22 分 2020年3月2日
現代的なオフィス環境のハイアングルの眺め

デジタルトランスフォーメーションをリードする企業が実践する6つの習慣

執筆者
Jim Little

EY Global Microsoft Alliance Lead and EY Americas Technology Strategy Lead

Technology enthusiast. Former CIO. Passionate about helping companies re-imagine their business, value propositions, customer and employee experiences using technology.

Savi Thethi

EY Americas Advisory Services Technology Transformation Leader

Avid problem solver. Passionate about helping clients reinvent their business leveraging next-generation technologies. Traveler. Fishing enthusiast.

22 分 2020年3月2日

新しいテクノロジーに投資するほど企業の業績は伸びを見せています。  本記事では、その理由を紐解くとともに、デジタルトランスフォーメーションを加速させる方法を考察します。

EYの最新の調査で、デジタルトランスフォーメーションに秀でた企業には共通する6つの習慣が存在することが分かりました。以下に示すこの6つの習慣を実践しているデジタルトランスフォーメーションのリーダー企業は、その習慣を採用していない企業と比べて優れた業績を上げています。これに追い付くには、このようなリーダー企業を手本として学ぶ必要があります。

  1. 何よりも顧客を重視
  2. 成長促進に向けたAI活用の加速
  3. エコシステムや提携を通じたイノベーションの推進
  4. 新しいインセンティブや戦略による人材の育成
  5. 先端技術を対象としたガバナンス計画の発動
  6. データを活用し機敏さを維持することによるイノベーションの強化

EYの調査レポート「Tech Horizon: Leadership perspectives on technology and transformation」では、「売り上げ」、「粗利益」、「EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)」という3つの財務指標に注目し、「6つの習慣」からどのような成果が得られるかを分析しています。これら財務指標の5年間の年平均成長率(CAGR)から算出した分析結果は、以下の通りです。

リーダー企業はラガード企業よりも、年平均で15%超のEBITDA増加率を達成する可能性が50%高い。

  • リーダー企業は後れを取っている企業(以下、ラガード企業)よりも、年平均で10%超の売り上げ増加率を達成する可能性が45%高い。
  • リーダー企業はラガード企業よりも、年平均で10%超の粗利益増加率を達成する可能性が26%高い。
  • リーダー企業はラガード企業よりも、年平均で15%超のEBITDA増加率を達成する可能性が50%高い。
  • デジタルトランスフォーメーションのリーダー企業になるには

    本調査では、500社中96社がデジタルトランスフォーメーションのリーダー企業とされました。これらの企業は自社の取り組みについて次のように述べています。

    • 変革ジャーニーが進展している
    • 技術革新を市場に投入し、著しい経済価値を生み出している
    • 変革を生み出す企業文化の醸成に努めている

    一方、ラガード企業50社は、これらに逆行しています。デジタル化に進展が見られず、市場に技術革新をもたらしておらず、変革を生み出す企業文化の醸成にも尽力していません。

  • リーダー企業とラガード企業の違いとは

    EYは、リーダー企業とラガード企業を以下の3つのカテゴリーに分けて明確化しました。

    1.    デジタルトランスフォーメーションジャーニーの成熟度

    • リーダー企業の回答:
      「変革は企業全体に完全に組み込まれ最適化されている」、または「変革ジャーニーは順調に進んでおり、企業全体に組み込まれ始めている」 
    • ラガード企業の回答:
      「今のところ、変革の計画はない」、「事業変革の計画はあるが、その方法を検討中である」、または「デジタルトランスフォーメーションに向けた最初のステップとして、または変革像を導出しながら、緩やかな変化に取り組んでいる」

    2.    技術革新による経済的価値の生成能力

    • リーダー企業の回答:
      「技術革新を市場に投入して著しい経済的価値を生み出しており、イノベーションも社内に織り込まれている」に対して、「そう思う」または「非常にそう思う」
    • ラガード企業の回答:
      同項目に対して「そうは思わない」または「まったくそうは思わない」

    3.    変革を生み出す企業文化の醸成意欲

    • リーダー企業の回答:
      「変革を生み出す企業文化の醸成や促進に努めている」に対して、「非常にそう思う」
    • ラガード企業の回答:
      同項目に対して「まったくそうは思わない」、「そうは思わない」、「そう思う」、または「どちらでもない」

リーダー企業であっても、また6つの習慣を取り入れたとしても、経済的な成功が保証されるわけではありませんが、本調査で、これらの行動と業績の向上には強い相関関係があることが明らかになりました。そしてその関係には、変革の時代における価値創造の新しい3つの側面があることが分かりました。

  • Humans@center(人が主役)
    顧客中心主義と従業員エンゲージメントを深めることへの徹底したコミットメント 
  • Technology@speed(スピードあるテクノロジー展開)
    顧客や従業員の期待に応えるため、スピードを格段に速めてテクノロジーを展開しようという意志
  • Innovation@scale(大規模なイノベーション)
    機敏性を高め、既存のビジネスモデルに大規模な変革をもたらす必要性

これら3つは全て、デジタルトランスフォーメーションのリーダー企業が実践する6つの習慣と密接に関係しています。「Humans@center」は、習慣1「何よりも顧客を重視」と習慣4「新しいインセンティブや戦略による人材の育成」に関係しています。この極めて重要なバリュードライバーは、「ヒューマンエンタープライズ」という、より大きな考え方につながっています。「ヒューマンエンタープライズ」とは、テクノロジーの役割についての考え方を企業がどのように変えれば、人間の知恵、機知、多様性を解き放ち、明日の世界に向けて新しいソリューション、アイデア、ビジネスモデルを創造できるかということに対するEYのビジョンを表したものです。一方、「Technology@speed」は、習慣2「成長促進に向けたAI活用の加速」と習慣6「データを活用し機敏さを維持することによるイノベーションの強化」に関係しており、「Innovation@scale」は、習慣3「エコシステムや提携を通したイノベーションの推進」に関連しています。

最後に、習慣5は優れたガバナンスに焦点を当てたものであり、3つのバリュードライバー全てを支えています。優れたガバナンスがなければ、「Humans@center」「Technology@speed」「Innovation@scale」は不可能です。価値の創造、ヒューマンエンタープライズ、6つの習慣は全て、変革のただ中にある企業で起こっている大きな変化を物語っています。

調査方法:

  • EYが描く「変革」とは

    本調査研究は「変革」を主要テーマとしています。変革とは、企業や業界が市場ダイナミクスの大きな変化を受けて劇的に変わる方法を言います。

    そのような変化のうち、最も大きいものの1つがデジタルテクノロジーの台頭です。新しいテクノロジーは、新しいビジネスモデルを創造するのと同じ速さで従来のビジネスモデルを破壊しており、それにより「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が生まれています。

    本調査では、回答企業に、特にデジタルトランスフォーメーションについて尋ねました。しかし、デジタルトランスフォーメーションは変革全体に不可欠な要素であるため、本レポートでは「デジタルトランスフォーメーション」と「変革」を同義で使用しています。

オフィスで働くスタートアップ企業の従業員
(Chapter breaker)
1

習慣1

何よりも顧客を重視

顧客へのこだわりは実を結ぶ

「お客さまは常に正しい」は、優れた顧客サービスの重要性を強調した昔からのビジネス上の格言です。今ではテクノロジーによってこの原則が膨れ上がり、顧客の期待が高まっているだけでなく、選択できる製品、サービス、企業、ブランドも多岐にわたっています。優れた顧客サービスとは、もはや事業を差別化するものではなく、事業の基本となるものです。この徹底した顧客中心主義は、EYが「Humans@center」と呼ぶアプローチの中核的要素です。

したがって、変革に取り組んでいる企業が、増収や利益目標達成などの他の重要な要素を後回しにしてでも、変化する顧客の要求に応えることを第一の目標に掲げているとしても、驚くことではないでしょう。

企業に求められるスピードを決めるのは顧客であり、カスタマージャーニーは確立されたビジネスプロセス全体に常に行き渡っている必要があります。これが人を中心としたアプローチの定義であり、リーダーとなった企業では顧客の要求が最優先されています。

 

リーダー企業は顧客を重視する

デジタルトランスフォーメーションの推進要因

「お客さまは常に正しい」は、優れた顧客サービスの重要性を強調した昔からのビジネス上の格言です。今ではテクノロジーによってこの原則が膨れ上がり、顧客の期待が高まっているだけでなく、選択できる製品、サービス、企業、ブランドも多岐にわたっています。優れた顧客サービスとは、もはや事業を差別化するものではなく、事業の基本となるものです。この徹底した顧客中心主義は、EYが「Humans@center」と呼ぶアプローチの中核的要素です。

したがって、変革に取り組んでいる企業が、増収や利益目標達成などの他の重要な要素を後回しにしてでも、変化する顧客の要求に応えることを第一の目標に掲げているとしても、驚くことではないでしょう。

企業に求められるスピードを決めるのは顧客であり、カスタマージャーニーは確立されたビジネスプロセス全体に常に行き渡っている必要があります。これが人を中心としたアプローチの定義であり、リーダーとなった企業では顧客の要求が最優先されています。

 

リーダー企業は顧客を重視する

デジタルトランスフォーメーションの推進要因

「お客さまは常に正しい」は、優れた顧客サービスの重要性を強調した昔からのビジネス上の格言です。今ではテクノロジーによってこの原則が膨れ上がり、顧客の期待が高まっているだけでなく、選択できる製品、サービス、企業、ブランドも多岐にわたっています。優れた顧客サービスとは、もはや事業を差別化するものではなく、事業の基本となるものです。この徹底した顧客中心主義は、EYが「Humans@center」と呼ぶアプローチの中核的要素です。

したがって、変革に取り組んでいる企業が、増収や利益目標達成などの他の重要な要素を後回しにしてでも、変化する顧客の要求に応えることを第一の目標に掲げているとしても、驚くことではないでしょう。

企業に求められるスピードを決めるのは顧客であり、カスタマージャーニーは確立されたビジネスプロセス全体に常に行き渡っている必要があります。これが人を中心としたアプローチの定義であり、リーダーとなった企業では顧客の要求が最優先されています。


リーダー企業は顧客を重視する

デジタルトランスフォーメーションの推進要因

  • 顧客第一主義が最も高いセクターとは

    顧客重視の水準は、セクターによって大きく異なります。

    顧客第一主義とする割合が最も高かったのは消費財・小売セクターで、変革に取り組んでいる企業の過半数(54%)が、変化する顧客の要求に応えることが変革の取り組みを推進すると回答しました。これは平均の45%を大きく上回っています。

    顧客重視の姿勢が最も低かったのがヘルスケア・ライフサイエンスセクターで、顧客の要求に応えることが変革を推進すると回答した企業は35%にとどまりました。その代わりこのセクターでは、変革への取り組みの目的は増収であると回答した企業が多くなりました(50%)。

EYのGlobal Microsoft Alliance Lead 兼 Americas Technology Strategy LeadであるJim P. Littleは次のように述べています。
「昨今、エクスペリエンス中心の考え方が非常に重視されています。実際、企業は、まずカスタマーエクスペリエンスについて考え、それをベースにデジタルテクノロジーを適用しています。ただし、ここで重要になるのが、『人を中心としたデザイン』というべき要素です。かつては、パッケージソリューションをただ選び、それをできる限りうまく導入すればよく、顧客がどう思うかなど考慮することはありませんでした。しかし今は、カスタマーエクスペリエンスやブランドの認知度が着目され、それらを向上させることに重点が置かれています」

取締役会が取るべきアクション

  • 顧客に直接対応する部署だけではなく、全社的に顧客中心主義を根付かせる。これを組織の価値観として宣言するか、戦略の柱とする。全階層・全部門の全ての人々が、顧客からのフィードバックを常に共有し、耳を傾けるようにする。
  • 顧客と企業との間で、連続的で完結したフィードバックループを構築する。これによって顧客の声にリアルタイムで対応し、研究開発の早い段階でそのフィ―ドバックを取り込むことができるようになるため、将来、変化する顧客の要求を上回る製品やサービス、カスタマーエクスペリエンスを提供できる可能性が高くなる。
コンソールで作業する2人のエンジニア
(Chapter breaker)
2

習慣2

成長促進に向けたAI活用の加速

AIの恩恵を享受する

顧客中心主義や効率性を高めようとしている企業にとって、人工知能(AI)は 注目の話題です。企業は、音声アシスタント、自然言語処理、予測ツール、インターネット広告など、さまざまなソリューションの原動力となるAIに着目しています。EYが「Technology@speed」と呼ぶアプローチを採用しているリーダー企業は、AIなどの新しいツールを使って新しいビジネスモデルを構築しているほか、テクノロジーを迅速に展開して、変化する顧客の期待に速やかに対応しています。

Gartner社は、2021年にはAI拡張により、世界中で2兆9,000億米ドルのビジネス価値が生まれ、62億時間分の労働者の生産性が向上すると述べています。しかし、AIをめぐる刺激的なうたい文句は数こそあれ、その恩恵が全ての企業で実現しているわけではありません。

調査対象の企業500社のうち、過去2年間における最大の投資先にAIを挙げた企業は半数に届きませんでした(47%)。AIは、クラウド(60%)、データおよび高度なアナリティクス(52%)、モノのインターネット(IoT)(50%)に次いで4番目に多い投資先となっています。

では、AIに投資しているのは誰なのでしょうか。それは変革のリーダー企業です。

リーダー企業はラガード企業よりもAI投資が大きい

 

リーダー企業とラガード企業による過去2年間で最大のテクノロジー投資先

投資レベルを見ると、特定のテクノロジーにおける企業の成熟度がよく分かります。しかし、見えてくるのは物語の一部にすぎません。テクノロジーが事業に与えている影響についても確認する必要があります。本調査では、リーダー企業はラガード企業と比べて、AIへの投資が大きいだけでなく、結果としてより大きな恩恵を享受していることが分かっています。

リーダー企業はラガード企業よりもAIからより多くの価値を得ている

リーダー企業およびラガード企業が、以下の項目についてさまざまなテクノロジーからプラスの成果を得ている割合

EYのGlobal Consulting Data and Analytics LeaderであるBeatriz Sanz Sáizは次のように述べています。
「これからは、AIがプロセスの中核に組み込まれ、企業のスマート化が急速に進んでいくでしょう。貴社では何が問題になるか考えてみてください。フロントオフィスのカスタマーエクスペリエンスに関するものでしょうか。業務や価格設定についての問題でしょうか。まずはこのように質問をして、対処すべき優先課題を洗い出すことから始めるとよいでしょう。全てを同列で優先させることはできません。次に、プロセスやビジネスニーズに合わせてAIを取り込んでいきます」

  • 事例紹介:エネルギー会社

    Sembcorp Industries社の最高デジタル責任者であるMatthew Friedman氏は次のように述べています。
    「当社は地元シンガポールで最大の再生可能エネルギー市場を有し、グローバルにビジネスを展開する企業です。私たちは、機械学習をベースとした複数のアプリケーションを構築しました。これらのアプリケーションは、風力発電のための予測やタービン調整、予知保全などの機能向上に資するため、発電量改善の一助になっています」

    「発電所のパフォーマンス向上や、エネルギー価格およびコモディティ価格のより正確な予測を目的としてAIや機械学習アプリケーションを構築したほか、健康や安全のために動画分析も利用しています。また、産業廃水処理プラントの最適化にも、機械学習を積極的に取り入れています」

  • 事例紹介:保険会社

    スペインの保険会社MAPFRE社の最高デジタルビジネス責任者であるMónica García Cristóbal氏は次のように述べています。
    「当社は積極的にAIを活用しています。今の時代は、どの顧客も一個人としての対応を求めています。AIやビッグデータの進歩により、顧客への理解を深め、効率的かつ先を見越した顧客対応を行い、ニーズを予測し、顧客の知覚価値を高めることが可能になっています」

    「デジタル保険市場でリードするには、インテリジェントオートメーションであれ、人工知能であれ、コネクテッドデバイスであれ、デジタル事業の拡大に資するあらゆるテクノロジーの進歩を利用することが必要不可欠です。その実現のためMAPFREでは、『MAPFREオープンイノベーション(MOi)』というプラットフォームを立ち上げ、イノベーションに注力しています。スタートアップ企業との連携を通して、戦略的ビジネスイニシアチブへ中期的に組み込める新しいビジネスモデルを構築できるようにしています」

取締役会が取るべきアクション

  • AIを通じて改善することのできる現在のプロセス、製品、サービスを評価する。
  • 完全に新しいユースケースを一から構築する。
  • 堅固な価値測定プロセスを開発して、ソリューションがもたらすメリットの監視および評価体制を強化する。
オフィスで隣り合わせに座って働く男性の同僚
(Chapter breaker)
3

習慣3

エコシステムや提携を通じたイノベーションの推進

手を組めばパフォーマンスは加速する

現代の顧客はカスタマイズや利便性、優れたエクスペリエンスを求めており、企業は自社だけでその要求の全てに応えることはできないということを認識し始めています。そこで必要になるのが他社との提携ですが、機敏性を高め、大規模なイノベーションをさらに可能にするには、まずセクターの壁を乗り越えなければなりません。例えば、オンラインの小売業者は、実店舗と提携して顧客により便利なエクスペリエンスを提供しています。また、グローバルにビジネスを展開するテクノロジー企業では、スタートアップ企業のエコシステムを活用してテクノロジー開発のさらなる推進を図っています。

市場調査会社である IDCの予測 によれば、 G2000企業 の60%は2023年までにデジタル開発企業のエコシステムを有し、さらにその半数はデジタル収益の20%をデジタルエコシステムから得るとしています。この傾向はEYの調査データにも表れています。調査対象企業の3分の2超(68%)が、イノベーションを目的とした提携は今後12カ月における中核的な優先事項になると回答しています。これは明るい材料ではありますが、リーダー企業とラガード企業の間にはこの取り組みに差が見られます。

リーダー企業は提携においてラガード企業に勝る

以下の項目に「そう思う」と回答したリーダー企業とラガード企業の割合

現代の顧客はカスタマイズや利便性、優れたエクスペリエンスを求めており、企業は自社だけでその要求の全てに応えることはできないということを認識し始めています。そこで必要になるのが他社との提携ですが、機敏性を高め、大規模なイノベーションをさらに可能にするには、まずセクターの壁を乗り越えなければなりません。例えば、オンラインの小売業者は、実店舗と提携して顧客により便利なエクスペリエンスを提供しています。また、グローバルにビジネスを展開するテクノロジー企業では、スタートアップ企業のエコシステムを活用してテクノロジー開発のさらなる推進を図っています。

市場調査会社である IDCの予測 によれば、 G2000企業 の60%は2023年までにデジタル開発企業のエコシステムを有し、さらにその半数はデジタル収益の20%をデジタルエコシステムから得るとしています。この傾向はEYの調査データにも表れています。調査対象企業の3分の2超(68%)が、イノベーションを目的とした提携は今後12カ月における中核的な優先事項になると回答しています。これは明るい材料ではありますが、リーダー企業とラガード企業の間にはこの取り組みに差が見られます。

リーダー企業は提携においてラガード企業に勝る

以下の項目に「そう思う」と回答したリーダー企業とラガード企業の割合

  • 事例紹介:Microsoft社のクリティカルエコシステム

    Microsoft社はエコシステム思考をビジネスモデルの中核に据えており、商業収入の95%をビジネスパートナーとのグローバルネットワークから得ています。

    Corporate Vice President One Commercial Partner Channel ChiefであるGavriella Schuster氏は以下のように述べています。
    「顧客の要求がより厳しくなり、カスタマイズされた専門的ソリューションが求められているため、エコシステムの活用は極めて重要になります」

    「デジタル世界で存在感を維持したい企業にとっては、顧客の要求を満たすことが最優先課題になっています。しかし、それを単独で行うことは難しく、不可能でさえあります。エコシステム内で提携することで、変化する顧客の要求への対応力を加速させ拡大する余地が広がります。専門家と提携すれば、新しい専門性を速やかに活用して、市場で特定したギャップを埋めることができます」

    「従来のビジネスモデルは急速に衰退しつつあり、市場の新しい現状には、提携やエコシステムが重要な成功要因であることが表れています」

  • 事例紹介:Keppel社を突き動かす柔軟なパートナーシップ

    Keppel社は持続可能な都市化のソリューションを提供するシンガポールのコングロマリットで、スタートアップ企業や教育センター、グローバルな大企業と提携し、可能な限り最高の製品やサービスを開発しています。

    パートナー企業との提携は正式なプロセスにのっとって行われていますが、グローバルCIOのJacob Tong氏は、イノベーションの活性化のためにはプロセスはできる限り流動的でなければならないと話します。

    「枠組みをあまり硬直的なものにしないよう注意しています。提携についてはその可能性を評価するようにし、定められた評価ポイントはあまり多く持たないようにしています。主なケイパビリティや姿勢を評価した上で、最終候補を選んでいます。最終的にパートナーとして選ばれるのは、win-winの関係を確信できる相手ということになります」

  • 提携が生まれる可能性が最も高いのはどの業種か

    本調査では、他社との提携意欲は業種によって異なることが分かっています。

    イノベーションを目的とした提携から数多くの顧客取引を獲得するという点では、金融サービスが先行しています。これが自社に当てはまると回答した金融サービス企業は83%に上り、平均の72%を大きく上回りました。

    これは明るい材料であり、より大規模で確立された金融企業が革新的なフィンテック企業との提携に前向きであることを反映しているとも言えます。例えば、米国の商業銀行であるHSBCは2018年、デジタル・パートナー・プラットフォームを立ち上げ、デジタルパートナーシップを通してカスタマーエクスペリエンスを向上させ、フィンテック企業がこのグローバル銀行と提携できるようにする計画を発表しました

提携における課題を克服する

企業は提携によるエコシステムが持つ潜在的な力を認めているものの、いまだに一定の抵抗感があります。調査対象企業の過半数(54%)は、提携がもたらす機会に対して全般的に懐疑心を抱いたままです。実際、そう考えるのはリーダー企業にやや多く、56%が提携を疑問視しています。これは、一つにはリーダー企業が提携で先行していることに起因しています。アイデア出しから抜け出し、双方に価値をもたらす拡張可能なソリューションにしていく難しさをより強く認識しているのかもしれません。

EYのGlobal Consulting Technology  LeaderであるDan Higginsは次のように述べています。
「企業文化をチームの形成に適したものにして、『オープンアーキテクチャ』思考を持つことが最初の課題になります。同様に重要なのが、関係管理のための合意の形成です。これは知的財産を誰が所有するか、共同開発したイノベーションで何をするか、そしてそれをどう管理するかなど、あらゆることに及びます。全ては解決可能であり、解決可能であることが証明されていますが、それには集中的な取り組みや思考の熟成が必要です。合意形成のための原則については、提携協議の非常に早い段階で対応しなければなりません。最終段階に近づいてから対応しようとしても、物別れになる可能性が高まります」

調査対象企業の42%はイノベーションでの提携が社風に悪影響を及ぼすことを懸念しており、リーダー企業に限るとその割合は45%へと小幅に上昇します。これも、提携の際の課題への認識がより強いからかもしれません。

エコシステムパートナーの方が自社よりも優れていて、結果としてそれを脅威に感じている企業が多いことも考えられます。これに打ち勝つには、堅固な変更管理プロセスを導入しなければなりません。

Higginsは、さらに次のように述べています。
「オープンプラットフォームを構築し、そのプラットフォーム上でスタートアップ企業や先端技術企業のイノベーションやコラボレーションを募集しようとしている非常にスマートな企業をいくつか見てきました。極めて現代的な方法を考え、それを可能にするためにオープンアーキテクチャやAPI、マイクロサービスを構築しました。しかしその後、スタートアップ企業やスケールアップ企業のコミュニティとのやり取りで失敗しています。このような企業は既存企業やヒエラルキーのある大企業と比べると、経営や自社についての考え方が大きく異なっています。企業文化の課題が、エコシステムの管理を難しくしています」

企業がエコシステム内で生み出せる価値は、関係をいかにうまく管理するかに正比例します。関係がうまくいくには、信頼、透明性、利益の公平な分配、そして関係を業務面から効果的に後押しするものが必要です。

EYのGlobal Alliance and Ecosystem LeaderであるGreg Sarafinは、効果的な関係管理を可能にすることにより、EYトップのエコシステム関係全体において飛躍的な成長が実現したと話します。
「数年前、私たちは紙の上では数多くの提携をしているにもかかわらず、ファーム全体の成長には若干のプラスにしかなっていないことに気付きました。これを受け、重点的な投資先とする提携の絞り込みに着手し、効果的な関係管理を始めました。これは、キャンペーンのサポートサービス、共同イノベーション、データ品質および管理情報システム(management information systems:MIS)、コミュニケーション、販促物、コンプライアンス、四半期ビジネスレビュー、イベント、その他多くのものによって可能になっています」

「これをコスト効率よく大規模に行うために、低コスト市場にシェアードサービス機能を構築し、オートメーションやAIなどのテクノロジーに対する多額の投資によってサポートしました。その効果はほぼ即座に現れ、成長率は3倍になり、EYとEYアライアンス関係の両方に大きな成長をもたらしました。エコシステムが売り上げに大きく貢献するようにするには、関係を構築し共同で市場開拓できるようにする一定水準のインフラが必要です」

「インフラ投資に二の足を踏めば、結果は伴わないでしょう。期待に届かないことによって、関係に緊張が生じるリスクを冒すことになります。幸いリーディングプラクティス・モデルが存在するため、求める成果との比較で、どこに投資すべきか、どの程度の投資をすべきかを把握する手掛かりになります」

取締役会が取るべきアクション

  • 既存のケイパビリティでは達成が困難、または過大な資本投資を必要とする価値領域を先回して検証する。
  • 市場を精査して潜在的なパートナーを特定し、提携関係に関する法律上、契約上の具体的な内容を詰める前に、「可能なことを追求する」ための議論を進める。
  • 企業文化の面から提携関係を組織全体に組み込むための十分な時間とリソースを割く。
  • 顧客や従業員への価値を明確にする。
  • 全ての関係者がエコシステムから価値を創造し、それを得ることができるよう、反復的なレビュープロセスを確立する。
  • 堅固なイネーブルメントサービスに下支えされた効果的な関係管理プロセスの構築を徹底する。
ノートパソコンを見ながらプロジェクトについて議論する社員たち
(Chapter breaker)
4

習慣4

新しいインセンティブや戦略による人材の育成

スキル不足が影響している

スキル不足は現実のものであり、広くまん延しています。調査対象企業の59%は、デジタルトランスフォーメーションの取り組みの加速につながると思われるスキルが業界全体で不足していると感じています。

スキル不足は組織全体で認識されている

「変革に向けた取り組みを加速させるスキルが不足している」に対する回答の役職別内訳

スキル不足

これは由々しき問題です。従業員は組織の要であり、ブランドの顔です。雇用者が変革の時代に向けて従業員の再形成とスキルの再習得に取り組まなければ、顧客の期待に応えることはできないでしょう。企業が人的要素に注力することは極めて重要であり、そうすることで、従業員は顧客、組織全体、そして外部コミュニティのステークホルダーをサポートできるようになります。

本調査で、企業はスキル不足を自社で何とかしようとしていることが分かりました。しかし、リーダー企業とラガード企業とでは、そのアプローチに大きな違いが見られます。

リーダー企業のほうがスキル不足への対応が積極的

リーダー企業とラガード企業によるスキル不足対策

EYのGlobal and Americas PAS Solutions Leader 兼 Global PAS Workforce Consulting Leaderである Liz Fealyは次のように述べています。
「人を中心に据えてスキル不足問題の解決に注力しない企業は、生産性、イノベーション、成長の面で深刻な競争リスクに直面します。そこで、企業は競争優位性を高めるために、事業戦略と人材戦略を(キャパシティー、ケイパビリティ、構成、コストの面から)意図的に結び付け、アジャイルな組織やチームを作り上げています」

リーダー企業もラガード企業も、新しいインセンティブと必須の研修プログラムの構築には同じように力を注いでいます。これは、両方ともに社内に目を向けた選択肢であるという点で、特別な意味を持っています。望ましいスキルを持つ企業への外注や買収といったより短期の策に頼るのではなく、自社の従業員への長期投資に高い意欲があることを示唆しています。

EYのEMEIA Workforce Advisory Leaderである David Storeyは次のように述べています。
「人材獲得競争が激しくなるにつれ、企業は互いに他社を『上回る』ことを目指してしのぎを削り、新しい時代に対応できるリーダーやチームを育成することに注力する必要があります。これは、従業員のスキルアップ、将来のデジタルスキルと適応能力両面への注力、専門性や機能性という観点からのスキルの再習得によって実現できます。変化のスピードが極めて速いため、皆が同じスキルを追い求めている現在の労働市場から新しい人材を採るよりも、今ある労働力に将来にも通用する中核的要素を求めるほうが、より速く低コストで済む場合が多いです。従業員のスキルアップは、社会的な団結や社内の結束の観点からも、あるべき行動といえます」

既存スタッフのスキルアップへの投資は人を中心としたアプローチであり、変革の時代が依然としてテクノロジーではなく人によって推進されているという事実を浮き彫りにしています。EYのGlobal People Advisory Services Learning & Digital Engagement Leaderである Kamran Malikは、これは現代の企業の基本であると指摘しています。

企業はイノベーションを生み出す企業文化の醸成や持続的な学習によって従業員に再研修、スキルの再習得、働き方改革を促すことに注力しています。その根本は、人を中心に据えて学習者を中心とした機会を生み出し、スキルセットと思考の両方の観点から将来のスキルを開発することにあります
Kamran Malik
EY Global People Advisory Services Learning & Digital Engagement Leader

人はあらゆる組織の要であり、事業上の重要な判断はそれを念頭に置いてなされなければなりません(詳細は「Eight forces driving HR transformation right now(英語版のみ)」参照)。幸いなことに調査では、デジタルトランスフォーメーションのリーダー企業はその点を理解しているらしいことが示されています。

  • 企業文化の変革と併せてスキルを推進する

    企業文化の改革を通してスキル不足を埋めることは可能でしょうか。

    スペインのAllianz Seguros社はそれを目標としています。最高執行責任者のAgustín de la Cuerda氏は次のように述べています。
    「特定の統計スキルについては外部から人材を採用しています。しかし何よりも重要なのは、企業のスキル全体の改革であり、これが私たちの取っているアプローチです。企業文化の改革は旅であり、私たちはまだその途上にあります」

    同様にKeppel社では、企業文化の幅広い改革によって、デジタルスキルの水準や企業文化を押し上げようとしています。グローバルCIOのJacob Tong氏は、成熟したデジタル文化が企業全体で醸成されつつあり、人々には成功に向けた意欲がある一方で、依然としてスキルセットや思考が課題になっており、解決に向けた断固とした取り組み、時間、投資を必要とするだろうと指摘しています。

    「これを克服する方法の1つは、人事部門と緊密に連携し、デジタルのスキルセットや思考が組織全体に浸透するようにすることです。これには、毎年の研修や人材開発の一環として、ハードスキルとソフトスキルの両面について柔軟なデジタル研修を義務付けることなどがあります。また、経営陣も研修の実施を大いに後押しし、推奨しなければなりません。それが大きなサポートになります」

取締役会が取るべきアクション

  • 今どのような人材がいるか、今後どのような人材が必要になるかまず把握し、計画的でデータに基づいた人材戦略を構築する。将来に起こり得るスキル不足(および余剰)を想定し、「育成、紹介、派遣」された人材を介在させることにより、事業戦略の達成をサポートする。
  • 継続学習の文化を醸成し、学習者を中心とした方法でスキル開発ができる学習者エクスペリエンスを開発する。これは、消費者レベルの学習エクスペリエンスとサポートテクノロジーによるバックアップを必要とする。どの企業にとっても従業員は不可欠な要素であり、従業員が成功や真の事業価値の実現に必要なスキルを有していることは非常に重要である。
  • スキルに最低限の投資しかしないことは節約ではなく、カスタマーエクスペリエンスに悪影響を及ぼすということを理解する。
  • 全社的に従業員のスキル開発に投資する。スキル水準とリソース配置の判断を紐づけ、組織の全ての階層で多様なスキルを持つ人材の育成に重点的に取り組む。
データが表示されたモニターに囲まれた席に座っている女性
(Chapter breaker)
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習慣5

先端技術を対象としたガバナンス計画の発動

イノベーションとガバナンスは密接に関係している

事業の成功には、革新的なデジタルテクノロジーの大規模な開発・展開を行うことが今日では極めて重要です。それによって企業はより機敏になり、セクターの壁を乗り越え、顧客に対してより優れた成果を実現することができます。しかし、最良かつ最も革新的なテクノロジーでさえも、適切かつ倫理的に管理されなければ規模を追い求めることはできません。

  • EYが描く倫理的なガバナンスとは

    EYでは倫理的なガバナンスを、イノベーションに積極的かつ先を見越したアプローチをとり、変化の速い世界で持続可能性および確信を持って成長する企業を表すものと考えます。そうした企業は前進に必要となる適切なリスク量を、外部リスク、ダウンサイドリスク、アップサイドリスクに分けて適切に評価し、バランスを取らなければなりません。

倫理的なガバナンスの中核をなすのは「信頼」です。テクノロジーや企業は、消費者や企業から信頼されなければ、単に利用されなくなるだけでしょう。EYでは、信頼はTrust by Design(信頼性の設計)という概念に沿って構築するのが最善の方法だと考えています。これは、リスクの最適化という思考を全てのテクノロジーに浸透させることにより、信頼がサービスや製品の構想段階から組み込まれていることを徹底する手法です。

わずか

8%

の調査対象企業が、ガバナンスの枠組みが十分に確立され、実務で活用されていると回答。

本調査では、半数近い回答企業(49%)が先端技術に対するガバナンス計画をエグゼクティブレベルで策定しているものの、ガバナンスの枠組みが十分に確立され、実務で活用されている企業は8%にとどまっていることが分かっています。ここからは、道のりはいまだ遠く、利用の抑制につながると考えられるガバナンスや倫理的な枠組みを企業が十分に考えることなくテクノロジーを配置していることが示唆されます。

 

これは懸念されるところであるものの、経営陣が倫理的なガバナンスを認識し、入念に検討していることが確認できたことは明るい材料です。

リーダー企業は先端技術ガバナンスで先行している

リーダー企業とラガード企業の先端技術に対するガバナンス水準

企業は今もなお先端技術に対する倫理的ガバナンスに懸命に取り組んでいるところですが、大手テクノロジーベンダー企業の多くはその先駆者として、自社で開発したテクノロジーに関する独自の枠組みを構築しつつあります。例えば、Microsoft社はAI開発の中核にすべきと考える6つの基本原則を設定したほか、Alphabet社(Googleの親会社)はクラウドについて同社が考えるデータガバナンスの原則およびベストプラクティスを正式に提示しました。

MAPFRE社の最高デジタルビジネス責任者であるMónica García Cristóbal氏は次のように述べています。
「ガバナンスは今流行のテーマですが、私たち保険業界にとっては中核をなすものです。私はここ数年、MAPFREのコーポレートデジタルITディレクターとして、AIやロボティクスを担当していました。グループとして最初に手掛けたAIに関するマイルストーンの1つが、データ・ガバナンス・モデルの定義付けでした。私たちは、利用可能な全てのデータソースからのデータを、組織的かつ横断的で信頼のできる方法で利用してもらうことを目的としてこれを定義しました」

「人工知能や機械学習など未開の領域に足を踏み入れる場合は、企業の価値観をそれに合わせなければならないことは分かっていました。AI、機械学習、コグニティブ、音声認識のいずれであっても、新しい領域に参入する際は、顧客を中心にしなければなりません」

取締役会が取るべきアクション

  • 組織内に、支持および権限を得てガバナンス、プライバシーおよびテクノロジーの倫理的使用に関する基準や方針を策定する部署を設置する。
  • それらのチームが社内の他チームや部門と足並みをそろえ、反発しあうのではなく協力できるようにする。
  • イノベーションサイクルの早い段階で、イノベーションチームとコーポレート・ガバナンス・チームの調和を図ることで、テクノロジーが倫理的かつ優れたガバナンスを伴って開発される可能性を高める。
  • 経営陣に臨機応変な労働モデルを通じた柔軟なチーム構築をサポートするよう促すことにより、創造的思考の妨げになる組織構造やコーポレートガバナンスを回避する。
小規模オフィスのデスクでノートパソコンで作業するプログラマーら
(Chapter breaker)
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習慣6

データを活用し機敏さを維持することによるイノベーションの強化

スピード感のあるオペレーションが不可欠

スピード感のあるオペレーションは企業の重要な優先事項です。EYでは、イノベーションを大規模に進める必要性と併せて、顧客の期待により応えるためにテクノロジーを速やかに展開することが中核的なバリュードライバーであると考えています。しかし、企業はより迅速かつより機敏でなければならないことを理解している一方で、その多くは、どうすればそれを達成できるのかについては確信を持っていません。そして、その答えをデータに求めています。

EYのGlobal Consulting Data and Analytics Leaderである Beatriz Sanz Sáizは次のように述べています。
「データは戦略的な資産です。最大手の企業はデータを活用した学びを急速に進め、見る見るスマートになっています。これが、効率性、経費削減、カスタマーエクスペリエンスにさまざまに影響します。前に進むにはこれが最善の方法と言えるでしょう。21世紀においては、データを活用することなく企業として生き残ることはできません」

保険会社は不正を検知し迅速に行動するために保険金請求データをどのように活用しているのでしょうか。メーカーは破損箇所を発見・予測してコストのかかる非稼働時間を最小限に抑えるために、データをどのように活用しているのでしょうか。そして小売業者は関連商品をより効率的に的を絞って紹介するために、顧客の購入履歴や検索データをどのように活用しているのでしょうか。

データを活用した業務の最適化はほぼ全ての企業で可能であり、本調査によれば、4分の3近くの回答企業(71%)が、データやアナリティクスから得た知見をイノベーションの加速に活用しています。実際、調査でこの方法が第1位になり、次いでプロセスの再設計や自動化(62%)、ヒエラルキーの合理化(61%)となっています。企業はデータが自社にもたらす価値を全般的には理解していますが、リーダー企業は実際にそれを手にしています。リーダー企業の83%はデータを活用してより迅速なイノベーションを後押ししている一方で、ラガード企業では70%にとどまりました。

リーダー企業はイノベーションにデータや知見をより積極的に活用

イノベーションに要する時間を短縮するために採っている方法

EYのBeatriz Sanz Sáizは次のように述べています。
「従来型のデータ活用アプローチでは、インテリジェンス部門を業務部門から切り離して構築していました。過去20~30年間そうしてきたのです。データウェアハウスやデータレイクを設置して業務部門からデータを移し、その後データをまた業務部門に戻していました。この方法だと一般的にはデータの移転に時間の80%が費やされ、アルゴリズムが有効に実施された時間は50%に過ぎません。これは頭と体を分離するようなものです。うまく機能するものではありません」

  • 注目を浴びるアジャイル手法

    イノベーションや真の事業価値を生み出すスピードを速めるために企業が模索している他の有意義な方法に、アジャイル手法の活用が挙げられます。

    本調査によると、アジャイル手法を活用しているのは、リーダー企業で68%、ラガード企業で46%でした。アジャイル手法を採り入れている企業はかなりの恩恵を享受しており、業績をより速く達成している企業は51%、より優れたカスタマーエクスペリエンスを実現している企業は48%、チーム内のコミュニケーションがより明確になった企業は41%となりました。

    変革の時代のただ中にある現代の企業にとって時間が最も重要であるならば、その秘訣はデータを活用し、内部プロセスを更新することにあるようです。 

取締役会が取るべきアクション

  • データが自社にもたらすことのできる多大な価値を理解し尊重する。過小評価するのであれば、それは自身の責任である。
  • データが信頼され、意味を持つよう徹底する。そして、クリーンで品質が高く、コンプライアンスに対応し、セキュアな環境で利用されなければならない。
  • データを事業の中心に組み込む。業務部門からデータを移すのは非効率的であり、企業の「頭」(データ)と「体」(業務)はつなげておく必要がある。

変革で成功するにはリーダー企業を見習うことが必要

6つの習慣を取り入れることが、企業の変革を後押しする

変革の時代が到来し、日々の生活のあらゆる面がテクノロジーとより密接につながり、成長やイノベーションの機会がますます増えています。このような時代の中で企業は今、人的価値や社会的価値、顧客価値など人を主体とした大規模なイノベーションやスピード感のあるテクノロジーの展開など、業績以外で価値を生み出す源泉を確保する必要性に迫られています。

一部のリーダー企業は、テクノロジーのディスラプション(創造的破壊)から逃げ切ろうとするのではなく、機会と捉えることによってそれを可能にしています。自らを改革し、テクノロジーのディスラプションを、新しい価値の源泉を解き明かすことを可能にするものとして利用する術を身に付けているのです。

幸いなことに、変革の時代における成功は、リーダー企業のために確保されたものではありません。あらゆる国やセクターの企業が基本習慣を採り入れています。そうする企業は伸びる可能性が最も高い一方、それをしない企業が生き残る可能性は、残念ながらほとんどありません。

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サマリー

テクノロジーが持つディスラプティブな力が世界やビジネスの性質を変えています。変化から後れることなく、長期的価値を生み出すには、ラガード企業ではなく、変革のリーダー企業を見習う必要があります。このようなリーダー企業には業績の向上を後押しする6つの習慣があります。それは、「何よりも顧客を重視」、「AI活用の加速」、「エコシステムを通じたイノベーションの推進」、「新しい人材の育成」、「先端技術を対象としたガバナンスの発動」、そして「機敏さを維持するためのデータの活用」です。 

この記事について

執筆者
Jim Little

EY Global Microsoft Alliance Lead and EY Americas Technology Strategy Lead

Technology enthusiast. Former CIO. Passionate about helping companies re-imagine their business, value propositions, customer and employee experiences using technology.

Savi Thethi

EY Americas Advisory Services Technology Transformation Leader

Avid problem solver. Passionate about helping clients reinvent their business leveraging next-generation technologies. Traveler. Fishing enthusiast.