3. 通信キャリアの先進的な取り組み
では業界団体に加盟する各企業は、Open RAN、V-RANの普及に向けて、どのような取り組みを行っているのでしょうか。ここでは、世界的に先進的な取り組みを行っているNTTドコモおよび楽天モバイルの活動を解説します。
NTTドコモは、Open RANおよびV-RANに関する導入支援コンサルティングに注力しています。サービスブランド「OREX」を発足して、海外の通信キャリア向けに、Open RANおよびV-RANをパッケージ化して提供し、さらに導入・運用・保守までサポートします。例えば、OREXが展開するオープンシェアードラボを活用することにより、海外の通信キャリアは、自国からV-RANの検証を行うことができます。これにより、自前でラボを構築することなく、迅速かつ低コストでV-RANの検証を進めることができます。同社は既に、韓国KT、フィリピンSmart Communications Inc.、英 Vodafone Group Plc、米 DISH Wireless、シンガポール Singtel の 5社に対して、導入支援を行っている状況です(2023年2月27日時点)。※10
また、楽天モバイルの子会社である楽天シンフォニーは、自社構築の仮想化・クラウドネイティブネットワークのアセットを海外の通信キャリア向けにレンタルするサービスを開始しています。楽天モバイルが国内で実現した完全仮想化・クラウドネイティブネットワークの知見を活用することにより、モバイルネットワーク「Rakuten Communications Platform」を構築して、通信キャリア向けに通信インフラをレンタルするサービスです。通信キャリアは、当該サービスを利用することでネットワークコストを大幅に削減でき、設備投資を抑えた通信事業の展開が期待できます。既にドイツ1&1が2021年にその採用を決めており、楽天シンフォニーは商用化では先行した取り組みを行っています。※11
4. Open RAN、V-RANを普及させるための要諦
これまでの通り、Open RAN、V-RANの普及に向けて、業界団体や通信キャリアでさまざまな営みが行われています。今後、これらのRANをさらに普及させていく上で、どのような留意事項があるのでしょうか。主な普及の要諦を整理しました。
Open RAN、V-RAN共通
① アライアンス強化と商用導入に向けた取り組みの推進
Open RAN、V-RANは新しい技術であり、導入期では、可能な限り多くの事業者を巻き込みアライアンスを形成して、仕様策定・製品サービスの開発等、商用化までに必要な取り組みを推進し続けることが、普及の鍵となります。そして、取り組みが停滞することなく順調に成長期に入るためには、Open RAN、V-RANの導入効果が発揮され、従来RANとの差分が明確に市場に認知されることが重要です。
② 通信品質を担保する知見・技術力
Open RANでは、異なるベンダーの機器を組み合わせる場合、機器間での相互接続性を入念に検証し、改善のサイクルを迅速に回す必要があります。また、V-RANでも、汎用サーバー/アクセラレータ/仮想化基盤ソフト/基地局ソフトウェア間の相互接続性の検証は必須です。技術力が高い通信キャリアであれば、自らが検証し、通信品質を担保することは可能ですが、全ての通信キャリアができることではありません。SIerが相互接続を行い、テスト支援メーカーが品質テストを行っても、最終的に通信品質を担保するのは通信キャリアのため、納入された製品・サービスを受け入れテストできる知見・技術力を有することが必要です。
③ インテグレーションを加味したコストメリットの検証
Open RAN、V-RANは設備投資コスト、運用コストの低減が期待できる一方で、CU/DU/RUで異なるベンダーの機器を採用した場合、または、アクセラレータを組み込んだ汎用サーバー上で基地局ソフトウェアを動かした場合にRANとして適切に動作させるためのシステムインテグレーションに関する費用が発生します。そのため、通信キャリアは、インテグレーションを加味したTCO※12において、従来比でコストメリットがあるのか検証する必要があります。
Open RAN
④ Open RAN固有のサイバーセキュリティ対策
Open RANは、従来RANと比べて、CU/DU/RU間等のインターフェース(接続)が増加し、新たなコンポーネントも存在するため、従来RANでは発生しなかったOpen RAN固有のサイバーセキュリティリスクが懸念されます。想定されるセキュリティリスクを網羅的に洗い出し、セキュリティ要件とソリューションを準備しておくことが必要です。コンポーネントごとに各ベンダーがセキュリティ対策を講じるのか、RAN全体として通信キャリア自身が対策を講じるのか等、今後、より具体的な検討が求められます。
⑤ RANの保守運用手順の標準化
従来RANでは、特定ベンダーが一括でCU/DU/RUを納入していたため、基地局全体で見ても、保守運用の手順書の種類が限定されていました。一方で、Open RANによりマルチベンダーを採用する場合は、基地局全体でさまざまなベンダーの手順書が存在することになり、従来RANよりも保守運用が複雑化する懸念があります。どのベンダーを採用したとしても、標準化して保守運用できる仕組み・運用ルールの構築が必要です。
V-RAN
⑥ 汎用サーバーから基地局ソフトウェア間のインテグレーション高度化
Open RANはCU/DU/RUの機器の組み合わせおよび接続が論点となります。一方で、V-RANは、無線信号を処理するDUの機器内部のハードウェアおよびソフトウェアのアーキテクチャ構築、実装が求められます。そのため、Open RANと比べても、通信品質により大きな影響を与えることが想定されます。今後、仮想化を普及させる上では、アクセラレータを搭載した汎用サーバー上で基地局ソフトウェアを機能させるためのインテグレーションを高度化して、通信品質を安定化させる技術の実装が肝要となります。
⑦ 不具合箇所の早期発見とBCPの事前整備
従来のCU/DUは単一ベンダーによる納入のため、通信障害が発生した際、専用ハードに精通した当該納入ベンダーにより早期の復旧が可能でした。一方、V-RANではコンポーネント毎にベンダーが異なることが想定されるため、汎用サーバー/アクセラレータ/仮想化基盤ソフト/基地局ソフトウェアのどこに通信障害の不具合があるのか特定が困難になる懸念があります。そのため、早期復旧を促すためには、不具合箇所を早期に特定可能とする仕組みやシステムの構築が求められます。加えて、不具合箇所およびその内容ごとに、対応手順や復旧方法のマニュアルを準備する等、BCPの事前整備が重要となります。
5. Open RAN、V-RANがもたらす新たな事業機会
このような要諦を踏まえてOpen RAN、V-RANが将来普及した際、ステークホルダーにどのような事業機会をもたらすのでしょうか。
マルチベンダー化、ソフトウェア化等により、参画するステークホルダーが増え、幅広い事業機会をもたらすことが期待できます。想定される事業機会について、ステークホルダーごとに解説します。
Open RAN、V-RANのステークホルダー図(EY想定)