公認会計士 滝鼻怜奈
今回は、棚卸資産の原価配分方法について、設例を用いて説明します。なお、文中の意見に関する部分は私見であることをお断り申し上げます。
1. 棚卸資産の貸借対照表価額
商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等の棚卸資産については、原則として購入代価又は製造原価に引取費用等の付随費用を加算し、これに個別法、先入先出法、平均原価法等の方法を適用して売上原価等の払出原価と期末棚卸資産の価額を算定するものとされています(棚卸資産会計基準第6-2項)。また、棚卸資産会計基準では、棚卸資産の貸借対照表価額の算定のための方法として、個別法、先入先出法、平均原価法及び売価還元法等が認められています。
2. 棚卸資産会計基準に定められている原価配分方法
棚卸資産の評価方法は、事業の種類、棚卸資産の種類、その性質及びその使用方法等を考慮した区分ごとに選択し、継続して適用しなければなりません(棚卸資産会計基準第6-3項)。
棚卸資産会計基準で定められている原価配分方法について以下で説明します。
(1) 個別法
個別法は、取得原価の異なる棚卸資産を区別して記録し、その個々の実際原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。個別法は、個別性が強い棚卸資産の評価に適した方法で(棚卸資産会計基準第6-2項(1))、個別性が強い販売用不動産や未成工事支出金に多く使われています。
個別法は、物の流れと単価が一致するので適正な売上原価を算定できるというメリットがありますが、棚卸資産ごとに管理する必要があり手間がかかるというデメリットもあります。
設例
(前提条件)
当期仕入:A商品1個×100円、B商品2個×200円、C商品1個×300円
当期売上原価:A商品1個×100円、B商品1個×200円
個別法による期末棚卸資産は以下の通りとなります。
期末棚卸資産:B商品1個×200円=200円、C商品1個×300円=300円
(2) 先入先出法
先入先出法は、最も古く取得されたものから順次払出しが行われ、期末棚卸資産は最も新しく取得されたものからなるとみなして期末棚卸資産の価額を算定する方法です(棚卸資産会計基準第6-2項(2))。
先入先出法は、会計上の数値と実際の棚卸資産の流れが一致しやすいというメリットがありますが、種類や仕入・売上の頻度が多いと管理が煩雑になるというデメリットもあります。
設例
(前提条件)
4/1仕入:5個×10円
4/3仕入:10個×20円
4/10売上原価:7個(4/1仕入5個×10円+4/3仕入2個×20円)
先入先出法による期末棚卸資産は以下の通りとなります。
期末残高:8個(4/3仕入8個×20円)
(3) 平均原価法
取得した棚卸資産の平均原価を算出し、この平均原価によって期末棚卸資産の価額を算定する方法です。なお、平均原価は、総平均法又は移動平均法によって算出します(棚卸資産会計基準第6-2号(3))。
① 総平均法
総平均法は、当期仕入総額から平均原価を算出する方法です。総平均法は、仕入単価の算出方法が簡便であるというメリットがありますが、期末まで払出単価が確定しないため適時に原価計算が行えないというデメリットもあります。
設例
(前提条件)
仕入:10個×@20円=200円
仕入:40個×@10円=400円
仕入:10個×@60円=600円
平均原価:(200円+400円+600円)÷(10個+40個+10個)=@20円
売上原価:35個×@20円=700円
総平均法による期末棚卸資産は以下の通りとなります。
期末残高:25個×@20円=500円
② 移動平均法
移動平均法は、仕入、販売の都度、平均原価を算出する方法です。総平均法も移動平均法も平均原価を算出する方法ですが、平均原価を算出するタイミングが異なります。
移動平均法は、仕入をする度に単価を計算するので、適時に払出単価を把握できるというメリットがありますが、種類や仕入・売上の頻度が多いと計算が煩雑になるというデメリットもあります。
設例
(前提条件)
4/1仕入:10個×@20円=200円
4/3仕入:40個×@10円=400円
4/10売上:20個
4/20仕入:10個×@10円=100円
4/25売上:15個
移動平均法による期末棚卸資産は以下の通りとなります。
期末残高:25個×@11.5円=287.5円
(4) 売価還元法
売価還元法は、値入率等の類似性に基づく棚卸資産のグループごとの期末の売価合計額に、原価率を乗じて求めた金額を期末棚卸資産の価額とする方法です。売価還元法は、取扱品種の極めて多い小売業等の業種における棚卸資産の評価に適用されます(棚卸資産会計基準第6-2項(4))。
売価還元法は、期末棚卸資産の算出が簡単にできるというメリットがありますが、適切なグルーピングが難しい場合があるというデメリットもあります。
計算方法については、第2回:棚卸資産の評価に関する会計基準(評価基準、評価方法)を参照ください。
3. 棚卸資産会計基準に定められていない原価配分方法
(1) 後入先出法
後入先出法は、最も新しく取得されたものから棚卸資産の払出しが行われ、期末棚卸資産は最も古く取得されたものからなるとみなして、期末棚卸資産の価額を算定する方法です(棚卸資産会計基準第34-5項)。
後入先出法を採用することにより、長期的に市況が上昇する場合、累積した保有利益の計上が繰り延べられてしまうとともに期末の貸借対照表価額が市況から乖離してしまう等の理由から、棚卸資産会計基準においては、選択できる評価方法から後入先出法が削除されています(棚卸資産会計基準第34-12項)。
以下で累積した保有利益の繰り延べについて説明します。
設例
(前提条件)
期首残高:5個×10円
6/1仕入:5個×100円
10/1仕入:5個×500円
2/1売上:12個(6/1仕入5個×500円+10/1仕入5個×100円+期首残高2個×10円)
後入先出法による3月31日期末棚卸資産は以下の通りとなります。
期末残高:3個×@10円=30円
上記設例では物価上昇を想定しています。設例では期末棚卸資産の数量が期首の数量を下回り、期首から保有していた棚卸資産については、販売時に過去から累積した保有利益((直近の仕入価格500円-期首棚卸資産の簿価10円)×2個=980円)が計上されています。翌期以降にも期末棚卸資産3個分の保有利益が繰り越されていることとなります。
(2) 最終仕入原価法
法人税法において採用が認められている最終仕入原価法もありますが、棚卸資産会計基準においては棚卸資産の評価方法として定められていません。その理由は、期末棚卸資産の一部だけが実際取得原価で評価されるものの、その他の部分は時価に近い価額で評価されることとなる場合が多いと考えられ、無条件に取得原価基準に属する方法として適用を認めることは適当ではないと考えられるためです。
このため、期末棚卸資産の大部分が最終の仕入価格で取得されているときのように、期間損益の計算上弊害がないと考えられる場合や、期末棚卸資産に重要性が乏しい場合においてのみ容認される方法と考えられます(棚卸資産会計基準第34-4項)。
この記事に関連するテーマ別一覧
棚卸資産の評価に関する会計基準
- 第1回:棚卸資産の評価に関する会計基準(制度趣旨、適用範囲等) (2018.02.15)
- 第2回:棚卸資産の評価に関する会計基準(評価基準、評価方法) (2018.02.15)
- 第3回:棚卸資産の評価に関する会計基準(四半期決算の会計処理) (2018.02.15)
- 第4回:棚卸資産の評価に関する会計基準(原価配分方法) (2022.08.12)