医療機器業界のグローバルな成長は持続していますが、研究開発費への過小投資や業界のサービス提供者、医療費支払機関、患者間のコラボレーション不足によって、長期的な成長見通しはリスクにさらされています。医療機器業界に関するEYの年次レポート「Pulse of the industry」(2019年版)によると、2018年~2019年の業界全体の売上は7%増の4,072億米ドルに達し、3年連続の成長と過去最高を記録しました。バリュエーションも堅調で、累積の公開評価額は2019年6月30日までの18カ月間で38%増加し、ライフサイエンス業界を大幅に上回っています。
2018年の研究開発費は11%増で、2017年の残念な内容を経て期待の持てる結果となりましたが、この回復が持続的な再投資の始まりを示すものかどうかは依然として不透明です。本レポートでは株主に対する現金還元の増加も示されており、医療機器企業の自社株買いと配当による投資家への還元額は170億米ドルに達し、研究開発費投資総額の150億米ドルを上回る数値となっています。
EY Global Health Sciences and Wellness Industryリーダーのパメラ・スペンスは次のように述べています。
「医療機器業界は依然として活況で、業界プレーヤーは引き続きデータの力を活用して、より効果的で迅速な患者に対する成果をもたらす個別化治療を提供しています。米国政府が承認する人工知能(AI)のアルゴリズムは現在増え続けていますが、このトレンドはAIに対する理解が成熟する中で持続されるでしょう。また、治療領域の統合が引き続き規模の確立の支えとなり、企業の競争を激化させる一方、多様なスキルや人材へアクセスするための非伝統的なパートナーとのコラボレーションが、機器や製品間のデータ交換のためのサイバーセキュリティを確保したエコシステムの構築に不可欠なものとなるでしょう。」
本レポートによると、連携されたエコシステムの欠如によって、医療機器企業は開発した医療機器がもたらす価値を十分に引き出せていないことも判明しました。
EY Global MedtechリーダーのJim Welchは次のように述べています。
「医療機器企業にはデジタルトランスフォーメーションを活用する独自のチャンスがあります。機器の接続性が高まる中で、医療機器企業は最初からアドバンテージを持っているのです。ヘルスケアエコシステムの他のステークホルダーとの強力な連携体制も整えているため、新たなビジネスモデルの開発や将来的な価値創造において有利な立場を築いています。しかし、その一方、医療機器企業には個別化医療サービスの開発に向けた幅広い分野の能力が欠けています。医療機器企業は、カスタマーエクスペリエンスを拡充するデジタル分野のコラボレーションとデータアナリティクススキルへの投資を増加させることによって、今後も患者にいっそう寄り添うことができるはずです。」
本レポートでは、医療機器企業がポートフォリオの最適化を継続し、非中核資産を切り離して資本の効率化を図ることで将来的な成長に備えていることも強調しています。5億~10億米ドル規模の投資機会は限られており、医療機器業界ではロボットによる外科手術のプラットフォームなど、イノベーション分野における競争が激化しているのです。さらに、少数のメガディールを除くと、より多くのディールが広範囲で散見されているにもかかわらず、M&A取引総額は前年度の数値と同水準であることから、医療機器企業は大胆で革新的なディールよりも、タックイン買収やポートフォリオの最適化を優先していることも示唆しています。