英国、EU離脱後の関税措置を提案

英国、EU離脱後の関税措置を提案

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EY 税理士法人

2017年8月24日
カテゴリー 間接税

Japan tax alert 2017年8月24日号

概要

2017年8月15日、英国政府は今後のEUとの関係について英国の立場をまとめた一連のポジション・ペーパー(以下、「ペーパー」という)のうち、将来の関税措置に関する文書を発表しました。

この中で、英国政府はEUとの今後の関税の取扱いと、一定期間における移行措置についての提案を行いました。これらの提案は、来週から始まる次回の交渉での英国側の指針となります。

今後の選択肢

英国は、EU離脱までは引き続き関税同盟の加盟国であり、関税分野ではEU法を適用し続けることになります。今回発表されたペーパーは、EU離脱に伴い関税同盟を脱退することを確認すると共に、今後の英国とEUの関係性について以下の2つのアプローチを提案しています。

1. 高度に円滑化された通関手続の導入

EUから離脱をすると、これまでEU加盟国には課されてこなかった通常の通関手続がEU加盟国との貿易にも適用され、関税同盟に属する場合と比較して、行政手続が増加することになります。ペーパーによると、このアプローチ下では、国境で必要とされる確認の数や複雑さを削減する様々な方法が導入されることになります。また、港湾及び空港での遅延を最小化すべくAEOの相互認証のための交渉を進めるとしています。

2. EUとの新たな独自の関税パートナーシップ

上記の「高度に円滑化された通関手続」の導入は、英国とEU加盟国が第三者として貿易を行うものとして、それにあたり必要となる通関手続を可能な限り効率化することを目指しています。一方で、新たな独自の関税パートナーシップの提案は、関税同盟の枠外で新しいアプローチを確立しつつ、国境での通関手続の必要性を排除しようとするものです。

英国が求める特別なアプローチは、EU市場が最終消費地の物品について、サプライチェーンの上流で英国を経由する場合は、EUの通関手続にならった輸入制度を英国とEUが共同で運営するようにしようとするものです。この場合、英国は共通域外関税を適用する必要があり、英国に到着するEU加盟国を仕向地とする物品についてはEUと同様の原産地規則を適用しなければなりません。

ペーパーは、EUの貿易政策を順守しない物品を確実に英国内に留める強力な執行メカニズムが必要であることを指摘しています。また、このアプローチは「検討と導入に時間を要する革新的かつ前例のない」ものであることを認めています。

アイルランド共和国との陸上国境については「厳格な国境(ハードボーダー)」には戻らないとし、上記の措置に加えて追加的な措置が必要になるとしています。また、北アイルランドとアイルランド共和国との間の厳しい国境管理を避けるための答えは、北アイルランドと英国本島との間で通関手続を導入することではないことも明らかにしています。

加えて、EU離脱にあたっては、英国は新しい国内法の整備が必要であると述べられています。新たに制定される関税法案は、英国がEU離脱後に独自の関税、付加価値税及び物品税システムを運営するために必要となるものです。

移行期間

英国政府は、最終的な関係性が定まるまで、EU離脱直後から一定の移行期間を設けることをEU側と共に模索したいとしています。ペーパーは、共通域外関税を維持したうえで、英国とEU加盟国との間の貿易には通関手続や関税を課さない時限的な関税同盟の可能性を示唆しています。移行期間の長さについては、EUとの合意形成の進捗状況に応じて設定されるとしています。

ペーパーでは、EU離脱後、英国が他国との新たな貿易交渉を進める意向であることを明確にしていますが、移行措置の実施期間中は移行措置の条件に合致しない第三国との新たな協定については発効させないとしています。事前の予想では、英国は移行期間終了まで新たな協定を締結しないことに同意するとみられていたため、一歩踏み込んだ言及がなされたことになります。

今後のスケジュール

英国政府の思惑通りに進むと仮定した場合の今後のスケジュールは以下の通りです。

 

EU加盟期間
(~2019年3月)
移行期間 「新たな」関係
  • 関税同盟加盟国
  • EU法適用
  • 新関税法の策定開始
  • 共通域外関税の適用
  • 英・EU間の通関手続の省略
  • 新関税法の導入
  • FTA交渉開始

対EU

  1. 高度に簡素化された通関手続の導入
  2. EUとの新たな独自の関税パートナーシップ

第三国

新規のFTA又はWTOルールに基づく貿易

企業に求められる対応

今後、新たな貿易協定の交渉が行われていくことになりますが、複雑な貿易交渉の結果について明確になるのはもう少し先となる可能性があります。交渉期間終了まで対応を怠ると、法令や新たな貿易協定に合わせた、計画的な対応をとるのに十分な時間が取れなくなります。

EYは、貴社と協力して、英国の関税同盟からの脱退がもたらすであろうコストとコンプライアンス負担を特定し評価します。現在利用しているFTAや恩恵を受けている法令を確認したうえで、関税同盟からの脱退に貴社の業務やサプライチェーンが確実に準備できるようサポートします。

また、ペーパーに記載されている提案のいずれかにEUが合意する、又は合意しないという前提の下で、影響緩和策を検討する支援も行います。

影響緩和策の中でも、特に対応が急がれるのがAEOの申請です。英国税関(HMRC)は、輸出入時の遅延を最小化するためのAEOの活用に重点を置いています。AEO許可申請は現状でもかなりの時間がかかりますが、EU離脱が近づくに連れ更に時間を要することが予想されるため、早急に取得の準備を始めることをお勧めいたします。

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