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インボイス制度下における仕入税額控除の要件

情報センサー2022年12月号 押さえておきたい会計・税務・法律

公認会計士 太田 達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『消費税の「インボイス制度」完全解説』『同族会社のための「合併・分割」完全解説(改訂版)』『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

令和5年10月1日から「適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス方式)」の適用が開始されます。従来にない新たな制度であり、さまざまな実務問題が生じます。本稿では、仕入税額控除の要件に焦点を当て、実務上のポイント・留意点を解説します。

なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。

Ⅱ 仕入税額控除の要件を満たす請求書等

次章の「Ⅲ 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引」に掲げる9つの取引を除き、次に掲げるもののいずれかの書類等の保存および帳簿の保存が、課税仕入れに係る仕入税額控除の要件とされます。


<仕入税額控除の要件を満たす請求書等>

イ 適格請求書

ロ 適格簡易請求書

ハ 適格請求書の記載事項に係る電磁的記録(電子インボイス)

ニ 事業者が課税仕入れについて作成する仕入明細書、仕入計算書等の書類で、適格請求書の記載事項が記載されているもの(課税仕入れの相手方の確認を受けたものに限る)

ホ 媒介または取次ぎに係る業務を行う者(卸売市場、農業協同組合、漁業協同組合または森林組合等)が、委託を受けて行う農水産品の譲渡等について作成する一定の書類

イが適格請求書ですが、不特定多数の者に対して資産の譲渡等を行う一定の事業については、ロの適格簡易請求書でよいとされます。ハは一定の保存要件を満たした電子インボイスです。また、ニおよびホは現行の制度の踏襲になりますが、記載事項が追加される点に留意する必要があります。

Ⅲ 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引

1. 帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる9つの取引

現行の制度では、課税仕入れに係る支払対価の額の合計額が3万円未満である場合に帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる特例が置かれています(消法※130条7項、消令※249条1項)。適格請求書等保存方式の下では、この3万円特例は廃止され、「支払対価の額の合計額が少額である場合」に代えて「請求書等の交付を受けることが困難である場合」とされました。「請求書等の交付を受けることが困難である場合」には、当該課税仕入れを行った事業者において適格請求書等の保存を要せず、一定の事項が記載された帳簿のみの保存により仕入税額控除を認めるものとされます(新消法30条7項)。

帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引は、具体的には次の9つの取引です(新消令49条1項、新消規※315条の4)。限定列挙であると解されます。

<帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる取引>

① 公共交通機関である船舶、バスまたは鉄道による旅客の運送として行われるもの(3万円未満のものに限る)*1(公共交通機関特例)

② 適格簡易請求書の要件を満たす入場券等が使用の際に回収されるもの(入場券等回収特例)

③ 古物営業を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの

④ 質屋を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの

⑤ 宅地建物取引業を営む者が適格請求書発行事業者でない者から買い受けるもの

⑥ 適格請求書発行事業者でない者から再生資源または再生部品を買い受けるもの

⑦ 自動販売機または自動サービス機からのもの(3万円未満のものに限る)(自動販売機・自動サービス機特例)

⑧ 郵便切手類のみを対価とする郵便の役務および貨物の運送(郵便ポストに差し出された郵便物および貨物に係るものに限る)

⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)*2(出張旅費特例)

※ 上記の③から⑥については、買い受ける者の棚卸資産に該当する場合に限る。


*1 3万円未満の公共交通機関による旅客の運送かどうかは、1回の取引の税込価額が3万円未満かどうかで判定する(インボイス通達3-9)。したがって、1商品(切符1枚)ごとの金額や、月まとめ等の金額で判定することはしない。3人分の運送役務の提供を行う場合には、3人分の金額で判定する。なお、急行料金や寝台料金は、旅客の運送に直接的に付帯する対価として、この特例の対象になる。一方、入場料金や手回品料金は、旅客の運送に直接的に付帯する対価ではないため、特例の対象にはならない(インボイス通達3-10)。

*2 出張旅費、宿泊費、日当については、所得税基本通達9-3により所得税が非課税となる範囲内で認められ、通勤手当については通勤に通常必要と認められるものであればよく、所得税法施行令20条の2に規定される非課税とされる通勤手当の金額を超えているかどうかは問わない(インボイス通達4-9、4-10、適格請求書Q&A・問85、86)。

2. 帳簿の記載事項の追加

帳簿のみの保存により仕入税額控除が認められる場合、帳簿に上記の課税仕入れのいずれかに該当する旨および当該課税仕入れの相手方の住所または所在地(一定の者を除く)を記載することが必要とされます(新消令49条1項1号かっこ書き)。すなわち、帳簿の記載事項について、通常必要な記載事項に加え、次の事項の記載が必要となる点に留意する必要があります。

  • 帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められるいずれかの仕入れに該当する旨
    例:①に該当する場合「3万円未満の鉄道料金」または「公共交通機関特例」
      ②に該当する場合「入場券等」または「入場券等回収特例」
  • 仕入れの相手方の住所または所在地(一定の者を除く)

帳簿に仕入れの相手方の住所または所在地の記載が不要な一定の者は、次の通りです(インボイス通達4-7)。

イ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関(船舶、バスまたは鉄道)による旅客の運送について、その運送を行った者

ロ 適格請求書の交付義務が免除される郵便役務の提供について、その郵便役務の提供を行った者

ハ 課税仕入れに該当する出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当および通勤手当)を支払った場合の当該出張旅費等を受領した使用人等

ニ 先の③から⑥の課税仕入れ(③から⑤に係る課税仕入れについては、古物営業法、質屋営業法または宅地建物取引業法により、業務に関する帳簿等へ相手方の氏名および住所を記載することとされているもの以外のものに限り、⑥に係る課税仕入れについては、事業者以外の者から受けるものに限る)を行った場合の当該課税仕入れの相手方


3. 旅費交通費(公共交通機関特例、入場券等回収特例、出張旅費特例)の取扱い

企業の実務に密接な旅費交通費の取扱いを詳しく解説します。先の①、②および⑨が関連します。

旅費交通費については、(1)従業員が立替払をして、会社との間で事後に精算する場合と(2)会社が従業員に実費相当分を直接支給する場合の2通りがあります。

(1) 従業員が立替払をして、会社との間で事後に精算する場合

従業員が旅費交通費の立替払を行っている場合、会社が仕入税額控除を行うには、原則として、会社宛の適格請求書が必要となります。

一方、宛名が会社ではなく、立替払を行った従業員となっている場合、適格請求書の記載事項(新消法57条の4第1項6号)を満たさないため、会社は仕入税額控除を行うことができないことになります。その場合、会社が仕入税額控除を行うには、従業員宛の適格請求書に加え、従業員が作成した「立替金精算書」の保存が必要となります(インボイス通達4-2、インボイスQ&A・問78)(<図1>参照)。

図1 立替金精算書の例

この「立替金精算書」は、従業員宛の適格請求書が会社のものであることを明らかにするためのものであり、具体的な記載事項や様式などは明らかにされていませんが、経費精算で利用されている一般的な出張旅費の精算書(従業員名、出張日、支払日、支払内容および支払金額等が記載)で差し支えないと考えられます。このため、インボイス制度に移行しても、これまで通りの経費精算実務が継続できるものと考えられます。

最初から、会社宛の適格請求書を入手した方が、実務負担が少ないように見えますが、宛名が会社宛であれ従業員宛であれ、いずれにしても会社と従業員との間で立替金の精算を行うわけですから、このような立替金精算書のやり取りで精算する実務は従来から行われており、その実務を実質的に継続すればよいことになります。

適格請求書が入手できない場合であっても、3万円未満の公共交通機関(船舶、バスまたは鉄道)による旅客の運送については、インボイスの交付義務が免除されており、仕入側である会社は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。この「公共交通機関特例」の適用を行う場合は、通常の記載事項に加え、帳簿に「公共交通機関特例」などと記載することが必要となります。

また、3万円以上の公共交通機関を利用した場合でも、公共交通機関である鉄道事業者から適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除く)を記載した乗車券の交付を受け、その乗車券が回収される場合は、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。この「入場券等回収特例」の適用には、通常の記載事項に加え、帳簿に「入場券等回収特例」などと記載するほか、仕入の相手方(公共交通機関)の住所等の記載も必要です。

(2) 会社が従業員に実費相当分を直接支給する場合

会社が従業員に出張旅費等を支給する場合には、課税仕入の相手方は従業員となり、「その旅行に通常必要であると認められる部分」の金額については、帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。

この「出張旅費等特例」には、公共交通機関特例のような金額基準はなく「その旅行に通常必要であると認められる部分」の金額であれば、3万円以上であっても帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます。適用するには、通常の記載事項に加え、帳簿に「出張旅費等特例」などと記載することが必要となります。

なお「その旅行に通常必要であると認められる部分」については、所得税基本通達9-3「非課税とされる旅費の範囲」に基づき判定されます。

出張旅費等特例については、一律支給ではなく、実費相当額での支給を行っている場合には、適用できないのではないかと心配する声もあります。しかし、その支給額が実費相当額であったとしても、旅費規程等に基づいて会社が従業員に出張旅費を支給しているのであれば、出張旅費等特例を適用することができます。

例えば、新幹線には、クレジットカードと交通系ICカードを登録し、登録した交通系ICカードでチケットレス乗車ができるサービスがあります。このサービスでは、新幹線改札機に交通系ICカードをタッチすると、乗車日・運賃・乗車区間・列車・座席などの情報が記載された「利用票」が出てくるため、従業員が自分のクレジットカードを使ってこのサービスを利用する場合、領収書等は取得させず、精算の際は、この「利用票」を証憑(ひょう)として新幹線運賃相当額の支給を行っている会社も多いと思われます。この場合も、会社が出張旅費として新幹線の運賃相当額を従業員に支給しているのであれば、出張旅費等特例を適用することができると考えられます。

以上の旅費交通費の取扱いの全体をまとめると<表1>の通りとなります。

表1 旅費交通費の精算に関する取扱い

<非課税とされる旅費の範囲>

所得税法第9条第1項第4号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路もしくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容および地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。

(1) その支給額が、その支給をする使用者等の役員および使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。

(2) その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。

4. 公共交通機関特例と出張旅費等特例との区別(使い分け)

公共交通機関特例と出張旅費等特例との区別(使い分け)ですが、例えば近郊の日帰り出張については3万円未満の公共交通機関運賃しか発生しないことが考えられます。その場合は、公共交通機関特例を適用し、帳簿に公共交通機関特例である旨を記載する対応が実務的に簡便です。従業員等から、支払日時、支払額、利用区間等の報告を受け、それに基づいて処理することが考えられます。

一方、遠隔地の出張の場合、出張旅費、宿泊費、日当について、従業員等が出張旅費等に係る立替金精算書を作成し、経理部との間で精算の事務が行われるのが通常です。この場合は、出張旅費等特例を適用し、帳簿に出張旅費等特例である旨を記載することにより、帳簿のみの保存により仕入税額控除の適用が認められます。

このような処理フローを想定し、あらかじめ従業員等に対して、ケースに応じた事務処理方法を経理部から周知しておく対応が考えられます。

※1 消費税法

※2 消費税法施行令

※3 消費税法施行規則

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