
レグテック・イノベーション 
ダイナミックに新たなるDX社会を創造する

EY Japan/日本経済新聞社SUM事務局著 
(日経BP 日本経済新聞出版本部、2021年6月)

本書では、レグテック・エコシステムのリーダーの声も交えながら、レグテックの具体的な市場セグメントと国内外の市場規模を取り上げ、日本が大きく欧米に出遅れる背景を考察することで、そこから読み取れるビジネスオポチュニティを探っています。さらに広義に規制とテクノロジーの関係をひもとき、DX推進における、新たなレグテック・エコシステムの形成が社会に何をもたらしていくのか、当局はどのように動き出しているのか、官民の連携を含めイノベーションを実現する企業戦略について取り上げています。

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サマリー

テクノロジーの進歩が加速する中、技術と規制との差「レギュレーションギャップ」をビジネスチャンスとする取り組みが行われています。「規制のサンドボックス制度」をはじめとする当局の施策を活用し、官民連携による、イノベーションのよりスピーディーな社会実装の実現に期待を寄せています。

この記事について

執筆者 小川 恵子

EY Japan 銀行・証券セクター 兼 アセットマネジメントセクター・コンサルティングリーダー/RegTechリーダー/ダイバーシティ、エクイティ&インクルーシブネス・金融サービスリーダー EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 パートナー

30年にわたる金融アドバイザリーのプロフェッショナルとして金融界を力強くサポート。趣味は自然と音楽と楽しいお酒。