関税関連法における平成28年度税制改正の影響

関税関連法における平成28年度税制改正の影響

EY Japanの窓口

EY 税理士法人

2016年1月29日
カテゴリー 間接税

Japan tax alert 2016年1月29日号

1. はじめに

平成27年12月24日、平成28年度税制改正大綱が閣議決定され、国会に提出されました。大綱では平成28年から29年にかけて施行される関税関連法の改正について規定しています。本アラートでは、大綱で明らかにされた関税面での重要な改正について取り上げています。

2. 加算税関連の改正

関税法では、輸入に際し貨物の関税評価額を適正に申告せず、その後税関により関税評価額が過少であったと指摘を受けた輸入者に対しては、過少であった関税の10%が過少申告加算税として課されます。しかし、税関の事後調査にあたり、調査の行われる日までに輸入者が過少申告内容を自主的に開示した場合、事後調査の事前通知を受けた後であっても、加算税を課さないこととされてきました。この取り扱いの結果、調査の直前に過少申告の内容を開示して加算税を逃れる輸入者が増加したため、その対策として、本改正では、調査の事前通知が行われた後に自主的に開示を行う輸入者に対しても、5%の加算税を課すこととなります。この改正は、通関ごとにより適正な申告を行うという輸入者のコンプライアンス意識を高める目的とともに、調査の事前通知後であっても自主的に開示する輸入者には、依然として低い加算税(5%)を課すというインセンティブを与えるものでもあります。

輸入に際し申告自体を行わない(無申告)輸入者が、事前通知を受けた後にその内容を自主的に開示した場合、より重い10%の加算税が課されますが、これも無申告が調査で発覚した場合の加算税15%より低くなっています。

さらに、過少申告に対する加算税を課された輸入者が、それ以前の5年間に無申告加算税(又は関税申告の虚偽や重過失に対する重加算税)を課されていた場合、適正な関税申告を繰り返し怠ったことへの加算税として10% が加重されます。

このように、より厳しい適用が導入されたことで、輸入者は正確な申告を行うこと、そして適正な関税申告を繰り返し怠ることへの加算税の加重措置を避けるために、必要であれば自主的な開示を行うことをより強く意識する必要があります。

3. 輸出入申告書提出官署の自由化

輸出入申告官署の自由化が平成29年に導入され、認定事業者(AEO)は輸出入申告書を提出する税関をより自由に選択することができるようになります。現在、輸入申告は、貨物が実際に置かれている地域を所管する税関に対して行わなければりません。そのため多くの企業は、港ごとに通関業務を行う複数の通関業者を雇わなければなりません。

AEOは、適切に輸出入業務を管理する能力を有し、適正な申告を行える者と税関長から認定を受けた者であることから、AEOは今回の新しい措置によって、貨物が実際に置かれている地域以外の税関に柔軟に申告を行うことができるようになります。一方AEO以外の事業者については、今までどおり、貨物が置かれている地域の税関に輸入申告を行うことが維持されます。

この措置は日本のAEOに対し、通関に係る事務管理費用のさらなる削減及び輸入業務の簡素化だけではなく、関税コンプライアンス強化の好機をもたらすことができます。今まで、AEOの認定制度のメリットを評価していなかった日本の企業に対して、今回の改正はこの制度に大きく興味を抱かせることになります。

4. その他

暫定税率の適用期限延長
現在設定されている431品目の暫定税率は、牛肉・豚肉の特別関税と共に平成29年3月31日まで延長されます。

「輸出してはならない貨物」への営業秘密侵害品の追加
営業秘密の不正使用により生じた物であると知ってこれを輸出入する場合が、不正競争行為として、関税法における「輸出してはならない貨物」のリストに追加されます。

TPP協定への署名に伴う国内法の改正
TPP協定への署名を見込み、協定の条項を批准するために国内法の改正が行われます。これには原産地証明手続、緊急関税(セーフガード)措置、及び協定で規定する個別の貨物の免税に関する改正が含まれます。

延滞税計算期間の見直し
延滞税の計算対象となる期間で、関税の申告が行われた後に税額が減額更正され、さらにその後税額が増加した場合、当初の関税申告から増額更正までの期間には延滞税が課されなくなります。

5. 企業への影響

平成28年度税制改正大綱の関税面の変更によって、輸入業務の柔軟かつ効率的な遂行が可能となり、企業にとってはビジネス機会の拡大がもたらされますが、一方でコンプライアンス要件全般について、より強固な措置が導入されるため、企業にとっては輸出入コンプライアンスがこれまで以上に重要になります。また、輸出入者がその組織において、機能的なコンプライアンスシステムを保持しているか否かは、AEO認定やFTAに基づく自己証明制度の利用を検討する際に、税関が注目する重要な要素の一つでもあります。

コンプライアンスへの対応策としては、輸出入取引に関する情報を、輸出入業務の管理部門全般にわたり適切に伝達交換し、関税評価額の意図しない過少申告や無申告に対する加算税を受けないようにしなければなりません。今回の改正によって、税関事後調査の事前通知を受けた後に修正申告を行ったとしても追加の加算税が課されるため、日々正確な輸出入申告を行うことがこれまで以上に重要になります。最後に、TPP協定における原産地証明が批准されることで原産地証明の要件が緩和されますが、確実に輸出入者又は生産者によって正確な原産地証明が行われなければならないことを、より意識する必要があります。

関連資料を表示