EUの国別報告書開示指令案が公表される

EUの国別報告書開示指令案が公表される

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Japan tax alert 2016年4月13日号

主要なポイント
  • EUのいわゆる「会計指令」に係る改正案が欧州委員会により欧州議会及び理事会へ提案され、その内容が公表されました。
  • この改正指令は、OECDの国別報告書の要件と類似した「法人所得税に関する情報」の新たな報告・開示義務を導入します。
  • この規則は、EU企業だけでなく、親会社がEU以外の企業グループにも適用されますので、EU加盟国に子会社又は支店を有する日本企業も遵守する必要があることとなります。すなわち、日本企業グループのEU加盟国での事業について、法人所得税に関する情報を国別に報告・開示しなければならなくなります。
  • さらに、国別報告書には、タックス・ガバナンスの基準に関して、EUが定める一定の水準を満たしていないとみなされる一定の租税管轄国(地域)のリストに掲載されている国に係る情報についても国別に報告・開示しなければならなくなります(いわゆる「タックスヘイブン」と呼ばれてきた国・地域がこれに該当しますが、指令案では「タックスヘイブン」という用語は使われておりません)。
  • 最後に、上記のEUによる「タックスヘイブン」認定リスト上の国以外の(日本を含む)非EU諸国に係る情報は、一括・集計された「その他」という一つの報告単位とされて、報告・開示することとなります。
  • 改正指令案の説明文書において、「小規模会社」と呼ばれる従業員50人未満及び/又は売上高の小さい(詳細は各国の基準による)等の会社については、報告・開示義務を免除することが提案されています。
  • 対象企業は、自社のウェブサイト上で、5年間継続して情報を開示しなければなりません。
  • 開示情報は、改正指令の基準に準拠して報告・開示されているかを確認するため、法定監査人による監査を受ける必要があります。
改正「会計指令」案の詳細

2016年4月12日、欧州委員会が「会計指令」の改正案を発表しました。今回の改正は、EU域内で事業を行う多国籍企業による国別報告書の情報開示の様式を定めることを目的としています。

改正指令案には、企業が自社のウェブサイト上に、法人税に関する特定の情報を国別に開示することを義務付けるという提案が含まれています。

1. 報告・開示義務者

新たな報告・開示義務は、連結純売上高が7億5千万ユーロ超の多国籍企業(「適格グループ」)に適用されます。報告・開示義務は次の場合に生じます。

  • EUに本拠を置く適格グループの究極的な親会社である企業で連結純売上高が7億5千万ユーロ超の場合
  • 親会社がEU加盟国以外にある適格グループのEU域内における大規模及び中規模の企業で、究極的な親会社の連結純売上高が7億5千万ユーロ超の場合
  • 連結純売上高が7億5千万ユーロ超であるEU加盟国以外の親会社の適格グループの企業等のEU支店が、当該支店所在地国の定める一定の基準値を超える場合

ただし、「資本要件指令(Capital Requirements Directive)」に基づいて銀行業務について報告・開示している銀行グループには、上記の報告・開示義務はありません。しかしながら、親会社がEU加盟国以外にある銀行グループは、「資本要件指令」の下では報告・開示義務の対象とはなってはいないため、上記の基準値を超える場合には、改正「会計指令」の下で報告・開示義務が課されることとなります。

2. 報告・開示項目

法人所得税に関する情報は以下のとおりです。

  • 連結財務諸表に含まれる全ての関連会社の事業を含む究極的な親会社の事業活動
  • 事業内容の性質に関する簡潔な記載
  • 従業員数
  • 純売上高(関連会社間の売上高も含みます)。したがって、改正指令により開示が義務付けられる情報と連結財務諸表に開示されたものとは一致しない可能性があります。
  • 税引前利益又は税引前損失
  • 当期の税金費用(ただし、繰延税金又は未確定の納税引当金は含まれません)
  • 納税額
  • 留保利益

上記の情報は、各EU加盟国、及び(まだ具体的には特定はされてはいませんが)一定の国(「タックスヘイブン」に相当する国)ついての国別の報告・開示が義務付けられます。また、非EU加盟国については、国別ではなく、非EU加盟国の全てについて集計した情報を報告・開示することになります。なお、加盟国内又は上記のいわゆる「タックスヘイブン」指定国の同一国内の複数企業のデータは、各国単位で集計して報告・開示しなければなりません。

報告・開示に使用する通貨単位は、連結財務諸表に使用された通貨単位となります。 

3. 適用開始時期

現時点で立法過程を予測するのは非常に困難です。指令案は4回の審議を経なければならない可能性があります(欧州議会で2回、理事会で2回)。このうち2回には時間的制限が無く、他の2回は最長で4カ月かかることがありえます。改正指令が採択された場合、発効後1年以内に全てのEU加盟国に国内法制化が義務付けられることになります。最初の情報開示は、指令採択後少なくとも2年以後に開始する事業年度から適用が開始されます。開示情報は、企業のウェブサイト上で、5年間以上継続してアクセスが可能な状態としなくてはなりません。

この指令案の詳細は、OECDの行動13の要件を超えるものとなるため、激しい議論の的となることが想定されます。他方、今回の欧州委員会による提案は、EUの「会計指令」の改正として提案されており、租税上の措置ではないため、全会一致を必要とせず、EU加盟国28カ国の特定多数決(55%又は16加盟国の賛成)が得られれば、理事会で採択されますので、法制化される可能性は高くなります。指令の採択後、全てのEU加盟国は1年の猶予期間内に、指令に準拠した国内法を立法化する義務があります。

情報開示の結果、一般公衆によっても精査されることとなる情報を管理するためには、その情報がどのように見られるかという点に関する十分な理解が必要となります。企業は、自社のEU及びグロ―バルな事業活動とそれに関連する租税について、新たに、一般公衆レベルの監視も受けることになり、風評リスクにも直面することとなります。この新たなルールがもたらす影響を総合的に判断するために、他の情報開示(ディスクロージャー)の要件と併せた検討が必要となります。

※本アラートは、PDFでもご覧いただけます。

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