シンガポールが2017年国別報告書に係るガイドライン(e-Tax Guide)を公表

シンガポールが2017年国別報告書に係るガイドライン(e-Tax Guide)を公表

EY Japanの窓口

EY 税理士法人

2016年10月27日

Japan tax alert 2016年10月27日号

エグゼクティブ・サマリー

2016年10月10日、シンガポール内国歳入庁(以下、「IRAS」)はシンガポール多国籍企業(MNE)グループを対象とする国別報告書(以下、「CbCR」)の導入に関する詳細なガイドライン(以下、「CbCRガイダンス」)を公表しました。このCbCRガイダンスは、「税源浸食と利益移転(以下、「BEPS」)イニシアティブの一環として、2015年10月に公表された行動計画13の実施に関する最終パッケージにおいて、経済協力開発機構(以下、「OECD」)が推奨しているガイドラインに概ね準拠しています。

シンガポールは、2016年6月(BEPS準参加国として)、CbCR導入を含む、BEPSプロジェクトに基づく4つの最低基準の採用を確約しましたが、今回のCbCRガイダンスの公表はこれに沿ったものです。

CbCR要件は、連結売上高が11億2,500万シンガポール・ドルを超えるシンガポールのMNEグループが対象となり、2017年1月1日以降(及び2018年1月1日までに)開始する会計年度に適用されます。

CbCRは、シンガポールがCbCRの情報交換について取り決めた協定を関連管轄区域と締結した場合に限り、当該管轄区域と共有されます。さらにIRASは、その管轄区域が強固な法規範を有し、交換された情報の機密を確実に保持し、不正使用を防止できることを確認した場合に限り、CbCRの交換に関する協定を当該管轄区域と締結します。その管轄区域が情報を乱用したことが判明したり、機密保持の義務に違反した場合、IRASは当該管轄区域との情報交換を一時停止又は中止します。

シンガポールはCbCRに関する法令を導入する予定であり、今年後半の成立が見込まれています。

CbCRガイダンスは、2016年に外国管轄区域のCbCR要件の対象となったシンガポールのMNEがシンガポールで任意提出する可能性について触れていません。したがって、2016年に外国管轄区域のCbCR要件の対象となったシンガポールのMNEは、関連する税務当局の各々に提出するか、又は、提出を行う代理親会社を指定しなければならない可能性が高いと思われます。

シンガポールの義務の具体的内容

提出義務

シンガポールのCbCR要件は、以下の条件を満たすMNEグループに適用されます。

  • MNEグループの最終親会社(UPE)が、CbCRが作成される会計年度にシンガポールの居住者であること(すなわち、シンガポールのMNEグループのみが適用対象)
  • 前会計年度におけるグループの連結売上高(2017年度の提出に関しては2016年度の売上高)が11億2,500万シンガポール・ドルを超えていること
  • MNEグループが1つ以上の外国管轄区域において子会社を有するか、又は事業を行っていること

提出期限

シンガポールのMNEグループがある会計年度に上記のCbCRの提出要件を満たす場合、そのMNEグループのUPEは、会計年度末から12カ月以内にCbCRをIRASに提出することが求めれらます。

CbCRをIRASに提出すべき最も早い期限は、2018年12月31日です(会計年度が2017年12月31日に終了するMNE)。

入手可能な情報によれば、IRASはCbCRの対象となる納税者を特定し、2018年上半期にCbCRの提出に関する追加情報を提供するとみられます。

CbCRの様式

IRASは、CbCRで提出すべき情報に関するテンプレートを公表しています。このテンプレートは、BEPS行動計画13の推奨に準拠した次の3つの表で構成されています。

  • 表1 : MNEグループが事業を行う個々の税務管轄区域に対する、同グループの所得、納付税額、従業員数及び資産の配分の概要
  • 表2 : 個々の税務管轄区域で設立されたMNEグループの構成会社(恒久的施設を含む)の概要
  • 表3 : 関連性があり、CbCRに記載されたデータの解釈や理解に有用であるとMNEグループが判断した追加情報

CbCRの提出

現時点で、IRASはCbCRの提出方法に関する詳細を示していないものの、十分な水準の暗号化によりCbCRを送受信する電子サービスを現在開発中であると述べています。

第二のメカニズム(補完的メカニズム)

BEPS行動計画13の2015年最終報告書では、CbCRに関する第二のメカニズムの概念が導入されました。第二のメカニズムの下では、MNEグループの最終親会社がCbCRを要求しない管轄区域に所在する場合、CbCR作成の責任は、CbCRを要求する管轄区域に所在する同グループの次のレベルの親会社が自動的に負います。したがって、この第二のメカニズムの下では、CbCRを要求しない管轄区域に本社を有するMNEグループは、外国管轄区域で事業を行っている場合、その管轄区域のCbCR要件の適用対象となる可能性が依然としてあります。

CbCRガイダンスによれば、シンガポールのCbCR要件はシンガポールのMNEグループにのみ適用され、IRASは、外国MNEグループが行う代理提出の形によるCbCRの提出を受け入れない意向です。

それにもかかわらず、シンガポールのMNEグループは外国管轄区域の第二のメカニズムに基づき2016年のCbCR要件の適用対象となり、関連する税務当局の各々に自身の2016年度CbCRを提出するか、提出を行う代理親会社を指定しなければならない可能性があります。

通知要件

CbCRガイダンスによれば、IRASは、CbCRに関連して管理目的の追加的なデータ・フィールド(例えば、報告企業や構成企業の識別番号)に関する追加ガイダンスを公表する予定です。

シンガポールのUPEは、シンガポールのMNEグループが事業を行う様々な管轄区域におけるCbCRに関わる現地の要件を考慮すべきです。管轄区域によっては、2016年末までに行うべき明確な通知要件が定められていることがあります。シンガポールのMNEグループは通知要件の策定に注意を払い、確実に期限内に管轄区域に通知を行うようにして、外国税務当局から違反に対する罰則を課されないようにする必要があります。

CbCRの交換

CbCRに特定された管轄区域によっては、CbCRの情報の自動交換に関する協定が関連税務当局と締結されていることがあり、その場合、IRASは、CbCRを導入しているその管轄区域の税務当局にシンガポールのMNEグループのCbCRを提供します。

注意すべきは、シンガポールは現在、CbCRの交換に関する多国間協定(Multilateral Competent Authority Agreementon the Exchange of CbC Reports: CbC MCAA)に調印していないことです。CbC MCAAは、管轄区域間におけるCbCRの自動交換に関する規則と手続きを定めるためにOECDが策定したものです。これまでCbC MCAAに調印した国は40カ国を超えています。

CbCRガイダンスによれば、IRASは、相手の管轄区域が強固な法規範を有し、交換された情報の機密を確実に保持し、不正使用を防止できることを確認した場合に限り、CbCRの情報を交換するための協定を当該管轄区域と締結します。IRASは、租税条約又は情報交換協定を有している管轄区域のみとCbCRの情報交換協定を締結する意向なのか現時点では明確になっていません。

罰則

CbCR要件を満たす納税者がCbCRを提出しなかった場合、所定期限後に提出した場合、又は不正確な情報を提出した場合、国際的な税務コンプライアンス協定に基づく情報の不提出に対する罰則を定めた所得税法第105M条により処罰されることがあります。同条に基づく最高罰則は1万シンガポール・ドル以下の罰金もしくは2年以下の懲役、又はその両方です。

Q&Aセクション

CbCRガイダンスにはQ&Aセクションが含まれており、CbCRで報告すべき一定の金融用語の定義及びその他の解釈上の問題点の明確化が図られています。注目に値するのは、IRASが関連会社や合弁会社は構成会社の定義を満たすものとはみなされないとする立場を取っていることです。

納税者は、CbCRガイダンスのQ&Aセクションに記載された追加ガイダンスを適用する際、そのガイダンスが第二のメカニズム(補完的メカニズム)に基づいて適用対象とされる可能性のある他の管轄区域の特定のCbCR要件と整合しているかどうかを評価する必要があります。

適用除外

IRASは、CbCR要件を満たすシンガポールのMNEグループに対するCbCR作成の適用除外を定めていません。

任意提出

CbCRガイダンスは、2016年に外国管轄区域のCbCR要件の対象となったシンガポールのMNEがシンガポールで任意提出する可能性について触れていません。したがって、2016年に外国管轄区域のCbCR要件の対象となったシンガポールのMNEは、関連する税務当局の各々に提出するか、提出を行う代理親会社を指定しなければならない可能性が高いと思われます。

マスターファイルとローカルファイル

IRASは現在、BEPS行動計画13の他の要素(マスターファイルとローカルファイル)の採用を組み入れていませんが、移転価格文書に関する現行ガイダンスにより、納税者はグループ・レベルの情報と企業レベルの情報を含めることを求められます。またシンガポールのMNEグループは、他の諸国がそれを導入していること、及び3つの文書(マスターファイル、ローカルファイル、CbCR)の統合の重要性を銘記しておく必要があります。これら3つの文書は、全体として移転価格に関する一貫した立場を表示し、MNEグループに関する有用な情報を税務当局に提供するものであるべきです。

IRASはCbCRガイダンスにおいて、CbCRの情報は、十分な機能分析と十分な比較可能性分析に基づく個別取引や個別価格に関する詳細な移転価格分析の代替物として使用すべきでないことを明確にしています。移転価格文書は依然として、移転価格が適正かどうかに関する決定的な証拠を示す、かかる詳細な分析を提示する主要文書です。

※本アラートの全文は、下記PDFからご覧ください。

関連資料を表示

  • Japan tax alert 2016年10月27日号をダウンロード