移管指針公開草案「移管指針の適用(案)」等のポイント

2024年4月17日
カテゴリー 会計情報トピックス

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 浦田 千賀子

<企業会計基準委員会が2024年4月3日に公表>

企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)は、2024年4月3日に、移管指針公開草案「移管指針の適用(案)」等(以下「本公開草案」という。)を公表しました。

本公開草案のポイント

我が国の会計基準は、2001年のASBJ設立前は、会計基準については企業会計審議会が、実務上の取扱い等を示す企業会計に関する実務指針(Q&Aを含む。以下「実務指針等」という。)については日本公認会計士協会がそれぞれ公表していましたが、ASBJ設立後は、新しい会計基準、適用指針及び実務対応報告についてはいずれもASBJが公表しています。日本公認会計士協会が公表した実務指針等については包括的にASBJに引き継ぐことはせず、引き継げるものから引き継ぐ形をとっていますが、多くの実務指針等はまだ日本公認会計士協会に残されています。

こうした状況を受けて、ASBJ及び日本公認会計士協会は、日本公認会計士協会が公表した実務指針等をASBJに移管するプロジェクト(以下「移管プロジェクト」という。)についての考え方を示し、関係者からの意見を募集することを目的として2023年6月に「日本公認会計士協会が公表した実務指針等の移管に関する意見の募集」(以下「意見募集文書」という。)を公表しました。また、2023年11月開催の理事会では「企業会計基準及び修正国際基準の開発に係る適正手続に関する規則」が改正され、企業会計基準等に新たに移管指針の区分が設けられました。

これを受けASBJでは、意見募集文書に対して寄せられた意見を踏まえ、会計に関する指針のみを扱う実務指針等の移管について検討を重ねた結果、本公開草案が公表されました。
なお、本移管プロジェクトにおいては、継続企業と後発事象に関する調査研究も行われています。

本公開草案等に対しては、2024年6月3日(月)までコメントが募集されています。

Ⅰ. 本公開草案の概要

1. 移管指針の体系及び内容

移管にあたっては、移管対象の日本公認会計士協会が公表した実務指針等の所管をASBJに移すことを主たる目的とし、当該移管により実務を変更しないことを意図しています。このため、本公開草案では、実務への影響を最小限とするように、以下の方針に基づいて移管することを提案しています。

(1) 基本的には文書単位でそのままの形で移管することを原則とする。
(2) 実務指針等の「委員会名」及び「連番」は変更する一方、「実務指針等の名称」は変更しない。
(3) 各実務指針等における項番号を変更しない。
(4) 実務指針等に関して、字句等の誤りが含まれている可能性があるが、移管にあたって識別された字句等の誤りについて訂正しない。これらは、当委員会に移管した後、年次改善の一環として一括して訂正する。

ここで、実務指針等を移管指針として取り込むにあたっては、移管に関する経緯等について修正又は追加することが考えられるものの、すべての移管指針において同一の内容を記載することは冗長と考えられ、また、移管指針の設定は、形式的には新たな会計基準等の設定に該当することから、会計方針の変更として取り扱うかどうかについて明確化することが望ましいと考えられます。

このため、本公開草案では、「移管指針の適用」においてこれらの内容を全般的に定め、当該移管指針に個別の移管指針が紐付く体系とすることを提案しています。

なお、本公開草案において、移管となる実務指針等は下記のとおりです(本公開草案別紙1)。

移管指針 (参考)対応する日本公認会計士協会が公表した実務指針等
移管指針第1号「ローン・パーティシペーションの会計処理及び表示」 会計制度委員会報第3号「ローン・パーティシペーションの会計処理及び表示」
移管指針第2号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」 会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」
移管指針第3号「連結財務諸表におけるリース取引の会計処理に関する実務指針」 会計制度委員会報告第5号「連結財務諸表におけるリース取引の会計処理に関する実務指針」
移管指針第4号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」
移管指針第5号「株式の間接所有に係る資本連結手続に関する実務指針」 会計制度委員会報告第7号(追補)「株式の間接所有に係る資本連結手続に関する実務指針」
移管指針第6号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」 会計制度委員会報告第8号「連結財務諸表等におけるキャッシュ・フロー計算書の作成に関する実務指針」
移管指針第7号「持分法会計に関する実務指針」 会計制度委員会報告第9号「持分法会計に関する実務指針」
移管指針第8号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」 会計制度委員会報告第12号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」
移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」 会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」
移管指針第10号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」 会計制度委員会報告第15号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」
移管指針第11号「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A」 研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関するQ&A
移管指針第12号「金融商品会計に関するQ&A」 金融商品会計に関するQ&A
移管指針第13号「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針についてのQ&A」 特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針についてのQ&A
移管指針第14号「土地再評価差額金の会計処理に関するQ&A」 土地再評価差額金の会計処理に関するQ&A

2. 現在開発中の会計基準等に関連する実務指針等の改正との関係

現在、ASBJでは、移管プロジェクトと同時に複数の会計基準等の開発を進めており、この中には日本公認会計士協会が公表した実務指針等の改正を伴う予定のものがあります。本公開草案は、2024年3月31日時点における実務指針等に基づいていますが、この時点において、日本公認会計士協会よりリースに関する会計基準及び中間財務諸表に関する会計基準の開発に関連して公開草案が公表されており、1つの実務指針等について、内容に係る改正の公開草案と移管に係る公開草案が公表されている状況です。

今後、内容に係る改正の公開草案が最終化された場合、当該改正は移管指針に取り込むことになりますが、(1)内容に係る改正の公開草案の最終化が移管に係る公開草案の最終化より前になるケースと(2)内容に係る改正の公開草案の最終化が移管に係る公開草案の最終化より後になるケースが考えられ、それぞれのケースについて、次のとおり対応することを予定しています。

(1) 内容に係る改正の公開草案の最終化が移管に係る公開草案の最終化より前になるケース(ケース 1)
日本公認会計士協会において実務指針等の改正を行い、移管指針の最終化の際、改正内容を移管指針に取り込む。
(2) 内容に係る改正の公開草案の最終化が移管に係る公開草案の最終化より後になるケース(ケース 2)
まず移管指針を最終化し、内容に係る改正の公開草案の最終化の際、改正内容を移管指針に取り込む。

なお、いずれのケースにおいても、内容に係る改正の公開草案と移管に係る公開草案が公表されていることから、適正手続の観点から不足は無いとして、再公開草案の公表は行いません。

3. 適用時期等

移管指針の公表日及び適用日は2024年7月1日以降を予定しており、公表日以後適用するとした上で、以下の取扱いを設けることを提案しています。

(1) 企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第10項にかかわらず、「移管指針の適用」別紙に記載した移管指針の適用は会計方針の変更に関する注記を要しない。

Ⅱ. 本公開草案に対するコメント

本公開草案に対するコメント募集に際し、以下の個別の質問が示されています。

[質問1]本公開草案における移管指針の体系及び内容に関する提案に同意するか否か。同意しない場合はその理由。

[質問2]本公開草案における現在開発中の会計基準等に関連する実務指針等の改正との関係についての方針に同意するか否か。同意しない場合はその理由。

[質問3]その他

本稿は本公開草案の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。

本公開草案の全文はこちら(ASBJウェブサイト)

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