EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 七海健太郎
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 山岸正典
3. キャッシュ・フロー計算書の構造
(1) キャッシュ・フロー計算書の区分と読み方
キャッシュ・フロー計算書は、キャッシュ・フローを業務の性格によって、営業活動、投資活動、財務活動の三つに分けて作成します。
① 営業活動によるキャッシュ・フロー
「営業活動によるキャッシュ・フロー」の区分には、商品の販売による収入や商品の仕入による支出など営業損益計算の対象となった取引のほか、投資活動および財務活動以外の取引によるキャッシュ・フローを記載します。
取引の分類 | 具体例 |
---|---|
営業損益計算の対象となった取引に係るキャッシュ・フロー | 売上に関する収入 仕入に関する支出 製造活動・販売活動に係る支出 |
上記以外の営業活動によるキャッシュ・フロー | 保険金収入 損害金の支払い |
② 投資活動によるキャッシュ・フロー
「投資活動によるキャッシュ・フロー」の区分には、固定資産の取得および売却、現金同等物に含まれない有価証券の取得および売却等によるキャッシュ・フローを記載します。
- 有形固定資産および無形固定資産の取得による支出
- 有形固定資産および無形固定資産の売却による収入
- 有価証券(現金同等物を除く)および投資有価証券の取得による支出
- 有価証券(現金同等物を除く)および投資有価証券の売却による収入
- 貸付けによる支出
- 貸付金の回収による収入
- 連結範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出(※)
- 連結範囲の変更を伴う子会社株式の売却による収入(※)
③ 財務活動によるキャッシュ・フロー
「財務活動によるキャッシュ・フロー」には、資金の調達および返済によるキャッシュ・フローを記載します。
- 株式の発行による収入
- 自己株式の取得による支出
- 配当金の支払
- 社債の発行および借り入れによる収入
- 社債の償還および借入金の返済による支出
- 連結範囲の変更を伴わない子会社株式の取得による支出(※)
- 連結範囲の変更を伴わない子会社株式の売却による収入(※)
※子会社株式の取得又は売却に係るキャッシュ・フローについては、連結範囲の変動を伴うものか否かにより「投資活動によるキャッシュ・フロー」か「財務活動によるキャッシュ・フロー」かの区分が異なります(詳細は解説シリーズ「企業結合(平成25年改正会計基準)第1回:従来との変更点(1)」参照)。
(2) 営業・投資・財務の各キャッシュ・フロー相互の関連
営業活動によるキャッシュ・フローは、営業能力を維持し、新規投資を行い、借入金を返済し、配当を支払うためにどの程度の資金を営業活動から獲得したかを示す重要な指標です。企業は、本業で獲得した資金を設備投資などの投資活動に振り向け事業を拡大させるわけですから、営業活動・投資活動・財務活動の各キャッシュ・フローは互いに関連しています。
4. 作成時期と作成方法
キャッシュ・フロー計算書は、原則として連結ベースで作成しますが、連結財務諸表を作成・開示しない会社は、個別ベースのキャッシュ・フロー計算書を作成します。また、四半期キャッシュ・フロー計算書は、第1四半期及び第3四半期においては、作成を省略することが認められています(第2四半期においては、第2四半期累計期間に係るキャッシュ・フロー計算書の作成・開示が求められます。詳細は解説シリーズ「四半期報告制度の簡素化」参照)。
連結キャッシュ・フロー計算書の作成方法には、①各連結会社の「キャッシュ・フロー計算書」を合算して必要な連結消去を行う方法(原則法)と、②簡便的に、連結損益計算書ならびに連結貸借対照表の期首残高と期末残高の増減額の分析およびその他の情報から作成する方法(簡便法)の2通りがあります。
いずれの場合も、最終的に出来上がるキャッシュ・フロー計算書は同じですが、①の場合は、各連結会社の「キャッシュ・フロー計算書」を合算した上で、連結会社間のキャッシュ・フロー取引を消去しなければなりません。このため、実務上は、②の簡便法を用いる企業が多いようです。
また、営業活動によるキャッシュ・フローの表示方法には、主要取引ごとに総額表示する直接法と、税金等調整前当期純利益をベースに非資金損益項目その他を調整する間接法の2通りがあります。
① 直接法
営業収入、原材料または商品の仕入支出、人件費支出、その他の営業支出という主要な取引ごとに総額で表示します。主要な取引ごとに資金の入りと出を表示しますのでキャッシュ・フローの状況が分かりやすいという長所がある反面、この方法は作成するのに大変手間がかかるという難点があります。
② 間接法
連結損益計算書の税金等調整前当期純利益をベースに減価償却費など非資金損益項目や営業活動に直接結びつく売掛金、買掛金などの資産、負債の増減額のほか、その他の調整をして営業活動によるキャッシュ・フローを作成します。
間接法は連結損益計算書の税金等調整前当期純利益をベースに非資金損益項目や連結貸借対照表の資産、負債の増減額などをプラス・マイナスして資金の流れを間接的に表示するため、直接法のように資金の実際の流れに即しておらず、分かりづらいという難点がありますが、連結損益計算書と連結貸借対照表から容易に作成できるという大きな長所があります。そのほか利益とキャッシュ・フローの結び付きを明らかにできるという直接法にない利点があります。
直接法と間接法では、おおむねほとんどの上場企業が間接法により開示しており、直接法は少数派です。間接法が主流を占めている理由には、間接法の方が、連結損益計算書および連結貸借対照表との関連が明確となることと、財務諸表項目からの作成が容易であることなどが考えられます。
この記事に関連するテーマ別一覧
キャッシュ・フロー計算書
- 第1回:キャッシュ・フロー計算書の様式 (2018.07.13)
- 第2回:キャッシュ・フロー計算書の構造 (2018.07.13)
- 第3回:資金の範囲と注記 (2018.07.13)