米国、棚卸資産販売所得の源泉地に係わる財務省規則草案

米国、棚卸資産販売所得の源泉地に係わる財務省規則草案

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EY 税理士法人

2020年1月16日

Japan tax alert 2020年1月16日号

2019年12月23日、米国財務省は、2017年12月22日に成立した米国税制改正により改定された内国歳入法第863条(「863条」)に係わる規則草案を公表しました。863条は納税者が生産する棚卸資産の販売から生じる所得の源泉地について規定している条文です。所得源泉地は、米国人(米国法人含む)にとっては外国税額控除制限枠の算定、非居住者(米国外法人含む)にとっては所得が米国で課税対象となるか否かの判断等に重要な意味を持ちます。また、規則草案は、非居住者が申告課税所得として認識すべき棚卸資産の販売から生じる所得の算定と改定後の863条の関連も規定しており、863条の改定に伴い特定の所得を外国源泉と取り扱うことで米国での申告課税の対象外とする動きを牽制しています。規則草案の前文には財務省のポジションに係わる法的サポートが詳しく記載されています。

米国税制改正による863条の改定

「米国内生産・米国外販売」または逆に「米国外生産・米国内販売」される棚卸資産の販売(「863条生産・販売棚卸資産取引」)から生じる所得の源泉地は、生産場所と販売場所に基づき配賦・按分して決定するという従来の規定は、生産場所のみに基づき決定するという規定に変更されています。

一般的な棚卸資産販売から生じる所得の源泉地決定法

863条生産・販売棚卸資産取引以外の棚卸資産の販売、すなわち納税者が生産せずに他者から仕入れる棚卸資産の販売については、所有権が米国内で移管される場合に所得が米国源泉として取り扱われるのが原則となります。ただし、外国法人および事業本拠地(「Tax Home」)を米国外に有する個人(「865条非居住者」)に関しては、865条非居住者が有する米国内事務所が棚卸資産の販売に重要な関与をしている場合には、所有権の移管地にかかわらず米国内事務所に帰する部分の所得を米国源泉所得として取り扱うという特別規定(「米国事務所規定」)があります。ただし、865条非居住者が米国外に有する事務所も同時に重要な関与をしており、かつ棚卸資産が米国外で使用される場合にはその限りではなく、米国事務所規定に拘らず通常の所有権移管に関する863条の規定が適用される。米国内事務所規定の適用時に、米国事務所に帰する部分の所得は、米国で販売される棚卸資産から発生する所得が通常の規定に基づき米国源泉として取り扱われる金額が上限となります。

財務省規則草案の主な規定
  • 863条生産・販売棚卸資産の販売から生じる所得の源泉地を生産場所と販売場所の双方に配賦・按分するという規定の撤廃を受け、従来の財務省規則で規定されていた50%・50%等の配賦・按分方法を廃止。
  • 生産活動そのものが米国内外にわたる場合の所得源泉地決定のための按分法を規定。従来からの生産設備の税務簿価に基づく按分法は継続して適用するものの、税務簿価の算定を通常の償却ではなく、定額法に基づく特殊なAlternative Depreciation System(「ADS」)ベースに変更。税制改正以降、通常の償却法では国内資産に初年度特別償却がより頻繁に適用されるため、所得の不当に多く外国源泉に按分される懸念に対応するため。
  • 865条非居住者が米国事務所規定に基づき、米国外で生産される棚卸資産の販売から生じる米国源泉所得を算定する際、863条の改定に基づき全額を米国外に配賦する方法は不適切とし、引き続き米国事務所規定に基づき所得を米国源泉とすることを確認。ただし、米国事務所規定に基づき米国源泉と取り扱われる所得は、販売活動に帰する部分のみとする点を新たに確認。
  • 865条非居住者が自ら生産していない棚卸資産に関して米国事務所規定が適用される場合には、販売から生じる所得全額を米国源泉所得とする一方、865条非居住者が生産する棚卸資産の販売から生じる所得に関しては、原則50%を販売活動に帰する所得とみなし、米国源泉所得として取り扱う。
  • 865条非居住者が、自らの「会計帳簿および記録類」に基づき、生産と販売活動に帰する所得を50%基準よりも正確に特定することが可能なケースについては、非居住者の選択により「会計帳簿および記録類」法を認める。
  • 例外的な事実関係と言えるが、外国人居住者テスト上は非居住者でも米国内にTax Homeを有している場合、Tax Homeの所在地を基に判断される865条非居住者には当たらず、棚卸資産の販売から生じる所得の源泉地は、通常の米国人同様に863条または所有権の移管地で決定されるが、その上で865条非居住者と同様の課税関係となるよう、米国事務所規定と同じ考え方が適用されるよう規則を再整理。
  • 租税条約の特権を受ける権利を有する外国人が恒久的施設に帰属する所得額を決定する際には、 863条や米国事務所規定の考え方は影響しないことを確認。
適用開始日

規則草案が公告に記載された日以降に終了する課税年度から適用。納税者の選択で早期適用可。