国税庁、富裕層の管理体制強化へ 財産債務調書、初回提出期限は3月15日

国税庁、富裕層の管理体制強化へ 財産債務調書、初回提出期限は3月15日

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2016年2月10日
カテゴリー その他

Japan tax alert 2016年2月10日号

国税庁は、国内における富裕層の資産管理・調査体制を強化するため、財産債務調書制度を創設し、該当者は、2016年(平成28年)3月15日に第一回の提出期限を迎えます。この制度は、2014年から施行された国外財産調書制度に続くもので、新たな制度の導入により、富裕層の資産動向の把握は国内、海外ともに一層強化されます。

財産債務調書の提出が求められるのは、1.所得税の確定申告書を提出する者(確定申告期限は同じく3月15日)、2.合計課税所得が2千万円を超え、かつ、3.その年の12月31日において価額の合計額が3億円以上の財産、又はその合計額が1億円以上の国外転出時課税の対象財産を有する者、のすべての条件を満たす納税者です。したがって、今回の提出義務者は2015年12月31日時点での保有財産が基準となります。

調書には、国内にある財産・債務両方の記載が求められ、記載項目には種類、数量、価額、所在等があります。海外の資産調査を目的とした国外財産調書は、故意の不提出・虚偽の記載に対して1年以下の懲役、又は50万円以下の罰金が科されますが、財産債務調書を提出しないことによる罰則規定はありません。しかし、仮に税務調査が入った後に修正申告書を提出した場合、財産債務調書を提出しなかった納税者は過少申告加算税が5%加重される一方、提出した場合は5%軽減されるので、申告者にもメリットはあります。

国外財産調書と財産債務調書両制度の導入により、国内外の財産及びそれらの財産から生じる所得にかかる情報を国税当局が捕捉するのは、時間の問題といえます。しかしながら、制度に対する納税者の認知度は依然として低く、国外財産調書の提出件数は2013年で5,539件、2014年は8,184件にとどまっています。これは国税庁の周知不足が一因と見られています。

プロジェクトチームの動向にも注目

税務当局による富裕層の管理体制強化のもうひとつの動きとして注目されるのが、富裕層をターゲットとする専門のプロジェクトチームです。国税局内(東京・大阪・名古屋)に2014年事務年度に発足し、「重点管理富裕層」と呼ばれる富裕層の抽出を目的としています。国税局は、形式基準と実質基準の2つの基準から、重点管理富裕層の該当者を特定します。形式基準は、国外財産調書、財産債務調書、会社四季報やマスコミの記事などの情報をもとに、見込保有資産総額が特に大きい者を洗い出します。実質基準は、一定規模以上の資産を保有し、国際的租税回避その他の富裕層固有の問題が想定される者、という観点から重点管理富裕層を選定します。

国税庁の調査で選定された重点管理富裕層は、以下の3つの区分にて管理されます。

  • A区分:調査企画着手担当者
    課税上の問題が想定され、調査企画の着手が相当と認められる者
  • B区分:継続的注視必要者
    課税上の問題は顕在化していないものの、多額な保有資産の移動が見受けられるなど、継続的な注視が必要と認められる者
  • C区分:経過観察相当者
    A、B区分以外で経過観察が相当と認められる者

国税庁が作成した名簿によって、重点管理富裕層に該当する個人・法人が管理されます。EY税理士法人プライベートクライアントサービス部、エグゼクティブディレクターの里見典子は、「国外財産調書、財産債務調書の導入や重点管理富裕層に特化したプロジェクトチームの発足といった国の内外の資産をチェックする制度強化により、超富裕層の課税強化はこれからますます厳しくなります。納税者は、適正な申告をこれまで以上に求められており、国内外の資産整理を含めた十分な対応が必須です」と述べています。

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