EY税理士法人 シニア 田嶋 泰治
1. はじめに
企業結合においては、会計処理のみならず税務面でも多くの検討事項があります。本解説シリーズにおいては企業結合の内、分割に関する税務を取り上げ、分割を行う際に留意すべき税制、適格分割・非適格分割の課税の概要について解説します。
2. 分割の課税の概要
法人が分割により資産及び負債の移転をしたときは、原則として分割法人が時価により資産及び負債を分割承継法人に譲渡したものとして取扱われます。当該分割が適格分割(6.の税制適格要件を充足する分割をいいます)に該当する場合には、特例として資産及び負債の移転にかかる譲渡損益が繰延べられます。
また、分割には分割型分割と分社型分割があり、分割対価が最終的に分割法人株主に交付されるものを分割型分割といい、分割対価が分割法人に交付されるものを分社型分割といいます。分割対価が交付される法人が異なることから、分割の形態に応じて課税関係も異なることとなります。
3. 分割法人の課税関係
(ア) 原則的取扱い(非適格分割)
法人が分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、分割承継法人に移転をした資産及び負債の分割の時の価額による譲渡をしたものとして、分割法人の各事業年度の所得の金額を計算します。
(イ) 特例的取扱い(適格分割)
法人が適格分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、原則的取扱いにかかわらず、分割承継法人に移転をした資産及び負債の適格分割の直前の帳簿価額による引継ぎをしたものとして、分割法人の各事業年度の所得の金額を計算します。
4. 分割承継法人の課税関係
(ア) 原則的取扱い(非適格分割)
分割承継法人は、分割により移転を受けた資産及び負債を、分割の時の価額により受け入れます。
また、税務上の時価純資産と交付株式等の時価とに乖離があるなど一定の場合には、分割承継法人において資産(差額負債)調整勘定が認識されます。
(イ) 特例的取扱い(適格分割)
分割承継法人は、適格分割により移転を受けた資産及び負債を、適格分割の直前の帳簿簿価額により引継ぎます。
また、一定の要件を充足しない場合には、分割承継法人の欠損金額及び含み損資産につき損金算入制限を受ける可能性があります。
5. 分割法人株主の課税関係
分割型分割
(ア) みなし配当及び株式の譲渡損益
分割型分割における分割法人の株主は、分割対価のうち利益積立金額から成る部分をみなし配当として認識し、分割資本金等の額から成る部分と分割法人株式の分割純資産対応帳簿価額との差額を株式の譲渡損益として認識することとなります。なお、適格分割の場合には、みなし配当は発生しません。
(イ) 株式の譲渡損益の繰り延べ(分割承継法人株式等のみが交付される場合)
分割型分割における分割法人の株主は、分割の対価として分割承継法人株式のみが交付される場合、分割法人株式を分割純資産対応帳簿価額(譲渡対価=譲渡原価)により譲渡したものとして、分割法人株式の譲渡損益を繰り延べることとなります。
分社型分割
分社型分割においては、分割法人の株主に課税関係は生じません。
6. 税制適格要件
分割の税制適格要件は、パターンごとにそれぞれ下表の「○」の要件を全て充足する必要があります。
(ア) 分割対価要件
分割の対価として分割承継法人株式等以外の資産が交付されないこと(分割型分割にあっては、分割法人の株主の分割法人株式保有割合に応じて交付されるものに限る)
(イ) 主要資産等引継要件
分割法人の分割直前の分割事業に係る主要な資産及び負債が分割承継法人に移転するものであること
(ウ) 事業関連要件
分割法人の分割事業と分割承継法人の分割前のいずれかの事業とが相互に関連するものであること
(エ) 事業規模要件
分割法人の分割事業と分割事業に関連する分割承継法人の事業のそれぞれの売上金額、従業者の数若しくはこれらに準ずるものの規模の割合がおおむね5倍を超えないこと
(オ) 経営参画要件
分割前の分割法人の役員等(スピンオフの場合には、重要な使用人を含む)のいずれかと分割承継法人の特定役員(スピンオフの場合を除く)のいずれかが分割後に分割承継法人の特定役員となることが見込まれていること
(カ) 従業者引継要件
分割法人の分割直前の分割事業に係る従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が分割後に分割承継法人の業務に従事することが見込まれていること
(キ) 移転事業継続要件
分割法人の分割直前の分割事業が分割後に分割承継法人において引き続き行われることが見込まれていること
(ク) 株式継続保有要件(共同事業)
分割型分割により交付される分割承継法人株式等のうち支配株主(分割直前に分割法人との間に支配関係がある株主)に交付されるものの全部が支配株主により継続して保有されることが見込まれていること、又は、分社型分割により交付される分割承継法人株式等の全部が分割法人により継続して保有されることが見込まれていること
(ケ) 非支配関係継続要件
分割直前に分割法人と株主との間に支配関係がなく、分割後に継続して分割承継法人と株主との間に支配関係がないことが見込まれていること
7. 分割の課税関係のまとめ
分割の課税関係をまとめると下表のとおりとなります。
この記事に関連するテーマ別一覧
企業結合の税務
- 第1回:会社合併の税制、適格・非適格合併の課税の概要 (2018.02.09)
- 第2回:会社分割の税制、適格・非適格分割の課税の概要 (2018.04.16)
- 第3回:株式交換・株式移転の税制、適格・非適格株式交換・株式移転の課税の概要 (2018.10.17)