解散の税務 第1回:解散法人の税務

2018年9月27日
カテゴリー 解説シリーズ

EY税理士法人 税理士 石井 綾子

1. はじめに

法人が解散した場合の税務申告については、解散の日を含む事業年度から残余財産確定の日までの各事業年度について、それぞれの内容を理解する必要があります。本シリーズでは解散法人の税務及び解散した法人の株主(法人株主に限る)の取り扱いについて解説いたします。

2. 解散会社に係る事業年度の取り扱い

(1)事業年度の区切り

会社が解散をした場合には、その事業年度開始の日から解散の日までを一つの事業年度とみなし(解散事業年度)、その後は解散の日の翌日から1年ごとの期間が清算中の事業年度(清算事業年度)となります(連結納税の適用を受けている場合を除きます)。また清算中の事業年度の途中で残余財産が確定した場合は、その事業年度の開始の日から残余財産の確定の日までが一つの事業年度(残余財産確定事業年度)となります。

e.x. 3月決算会社の場合

ただし、持分会社(合名会社、合資会社及び合同会社)及び協同組合等については会社法494条の第1項又は一般法人法227条1項の規定は適用されないため、事業年度の中途で解散した場合には、事業年度開始の日から解散の日までが一つの事業年度となり、解散の日の翌日から定款で定めた事業年度終了の日までの期間が一つの事業年度となります。

(2)確定申告書の提出

解散事業年度及び清算事業年度に係る確定申告書の提出期限は事業年度終了の日の翌日から2月以内となります。また確定申告書の提出期限の延長の特例の適用もあります。
一方で残余財産確定事業年度に係る確定申告書の提出期限は確定した日の翌日から1月以内(その期間内に残余財産の最終分配が行われる場合には行われる日の前日まで)となり、期限延長の特例の適用はありません。

確定申告書の提出

3. 解散事業年度に係る確定申告

(1)所得計算

解散事業年度の所得金額は通常の事業年度と同じく益金の額から損金の額を控除した金額です。しかしながら、決算期間は12カ月未満となることが多いため、減価償却費など月割計算などが必要となる項目があります。また租税特別措置法で認められている特別償却や準備金の設定など適用できない制度があります。

(2)欠損金の繰越控除

解散事業年度においても欠損金の繰越控除は適用できます。ただし、通常事業年度と同様に、中小法人以外の法人については利用制限があります。

(3)欠損金の繰戻還付

通常事業年度においては「中小企業者等の欠損金」を除き、繰戻還付の適用は停止されていますが、解散事業年度においては資本金の大小に関わらず適用することができます。解散の日前1年以内に終了した事業年度又は解散の日の属する事業年度のいずれかの事業年度に欠損金があるとき(欠損事業年度)は繰り戻し還付が認められます。この場合の「還付請求書」の提出期限は解散の日から1年以内であり、通常の場合よりも延長されています。

解散事業において繰戻還付できるケースは下記のとおりです。(通常事業年度の繰戻還付に規定されている青色申告等の要件は満たす必要があります)

ケース①

4. 清算事業年度に係る確定申告

(1)所得計算

清算中の各事業年度の所得金額は通常事業年度と同じく益金の額から損金の額を控除した金額となります。租税特別措置法上の準備金の設定など適用できない制度があります。
また、平成22年税制改正により会社解散における課税方式が財産法→損益法へ改正されています。このため、平成22年9月30日までに解散をした場合には引き続き財産法の適用となります。

(2)欠損金の繰越控除

清算事業年度においても欠損金の繰越控除は適用できます。ただし、通常事業年度と同様に、中小法人以外の法人については利用制限があります。

(3)期限切れ欠損金の損金算入

平成22年税制改正により法人税の課税方式が損益法へ変わったことにより、残余財産がないにもかかわらず債務免除等により清算事業年度において課税所得が発生してしまうケースが出てくることとなりました。このため、会社が解散した場合において残余財産がないと見込まれるときは、期限切れ欠損金の損金算入が認められることとなりました。「残余財産がないと見込まれる」の判定は各清算事業年度終了時の現況によるため、期限切れ欠損金の損金算入を適用しようとする事業年度末において実態貸借対照表が債務超過であることを示す必要があります。

(4)欠損金控除の順序

欠損金控除の順序はまず有効期限内の青色欠損金等を控除し、次いで期限切れ欠損金を控除します。非中小法人の場合には上記(2)のとおり青色欠損金の控除について利用制限がありますが、その場合でも青色欠損金の控除後の所得金額から期限切れ欠損金を控除することができます。このため、期限切れ欠損金の金額が青色欠損金控除後の所得金額より多い場合には課税所得はゼロとなります。

(5)欠損金の繰戻還付

清算事業年度においても資本金の大小に関わらず適用できることとなります。しかしながら清算事業年度の欠損金繰戻還付は通常事業年度方式のため、当期が赤字で前期(当期首日前1年以内に開始した事業年度)が黒字の場合にのみ適用があり、「還付請求書」の提出期限はその期の確定申告書と同時に提出することが要件となります。この点において解散事業年度とは異なります。

5. 残余財産確定事業年度に係る確定申告

(1)所得計算

残余財産確定事業年度の所得金額は清算事業年度と同じく益金の額から損金の額を控除した金額となります。解散法人の申告はこの残余財産確定事業年度の確定申告をもって終了しますので、引当金の繰入れができないなど清算事業年度と異なる部分もあります。
また事業税の損金算入については、翌年度が存在しないことから残余財産確定事業年度の事業税等の額はその年度の損金に算入することとなります。

(2)欠損金の繰越控除及び期限切れ欠損金の損金算入

清算事業年度と同じく適用できます。

(3)欠損金の繰戻還付

清算事業年度と同じく資本金の大小に関わらず適用できることとなります。通常事業年度方式のため、当期が赤字で前期(当期首日前1年以内に開始した事業年度)が黒字の場合にのみ適用があり、「還付請求書」の提出期限はその期の確定申告書と同時に提出することが要件となります。

  解散事業年度 清算事業年度 残余財産確定事業年度
所得計算 益金の額から損金の額を控除 益金の額から損金の額を控除 益金の額から損金の額を控除
欠損金の繰越控除 適用可(中小以外は利用制限あり) 適用可(中小以外は利用制限あり) 適用可(中小以外は利用制限あり)
期限切れ欠損金の損金算入 適用不可 適用可 適用可
欠損金の繰戻還付 解散の日前1年以内に終了した事業年度または解散事業年度のいずれかの事業年度が欠損となる場合に適用可 清算事業年度が欠損となる場合に適用可 残余財産確定事業年度が欠損となる場合に適用可

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