公認会計士 湯本 純久
公認会計士 江村羊奈子
はじめに
後発事象は、決算日後に発生し、当期の財務諸表の見積り項目の修正、または次期以降の財務諸表に影響を及ぼす事象として開示が求められる項目です。後発事象の内容によっては、事象の発生の原因が期末日に存在していたかどうかの判断が悩ましいものが存在します。そのため、財務諸表の作成に当たっては、実質的で合理的な判断が求められます。本解説シリーズでは、基本的な後発事象の意義から、開示に当たっての留意事項を取り上げます。
1. 後発事象の意義、特徴
後発事象とは、決算日後に発生した会社の財政状態及び経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象です。後発事象は、財務諸表を修正すべき後発事象(以下、修正後発事象)と財務諸表に注記すべき後発事象(以下、開示後発事象)の二つに分類されます。
二つの後発事象を図表にまとめると以下のとおりです。
類型 |
修正後発事象 |
開示後発事象 |
1.意義 |
決算日後に発生し、その実質的な原因が決算日現在において既に発生していて財務諸表を修正する必要がある会計事象 |
決算日後に発生し、当該事業年度の財務諸表には影響しないが、翌事業年度以降の会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象 |
2.共通点 |
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3.相違点 | 実質的な原因が決算日時点で既に存在しており決算日後の事象の発生により、その状態がいっそう明白になった場合 →当期の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼすものとして財務諸表の修正が必要 |
実質的な原因が決算日時点で存在せず、決算日後の事象の発生により、初めて明らかになった場合 →当期の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼすものでないため、財務諸表への注記が必要 |
2. 後発事象の具体的内容
(1) 修正後発事象
修正後発事象は、決算日後に発生した会計事象ですが、その実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをする上で、追加的ないし、より客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない会計事象であるとされます。修正後発事象のうち、重要な後発事象については、財務諸表の修正を行うことが必要となります。
修正後発事象は、おおむね以下のような場合が考えられます。
- 当該後発事象の発生により、未確定事項が確定する場合
例えば、決算日後に、勝訴・敗訴・和解など訴訟事件に一定の結論が得られ決算日において既に債務が存在していたことが明確になった場合などが、これに該当すると考えられます。 - 当該後発事象の発生により、会計上の見積に対して、より客観的な証拠が提供される場合
例えば、決算日において特定の得意先に対して売掛債権が存在する場合で、決算日後に当該得意先が倒産した場合を考えます。このような場合には一般的に、期末日時点においてすでに得意先の財政状態の悪化という原因が存在すると考えられるので、当該得意先に対する貸倒引当金の見積額を積み増して財務諸表を修正します。このように得意先の倒産という客観的な証拠により、修正後発事象であることが判明し、当該事象を受けて財務諸表を適切な見積り額に修正することになります。
(2) 開示後発事象
開示後発事象は、決算日後において発生し、当該事業年度の財務諸表には影響を及ぼさないが、翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼす会計事象とされます。開示後発事象のうち、重要な後発事象については、会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する的確な判断に資するため、当該事業年度の財務諸表に注記を行うことが必要となります。開示後発事象の例示として以下のような事象が考えられます。(監査・保証実務委員会報告76号「後発事象に関する監査上の取扱い」参照)これらはあくまで例示のため、会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に与える影響等を考慮した上で開示の要否を検討する必要があります。
<開示後発事象の例>
分類 |
内容 |
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財務諸表提出会社、子会社及び関連会社に関する事象 |
1.会社が営む事業に関する事象 |
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2.資本の増減等に関する事象 |
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3.資金の調達又は返済等に関する事象 |
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4.子会社等に関する事象 |
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5.会社の意思にかかわりなく蒙ることになった損失に関する事象 |
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6.その他 |
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連結財務諸表固有の後発事象に関する事象 |
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(上記の中には事象発生の原因により、修正後発事象に該当する場合があります)