EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 久保 慎悟
2024年3月22日に、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)及び日本公認会計士協会(以下「JICPA」という。)(会計制度委員会)より以下の会計基準等(以下、ASBJから公表された会計基準等を「ASBJ会計基準等」といい、JICPAから公表された実務指針を「JICPA実務指針」という。)が公表されています。
<ASBJから2024年3月22日に公表>
- 改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」(以下「自己株式等会計適用指針」という。)
- 改正企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下「税効果適用指針」という。)
<JICPAから2024年3月22日に公表>
- 改正会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(以下「資本連結実務指針」という。)
Ⅰ. ASBJ会計基準等の概要
1. 改正の経緯(自己株式等会計適用指針第28-4項)
令和5年度税制改正において、完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配(図表1)のうち、当該一部の持分が当該完全子会社の株式の発行済株式総数の20%未満となる株式分配について、他の一定の要件を満たす場合には、完全子会社株式のすべてを分配する場合と同様に、課税の対象外とされる特例措置、いわゆるパーシャルスピンオフ税制が新たに設けられました。
図表1:完全子会社株式について一部の持分を残す株式分配
(経済産業省 産業組織課「『スピンオフ』の活用に関する手引」令和5年8月、www.meti.go.jp/press/2023/06/20230626003/20230626003-a.pdf(2023年10月27日アクセス)より作成)
これを受けて、ASBJにおいて、事業を分離・独立させる手段であるスピンオフのうち、スピンオフ実施会社に一部の持分を残すスピンオフの会計処理の検討がなされました。この結果、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合の会計処理を定めている自己株式等会計適用指針が改正され、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合の会計処理に関する定めが追加されました。
2. 基準開発の範囲(自己株式等会計適用指針第28-4項)
基準開発の範囲として、以下の取引に係る会計処理が対象とされました(図表2参照)。
図表2:基準開発の範囲
配当後において子会社株式に該当するか | |||
子会社株式に該当しない(*1) | 引き続き子会社株式に該当する | ||
配当対象となる子会社株式が完全子会社株式であるか(*2) | 完全子会社株式 | 対 象 | 対象外 |
上記以外の子会社株式 | 対象外 | 対象外 |
*1…いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制適格となるかどうかにはかかわらない。また、支配を喪失して関連会社になった場合も含まれる。
*2…配当を実施する会社が当該子会社の株式すべてを直接的に保有している場合のみを想定している。
なお、今後の子会社株式の配当に関する取引の進展や会計実務の状況により、基準開発の範囲を拡大するかどうかはASBJが判断することとされています。
3. 改正内容
(1) 個別財務諸表の会計処理(自己株式等会計適用指針第10項(2-2))
自己株式等会計適用指針では、現物配当を行う場合、原則として配当財産の時価と適正な帳簿価額との差額は、配当の効力発生日の属する期の損益として計上し、配当財産の時価をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額することとされています。ただし、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合、適正な帳簿価額をもって会計処理することとされています(自己株式等会計適用指針第10項)。
改正された自己株式等会計適用指針では、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合についても、総体としての株主にとっては当該完全子会社に対する投資が継続していると考えられることから、分割型の会社分割(按分型)や保有する子会社株式のすべてを株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)する場合と同様の取扱いを行うことが適切と考えられるとされています(自己株式等会計適用指針第38-2項)。このため、現物配当実施会社の個別財務諸表上、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合、配当の効力発生日における配当財産の適正な帳簿価額をもってその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)を減額する取扱いが追加されました。
(2) 現物配当実施会社の税効果会計(税効果適用指針第4項(5))
自己株式等会計適用指針及び資本連結実務指針が改正された結果、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合については、現物配当実施会社の個別財務諸表及び連結財務諸表のいずれにおいても、当該現物配当に係る損益を計上しないこととなりました。
このため、税効果適用指針第4項の定義に従って検討した場合、現物配当実施会社の連結財務諸表上、連結財務諸表固有の一時差異は生じているものの、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引において解消する部分は連結財務諸表における利益が減額又は増額されないことから、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられます。しかしながら、税制非適格の場合に連結財務諸表上の税金等調整前当期純利益と税金費用との対応関係を図ることを考えた場合、当該一時差異についても税効果適用指針における連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に係る定めを適用するのが適切と考えられます(税効果適用指針第124-2項)。
したがって、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合において、連結決算手続の結果として生じる一時差異については、連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は将来加算一時差異に準ずるものとして定義に追加することとされました。
4. 適用時期及び経過措置(自己株式等会計適用指針第23-3項、税効果適用指針第65-3項)
いわゆるパーシャルスピンオフ税制が時限措置であることを踏まえて、公表日以後ただちに適用されています。
また、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなる場合に該当する取引を行う企業は、会計上の取扱いを十分に検討した上でスキームを構築していると考えられるため、スキーム実行時に想定していなかった会計処理を過去に遡って求めることはしない、すなわち、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針案第10項(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされています。
Ⅱ. JICPA実務指針の概要
1. 改正の経緯
保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなる場合について、ASBJ会計基準等における個別財務諸表に係る取扱いの改正と同じ理由から、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」についても改正され、配当財産の時価で配当したとはせず、個別財務諸表における配当の処理に加えて、連結財務諸表上、配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額を連結株主資本等変動計算書において処理することとされました。
2. 改正内容
保有する完全子会社株式のすべて又は一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社に該当しなくなった場合について、以下のとおり、連結財務諸表上の会計処理を行うこととされました。
(1) 配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額の処理
原則として、子会社株式の配当に伴う持分変動により増減するものとして、連結株主資本等変動計算書上の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、子会社株式の配当に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上することとされました。
ただし、配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額のうち、個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金のうち配当した部分に対応する額については、配当により個別財務諸表で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金(繰越利益剰余金)の減額を連結株主資本等変動計算書において修正することとされました(資本連結実務指針第46-3項)。
(2) 残存する当該被投資会社に対する投資の処理
保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し連結子会社が子会社に該当しなくなり関連会社になった場合、当該会社の個別貸借対照表はもはや連結されないため、連結貸借対照表上、親会社の個別貸借対照表に計上している当該関連会社株式の帳簿価額に対して、投資の修正額のうち配当後持分額を加減することで、持分法による投資評価額に修正することとされました(資本連結実務指針第46-3項また書き)。
また、子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合には、連結貸借対照表上、残存する当該被投資会社に対する投資は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価するため、完全子会社株式の一部を配当し当該被投資会社に対する投資が残る場合には、配当後の投資の修正額は取り崩し、当該取崩額を連結株主資本等変動計算書の利益剰余金とその他の包括利益累計額の区分に、連結除外に伴う増減等その内容を示す適当な名称をもって計上することとされました(資本連結実務指針第46-4項また書き)。
3. 適用時期
ASBJ会計基準等と同様に公表日以後ただちに適用されています(資本連結実務指針第52-14項)。また、適用日の前に行われた自己株式等会計適用指針第10項(2)及び(2-2)で定められた取引については、適用日における会計処理の見直し及び遡及的な処理は行わないこととされています。
Ⅲ 公開草案からの主な修正点
主に、内容を明確化するための記載の整理や追加が行われていますが、会計処理や開示に関する定めに関する修正点はありません。
1. 自己株式等会計適用指針
以下の事項について内容が明確化されました。
- 自己株式等会計適用指針の改正の対象となる取引について、配当を実施する会社が当該子会社の株式すべてを直接的に保有している場合のみを想定している旨が追加記載され、間接支配による完全子会社株式については対象とならないことが明確化されました(自己株式等会計適用指針第28-4項)。
- 保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し子会社株式に該当しなくなった場合について、適正な帳簿価額をもって会計処理する理由について、総体としての株主にとっては当該完全子会社に対する投資が継続していると考えられる点であることが明確化されました(自己株式等会計適用指針第38-2項)。
2. 税効果適用指針
以下の事項について内容が明確化されました。
- 連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられるものの、これに準ずるものとして同様の取扱いをする対象となる一時差異について、連結決算手続の結果として生じる一時差異のうち、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引において解消する部分であることが明確化されました(税効果適用指針第124-2項)。
- いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制非適格となる場合に、繰延税金資産及び繰延税金負債として計上することになる税金の見積額について、配当により解消する連結財務諸表固有の一時差異に係る税金の額であることが明確化されました(税効果適用指針第124-3項)。
また、以下の事項が追加記載されました。
- 連結財務諸表固有の将来減算一時差異又は連結財務諸表固有の将来加算一時差異の定義に直接的には該当しないと考えられるものの、これに準ずるものとして同様の取扱いをする理由として、いわゆるパーシャルスピンオフ税制において税制非適格の場合に連結財務諸表上の税金等調整前当期純利益と税金費用との対応関係を図ることであることが追加記載されました(税効果適用指針第124-2項)。
- 会計上の時価評価損益が生じない自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引に係る法人税、住民税及び事業税等について、損益に計上すると考えられる旨が追加記載されました(税効果適用指針第124-5項)。
3. 資本連結実務指針
完全子会社株式の配当の効力発生日が当該子会社の決算日以外の日である場合において、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」(注5)のいわゆるみなし売却日の定めを用いることができることが明確化されました(資本連結実務指針第66-10項)。
また、保有する完全子会社株式の一部を株式数に応じて比例的に配当(按分型の配当)し連結子会社が子会社に該当しなくなった場合における、配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額の処理に関する定めと結論の背景について、記載が整理され、以下の事項が明確化されました(資本連結実務指針第46-3項、第46-4項、第66-8項)。
- 子会社株式の一部売却によって生じた資本剰余金は個別財務諸表上の子会社株式の帳簿価額に含まれないため、当該資本剰余金に対応する額は、配当により個別財務諸表上で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金の額を調整する対象とはならないこと
- 子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金に対応する額は、配当により個別財務諸表上で計上したその他資本剰余金又はその他利益剰余金の額を調整する対象となるが、子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金自体を調整するものではないこと
- 配当前の投資の修正額とこのうち配当後の株式に対応する部分との差額の処理に関して、個別財務諸表上の取得価額に含まれている付随費用及び子会社株式の追加取得等によって生じた資本剰余金についてのみ例外的な処理が必要となること
さらに、自己株式等会計適用指針第10項(2-2)で定められた取引のみならず同第10項(2)で定められた取引についても、資本連結実務指針の改正による会計処理の見直し及び遡及的な処理が行われないことが追加記載されました(資本連結実務指針第52-14項)。
なお、本稿はASBJ会計基準等及びJICPA実務指針の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。また、ASBJ及びJICPAのウェブサイトでは、公開草案に寄せられた主なコメントの概要とこれらに対する対応が紹介されています。 会計基準等に対する理解を深めることに役立つと思われますのでご参照ください。
ASBJ会計基準等全文及び公開草案に対するコメントの概要及び対応はこちら(ASBJウェブサイト)
- 改正企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」等の公表
- 企業会計基準適用指針公開草案第80号(企業会計基準適用指針第2号の改正案)「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等に寄せられたコメント
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