収益認識の開示 第1回:財務諸表の表示

2021年12月16日
カテゴリー 解説シリーズ

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 森田 寛之

1. 概要

2018年3月30日に、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」と企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、「収益認識基準等」という)が公表されました。

その際、収益認識の表示並びにその注記に関しては収益認識基準等基準を早期適用する場合の必要最低限の注記(企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))のみを定め、財務諸表作成者の準備期間を考慮したうえで、収益認識基準等が適用される時(2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに主に以下の項目について検討することとされていました。

(1) 収益の表示科目

(2) 収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)の区分表示の要否

(3) 契約資産と債権の区分表示の要否

これらの検討の結果2020年3月31日に収益認識の表示並びにその注記に関して、下表Ⅰの基準(以下、「改正基準」という)が公表され、その具体的な内容は下表Ⅱのとおりになります。

Ⅰ. 改正基準

改正基準

Ⅱ. 改正基準の具体的内容

改正基準の具体的内容

2. 適用時期

改正基準は、2018年会計基準の適用日を踏襲し、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用となります。

早期適用として、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から改正基準を適用することができます。なお、早期適用については、追加的に、2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から改正基準を適用することができます。

3. 表示に関する定めの追加

(1) 損益計算書の表示科目

顧客との契約から生じる収益の額を、適切な科目をもって損益計算書に表示するか、注記することになります。また、顧客との契約から生じる収益は、例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示することになります(改正基準第78-2項、改正適用指針第104-2項)。表示科目の具体的な指針を設けることはせず、企業の実態に応じた科目で損益計算書に表示することを求めていますが、一定の表示科目に統一することのコンセンサスを得ることは難しいと考えられることや、国際的な会計基準やこれまでの実務との整合性を考慮したことを理由としています(改正基準第155項)。

損益計算書の表示科目

(2) 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合の取扱い

顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)は、損益計算書において区分して表示することになります(改正基準第78-3項)。

なお、区分処理することとした金融要素の影響の表示については、その表示又は注記の方法を定めていないため、他の金融要素の影響(受取利息又は支払利息)と合算して表示すること、また合算して表示した場合において追加の注記をしないことは妨げられないと考えられています(改正基準第157項)。

(3) 貸借対照表の表示科目

収益認識基準等では、契約資産と債権を貸借対照表において区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができることとし、当該区分表示の要否は、収益認識基準等が適用される時までに検討することとされていました。

改正基準においては、当該記載を削除し、契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表に他の資産と区分して表示するか、貸借対照表に他の資産と区分して表示しない場合はそれぞれの残高を注記することになります。区分して表示しない場合には契約負債の残高を注記することになります(改正基準第79項)。

また、収益認識基準等では、契約資産、契約負債又は債権を、適切な科目をもって貸借対照表に表示するとしていましたが、改正基準においては契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権については下の表のとおり例示が記載されています(改正基準第79項及び改正適用指針第104-3項)。

貸借対照表の表示科目

(4) 返金負債の表示・契約資産の性質に関する取扱いの見直し等

返品権付きの販売を行う場合、返金が見込まれる金額を見積り、受取対価から当該金額を差し引いた金額で収益を認識します。また、返品が見込まれる資産を見積り、当該金額を差し引いて売上原価を計上します。なお、返金見込額により認識した負債(返金負債)及び企業が商品又は製品を回収する権利として認識した資産(返品資産)は、各決算日において見直す必要があります(会計基準第53項、適用指針第87項、第88項)。この際、貸借対照表科目である返金負債と返品資産は相殺表示しないことになりました。その他、契約資産、契約負債等の表示ルールは以下の表のとおりとなります。

返金負債の表示・契約資産の性質に関する取扱いの見直し等

(5) 適用初年度の免除規定

本会計基準等の適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表(注記事項を含む)及び前事業年度の個別財務諸表(注記事項を含む)すなわち、適用初年度の比較情報について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができます。

本会計基準等の適用初年度においては、本会計基準等において定める注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができます。

適用初年度の免除規定