賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の概要 第2回:時価算定と賃貸等不動産の重要性

2013年10月21日
カテゴリー 解説シリーズ

公認会計士 中村崇

3.重要性の取り扱い

(1) 総額の重要性

賃貸等不動産の総額に重要性が乏しい場合には、賃貸等不動産の注記自体を省略することができるとされています(会計基準第8項ただし書き)。具体的には、以下の式によって算出された割合によって判断します(適用指針第8項)。

式

ここで、上記の「時価」や「含み損益」は、原則的な方法である「不動産鑑定評価基準」に従って算定されたものではなく、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標を用いることができます。また、建物等の償却性資産については、適正な帳簿価額を用いることができます(適用指針第23項)。さらに、賃貸等不動産の総額の重要性が明らかに乏しいと判断される場合には、上記の判定を行うことなく、賃貸等不動産に係る注記を省略することができることとされています(適用指針第23項なお書き)。

(2) 注記が必要とされる「時価」と個々の賃貸等不動産の重要性

本会計基準において、注記が必要とされている「時価」とは、通常、観察可能な市場価格に基づく価額をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額(「不動産鑑定評価基準」(国土交通省)による方法または類似の方法に基づいて算定)と定義されています。契約により取り決められた一定の売却予定価額がある場合には、合理的に算定された価額として当該売却予定価額を用いることとされています(適用指針第11項)。

また、時価を把握することが極めて困難な場合には、時価を注記せず、原則としてその事由、当該賃貸等不動産の概要および貸借対照表計上額を他の賃貸等不動産とは別に記載することとされています(適用指針第14項)。このような不動産の例として、現在も将来も使用が見込まれておらず売却も容易にできない山林や、着工して間もない大規模開発中の不動産などが挙げられています(適用指針第34項)。ただし、実際に時価を把握することが極めて困難な場合に該当するかどうかは、各不動産の状況に応じて、適切に判断されるべきと考えられます。

原則的には上記の方法により時価を算定しますが、賃貸等不動産の重要性に応じていくつかの簡便的な取り扱いが容認されています。

簡便的な取り扱いには具体的な基準は定められていないため、企業実態等を踏まえ、適切に判断する必要があります。賃貸等不動産の時価開示の趣旨からは、賃貸等不動産の簿価が総資産に与える影響割合のみではなく、時価が総資産に与える影響、含み損益相当額が損益に与える影響額、原則的な方法に行った時点からどの程度の期間が経過しているか等を総合的に勘案して、重要性の判断を行う必要があると考えられます。

本会計基準の重要性に応じた取り扱いをまとめると、次のような表にまとめることができます。なお、総額の重要性がある場合には、個々の重要性が乏しいと判断された賃貸等不動産についても、原則として開示の対象自体からは除外できない点に留意する必要があります(ASBJの公開草案に対するコメントへの対応25)。

本会計基準の重要性に応じた取り扱いのまとめ

一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標に基づく価額には、容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれるとされ、また、建物等の償却性資産については、適正な帳簿価額をもって時価とみなすことができます。

容易に入手できると考えられる評価額には、いわゆる実勢価格や査定価格などの評価額が含まれ、また、容易に入手できると考えられる土地の価格指標には、公示価格、都道府県基準地価格、路線価による相続税評価額、固定資産税評価額が含まれます。

【容易に入手できると考えられる土地の価格指標の概要(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針第90項)】

種類 公示価格 都道府県基準地価格 路線価による相続税評価額 固定資産税評価額
評価時点 毎年1月1日 毎年7月1日 毎年1月1日 3年ごとに基準年を置き、その年の1月1日
公表時期 毎年3月下旬頃 毎年9月下旬頃 毎年8月中旬頃 基準年の3月頃
評価目的
  • 一般の土地取引価格に指標を与える
  • 公共用地の取得価格算定の規準
  • 国土利用計画法による規制の適正化及び円滑化
  • 公示価格の補完
相続税や贈与税の課税基準 固定資産税等の課税基準
備考 都市計画区域のみ ほぼ公示価格と同一価格水準(都市計画区域外含む) 公示価格の80%程度 公示価格の70%程度

4.時価算定の実務上の論点

(1) 社外の鑑定評価の要否

賃貸等不動産に関する合理的に算定された価額は、自社における合理的な見積もりまたは不動産鑑定士による鑑定評価等として算定するものとされ、両者の評価は並列に取り扱われており、社内における評価も認められています(適用指針第28項)。

ただし、自社において「不動産鑑定評価基準」またはその類似の方法による評価額を算出する場合には、評価者の人数・能力・経験等の面で不動産鑑定評価基準等に準拠した評価を実施したと判断できるものか、十分な検討を行う必要があると考えられます。内部統制の観点からも、適切な承認が行われる体制が構築されているか、評価額を事後的にチェックする体制を自社で構築できるのかなどといった点も検討する必要があると考えられます。

(2) 時価算定のタイミング

不動産鑑定評価による時価算定の基準日については、適用指針には簡便的な取り扱いとして時点修正の考え方が示されていることから(適用指針第12項)、原則として、開示対象となる賃貸等不動産のうち重要性が乏しいもの以外については、期末日を基準日とする鑑定評価を用いることとなるものと考えられます。

しかし、期末日を基準日として鑑定評価を依頼した場合、評価結果が決算までに間に合わない場合があるため、適用指針第12項および第32項に示される一定の調整を加え、当期末の時価とみなすことができるとする定めを用いて算出することになると考えられます。

(3) 時価算定の方法

平成21年12月24日付で国土交通省から公表された「財務諸表のための価格調査の実施に関する基本的考え方」では、価格調査を「原則的時価算定」(不動産鑑定評価基準にのっとった鑑定評価)と「みなし時価算定」(鑑定評価方法を選択的に適用し、または一定の評価額等に基づき不動産の価格を求めるもの)に分け、それぞれを用いるケースの峻別(しゅんべつ)の基準や時価算定方法の指針が示されています。

この中で、賃貸等不動産の時価等の注記に当たっては、「原則的時価算定」が求められており、重要性が乏しい場合のみ「みなし時価算定」の適用が容認されています。

時価算定の際には、当該「基本的考え方」も参照し、不動産鑑定士の鑑定結果や自社で算出した評価額が「不動産鑑定評価基準」に照らして妥当なものかどうかを社内において、適切に判断することが必要と考えられます。

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