英国、EU離脱派が勝利

英国、EU離脱派が勝利

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Japan tax alert 2016年6月24日号

2016年6月23日、英国は欧州連合(EU)の残留・離脱を決定する国民投票を行いました。その結果、2016年6月24日の選挙管理委員会の発表によれば、EU離脱派が約52%対48%の僅差で残留派を上回り勝利しました。

離脱直後の影響

英国は、EUから離脱する法的手続きを完了するまではEU加盟国として留まることになります。ただし、加盟国のEU離脱を認めるリスボン条約第50条の発動時期を決定するための必要な手続きをいつ開始するかということについて、これから議論が開始されます。この条約は離脱前に2年間の交渉と準備期間を設定しています。この期間は延長も可能ですが、EUのリーダー達の最近の声明には、他の加盟国に離脱感情が広がるリスクを懸念して、迅速な行動計画に対する要望が反映されています。

この投票結果が金融市場とポンドにボラティリティを生じさせることになると予想されています。国民投票の直前の週には、ポンドが米ドルやユーロに対して、短期間上昇しましたが、この上昇分は既に消失され、離脱の結果によるポンド下落が予想されます。

規制の観点からいうと、英国は金融セクターのEUパスポートシステムに対するアクセスも含め、EU規制の対象となる状態が続きますが、リスボン条約第50条規定による2年の間に自国の地位に関する再交渉が必要となります。このことは、英国の欧州市場に対するアクセスについて、重大な不確実性につながることを意味しています。

離脱派は英国の地位を有利な条件で再交渉することができるというキャンペーンを掲げてきましたが、これは過去に前例がなく、EUは他の加盟国において、同様の国民投票を行うという支援運動に対するメッセージに非常に敏感になっています。

租税に対する影響

国民投票の結果により、様々な領域の租税について英国の立場を再交渉し、決定する必要性が求められます。英国が2年間の交渉を開始する第50条の発動に遅れが出るとの予想もあります。

懸念事項と不確実性があるとして国民投票の前に検討された次の分野に対し、英国の財政当局は注力する必要が生じました。

  • 英国はEEA(欧州経済領域)及び関税同盟から離脱し、新しい地位を再交渉する必要があります。これは、EEAの投票権のない加盟国となる、又は、二国間条約を通じて、あるいは他の世界貿易機構加盟国と同じように関税を支払うこともあり得ます。
  • 英国は様々なEU指令に対するアクセスが不可能になり、また、法的に拘束されることがなくなります。このことは、免税条項の適用を失うことも含んでいます。たとえば、配当、ロイヤルティ及び利子に係る源泉税、並びに、EU域内合併に係るキャピタルゲイン税があります。
  • 他方、英国は、報告義務の拡大、並びに租税回避防止を目的として、最近合意されたEU指令の適用を受けなくなります。
  • 経済的な不確実性に起因する税率の変動は、重要な検討事項となります。景気後退による歳入減少に対応するため、短期間の間、法人税をさらに減税し、付加価値税や所得税を増税するという憶測もあります。

英国は現行のEU内の税制改革の分野からは身を引くことになります。ただし、OECD加盟国として、税源浸食と利益移転(BEPS)プログラムへの参加は継続します。OECD BEPSの勧告事項及び様々な行動計画の導入に注力する一方で、G20諸国の中で最も競争力があり魅力的な法人税制度を通じて、英国への対内投資を誘致する政策を進めることになります。

英国は共通連結法人税課税標準(CCCTB)をさらに推進する計画には参加しないこととなります。この制度は、EU全域にわたりさらに法人税を統合し共通基準を設けるというもので、英国はこのような租税のさらなる統一化に反対していたため、CCCTBの進展に勢いがつくことが考えられます。

英国は、今後EU域外の地位について交渉し、立法化する緊急の必要性に再注力することになります。これは、ノルウェー型のEEAへのアクセスする、又はスイスと同様に欧州諸国に対するアクセスにつき二国間協定で合意するかのどちらかになるのではないかという憶測が広まっています。双方ともEU市民の移動の自由を要件とし、現行のEU移民制度に係る英国の地位と変わらないことになります。このような結果は、離脱派にとっては移民制度が議論の重点であったため、歓迎されておりません。

日本企業への影響

英国に事業拠点又は欧州本社を有する日本企業グループにとって、国民投票の結果によるEU離脱の決定は、税務と財務のボラティリティにおける招かれざる不安定性をもたらすことになります。税務上の変化及び財務上のボラティリティについて、潜在的な影響の見直しをまだ実施していない場合は、この結果への対処法を短期間に決定する前に、まず完全な見直しを行うことが至急の課題となります。

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