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金融庁金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告の概要 後編

2022年10月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2022年11月号 会計情報レポート

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室/品質管理本部 会計監理部
公認会計士 髙平 圭
公認会計士 前田 和哉

品質管理本部会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計・開示に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。

Ⅰ はじめに

本稿では、前編に続いて、22年6月に公表された「金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告―中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けてー」(以下、DWG報告)の項目のうち、コーポレート・ガバナンス、情報開示の頻度・タイミング、その他の個別課題の内容について解説します(<表1>参照)。文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

表1 DWG報告の概要

Ⅱ コーポレート・ガバナンスに関する開示

1. これまでの取組み

前回のディスクロージャーワーキング・グループ報告(18年6月公表。以下、前回DWG報告)以後のコーポレート・ガバナンス改革を巡る主な動向は<表2>のようなものが挙げられますが、今回のDWG報告では、このような取組みの進展を企業情報の開示にも反映させるため、次の2.から4.の3項目について提言が行われています。

資料1 記述情報の開示に関する原則:重要な情報の開示

2. 取締役会、指名委員会・報酬委員会等の活動状況

取締役会の機能発揮に向けて、指名委員会・報酬委員会(任意を含む。以下同じ)を設置する企業は22年4月時点で、プライム市場上場企業の約8割となっています。また、21年6月のコーポレートガバナンス・コード再改訂では、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会を設置し、特に重要な事項に関する検討に当たっては、これらの委員会の適切な関与・助言を得るべきとされています。このように、指名委員会・報酬委員会、さらには取締役会全体の機能発揮の状況について投資家の関心が大きく高まる中、DWG報告では、現行の有価証券報告書の開示内容(企業統治の体制の概要、監査役会等の活動状況、役員の報酬等の額の決定過程等)に加えて、次の内容について提言が行われています。

① 取締役会、委員会等の活動状況の「記載欄」を有価証券報告書に設けるべき

②「記載欄」においては、「開催頻度」「主な検討事項」「個々の構成員の出席状況」を記載項目とすべき

③ 詳細な情報は、コーポレート・ガバナンス報告書や任意開示書類を参照することも有用

3. 監査の信頼性確保に関する開示

監査の信頼性確保に関して、前回DWG報告以後、有価証券報告書における監査役等の活動状況の開示、監査上の主要な検討事項(KAM)の導入、内部監査部門が取締役会や監査役等に対して適切に直接報告を行う仕組み(デュアルレポーティングライン)の構築といった取組みが進められています。このように、監査役会等における実質的な活動状況の開示を求め、投資家と監査役等との対話を促進することが重要であるとし、現状の有価証券報告書の枠組みの中で、次の内容について提言が行われています。

① 監査役又は監査委員会・監査等委員会の委員長の視点による監査の状況の認識と監査役会等の活動状況等の説明を開示することが望ましい

② KAMについての監査役等の検討内容を開示することが望ましい

③ デュアルレポーティングラインの有無を含む内部監査の実効性の説明を開示項目とすべき

4. 政策保有株式等に関する開示

前回DWG報告を踏まえ、19年3月期から有価証券報告書の開示の拡充(開示対象銘柄数の増加、政策保有株式の保有方針等)が行われ、一部の上場企業では抜本的な保有見直しの動きがみられ始めている一方で、その開示については、なお投資家からみた好事例と実際の開示との乖(かい)離が大きいと指摘されています。また、政策保有株式については、その存在自体が、企業統治上の問題であるとの指摘があり、政策保有株式の保有の正当性について議論するための情報が提供されることが望ましいとされています。このような状況を踏まえ、次の内容について提言が行われています。

① 政策保有株式の発行会社と業務提携等を行っている場合の説明を有価証券報告書の開示項目とすべき

② 政策保有株式の議決権行使の基準について、「記述情報の開示の好事例集」等を通し、積極的な開示を促すべき

③「純投資目的」の保有株式について、政策保有との区分の考え方や両者の区分変更の動向、両区分における銘柄別の保有期間などの実態を調べ、適切な開示に向けた取組みを進めることを期待

Ⅲ 四半期開示をはじめとする情報開示の頻度・タイミング

1. 四半期開示

06年に法制化された四半期開示(08年4月から施行)は、前回DWG報告においても議論されましたが、見直し等は行わず、わが国における財務・非財務情報の開示の状況や適時な企業情報の開示の十分性、海外動向(<表3>参照)などを注視し、必要に応じてその在り方を検討するとされていました。

表3 四半期開示の海外動向

今回のDWG報告では、現在の岸田文雄政権が掲げる「新しい資本主義」をはじめとする中長期的な視点に立った企業経営と四半期開示の関係に関する議論が改めて高まっている背景を受けて、主要国の資本市場における四半期開示の状況、四半期開示と投資家に対する適時で正確な情報提供の関係などを含め、実証研究も参照しつつ議論が行われました。

その結果、金融商品取引法に基づく四半期報告書と取引所規則に基づく四半期決算短信は、両者の間の内容面での重複や開示タイミングの近接が指摘されており、虚偽記載に対するエンフォースメントなどを工夫することにより、両者の「一本化」を通じてコスト削減や開示の効率化が可能であるとされ、四半期開示の見直しについて次の方向性が示されています。

① 上場企業の法令上の四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」することが適切

② 以下をはじめとする課題についての検討が必要であり、当ワーキング・グループにおいて引き続き議論を深める

  • 四半期決算短信の義務付けの有無(上場企業の全て又は一部とするか)
  • 四半期決算短信の開示内容(速報性の観点から簡素化された内容の見直し)
  • 四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメントの手段(四半期決算短信を金融商品取引法の臨時報告書として開示すること)
  • 四半期決算短信に対する監査法人によるレビュー(現行では四半期決算短信に対する監査法人のレビューは求められていない)
  • 第1・第3四半期報告書の廃止後の「半期報告書」に対する監査法人の保証の在り方(現在、非上場の有価証券報告書提出会社の半期報告書については中間監査を義務付け)

2. 適時開示の在り方

投資判断にとって重要な情報の適時開示の枠組みは主要国の取引所共通にみられますが、日本では取引所が開示すべき事項や重要性基準を定める細則主義を取っているのに対し、欧米では原則主義により、企業がより自主的に適時開示を行う事項を判断する点で相違しています。これにより、上場企業の中には過度に間違いのない開示を指向し、開示に消極的な事例がみられるとの指摘があります。この点について、投資家の投資判断上、よりタイムリーに企業の状況変化に関する情報が企業から開示されるよう、次の提言が行われています。

なお、日本企業がより積極的な適時開示を行うことで、海外の機関投資家を含む幅広い資金を取り込むことができる環境を確立することができれば、必ずしも一律に四半期開示を求めなくとも、投資家に充実した情報が提供されることになるとの指摘もされています。

① 取引所において適時開示の促進を検討すべき

② 適時開示のエンフォースメントの在り方について整理することを期待

3. 有価証券報告書の総会前提出

わが国の上場企業における有価証券報告書を提出するタイミングについて、定時株主総会前に提出している企業は、株主や投資家からの評価が高まるなどの効果があるなど、前回DWG報告では、有価証券報告書の株主総会前提出が拡大されていくことが望ましいとされていたものの、その状況に大きな変化はみられないと指摘されています※1。また、中長期的な企業価値を判断する上で、グローバルな経営を行う上場企業において、株主総会前にサステナビリティ情報を記載した有価証券報告書が提出されることは特に重要とも指摘されています。この点については、次の提言が行われています。

それぞれ企業の置かれた状況や投資家との対話も踏まえつつ、必ずしも十分には早い時期でなくとも株主総会前に有価証券報告書を提出するといった取組みを期待

4. 重要情報の公表タイミング

前回DWG報告では、わが国の多くの上場企業による重要情報の公表タイミングは証券取引所の立会時間終了後(いわゆる「引け後」)の15時以降に集中しているとの指摘を受けて、重要な情報のより速やかな公表に向けた取組みが進められるべきとされたものの、開示タイミングを前倒しする取組みは必ずしも進んでいないと指摘されています。また、今後予定されている東京証券取引所の立会時間の30分延伸に伴い、開示タイミングが単純に30分後倒しされるリスクも指摘されています。この点について次の提言が行われています。

決算情報を含む重要情報の公表タイミングは、社内手続などを了したタイミングで速やかに開示することが基本であり、このような開示を促す取組みを進めるべき

Ⅳ その他の開示に関する個別課題

1. 重要な契約の開示

前回DWG報告において、わが国における「重要な契約」に関する開示は、同様の制度を有する諸外国と比較して不十分であるとされたものの、現時点においてもその状況は大きく変わっていないと指摘されています。このように日本と諸外国との間で、法令上の規定に大きな差がないにもかかわらず、実際の開示に差が生じている背景として、「投資判断にとって重要な契約」が開示対象であることが十分に浸透していない点や、明示的に開示が求められていなければ開示不要と、企業が開示に消極的になっている点が挙げられています。今回のDWG報告では、次の3分野における重要な契約について、開示すべき契約の類型や開示内容の検討の結果を受けて提言が行われています。

(1) 企業・株主間のガバナンスに関する合意

企業と株主間のガバナンスに関する合意は、一般に、当該企業のガバナンスや支配権への影響が大きく、投資判断に重要な影響を及ぼすことが見込まれます。しかし、企業の開示状況においては、株主側が大量保有報告書や海外の開示書類において合意内容等を開示しているにもかかわらず、企業側の開示では当該合意の存在が示されていない事例やその具体的内容が示されていない事例がみられるとされています。このような状況を踏まえ、次の提言が行われています。

① 次の3類型の合意を含む契約が企業と株主の間で締結されている場合、「重要な契約」として当該契約の内容等の開示が求められていることを明確化すべき

  • 株主が会社の役員の一定数について、候補者を指名又は推薦する権利を有する旨の合意
  • 株主による議決権行使に一定の制限や条件を付す内容の合意
  • 提出会社による一定の行為(新株の発行、組織再編行為等)につき、株主の事前の承諾や協議等を条件とする内容の合意

② 当該開示内容として、契約の概要、合意の目的、当該契約の締結に関する社内ガバナンス、企業のガバナンスに与える影響等を記載することを明確化すべき

(2) 企業・株主間の株主保有株式の処分・買増し等に関する合意

企業・株主間の株主保有株式の処分や買増し等に関する合意は、その株式保有の規模や合意内容等に応じ、市場に影響を与え、投資判断に一定の影響を及ぼすことが見込まれることから、それを踏まえた適切な開示が求められます。しかし、企業の開示状況をみると、開示していないケースがみられるなどと指摘されています。このような状況を踏まえ、次の提言が行われています。なお、具体的な開示内容については、例えば、株式保有比率が一定水準以下の場合に開示内容を簡素化するなど、段階的な措置を検討することも考えられるとされています。

① 次の4類型の合意を含む契約が企業と株主の間で締結されている場合、「重要な契約」として当該契約の内容等の開示が求められていることを明確化すべき

  • 企業側の事前の承諾なく第三者への譲渡その他の処分を行うことを禁止する内容の合意
  • 株主に対し、一定の出資割合を超えることとなる発行済株式の買増しを禁止する内容の合意
  • 株主が出資比率に応じた株式引受権を有する内容の合意
  • 契約解消時に保有株式の売渡しを請求することができる内容の合意

② 当該開示内容として、契約の概要、合意の目的、当該契約の締結に関する社内ガバナンス、企業のガバナンスに与える影響等を記載することを明確化すべき

(3) ローンと社債に付される財務上の特約

資本市場が、事業のリスク等に応じた資金配分を行い、金利等を通じた価格発見機能を発揮する上で、社債やローンの基本条件、特に財務上の特約が適切に開示されることは極めて重要と考えられます。しかし、わが国における財務上の特約の開示※2について、国際会計基準を採用している一部の企業において積極的に財務制限条項を開示している例がみられるものの、日本基準採用企業においては財務制限条項の開示は一部にとどまっていると指摘されています。この点について、将来的には財務情報における前広な開示実務の定着が期待されるものの、まずは特に重要性が高いと見込まれる財務上の特約を非財務情報の重要な契約として開示することが適切と考えられ、次の提言が行われています。なお、一定比率等については、投資家の声を反映しながら実務を踏まえた具体的な検討を行うことが求められています。

① 例えば、ローンや社債の発行額が、自社の純資産の一定比率以上である場合に臨時報告書で開示する

② 例えば、ローンや社債の残高が、自社の純資産の一定比率以上である場合に有価証券報告書で開示する

③ 有価証券報告書や臨時報告書の開示内容は次の事項とし、これらについての重要な変更・解約や基準への抵触があった場合には、その内容を臨時報告書において開示することとすべき

  • 融資借入契約又は社債等の概要
  • 財務上の特約の概要(トリガー基準、抵触時の効果、担保の内容等)

2. 英文開示

近年、わが国上場企業の英語による企業情報の開示(以下、英文開示)は着実に進展しており、全市場時価総額ベースで約9割の企業が決算短信、株主総会招集通知の英文開示を実施又は実施予定とされています。一方で、法定開示書類である有価証券報告書の英文開示については、実施企業は少数にとどまっています。このような状況から、DWG報告では次の提言が行われています。

① 東京証券取引所のプライム市場に上場する企業は、積極的に有価証券報告書の英文開示を行うことを期待

② まずは利用ニーズの高い項目(事業等のリスク、MD&A、コーポレート・ガバナンスの概要、株式の保有状況など)について、英文開示を行うことが重要

③ サステナビリティ情報についても英文開示を期待

④ ②の項目を英訳した企業を一覧として公表して海外投資家に対して情報発信すべき

⑤ EDINETにおいて外部の翻訳ツールを利用しやすいように改修を進める。中長期的には、法定開示書類の英訳に適した翻訳機能の精度向上に取り組むことも支援策として有効

3. 有価証券報告書とコーポレート・ガバナンス報告書の記載事項の関係

コーポレート・ガバナンスに関する情報について、それぞれの書類で一定の事項の開示が求められていますが、一部の項目について内容の重複が指摘されています。例えば、本稿Ⅱ 2.の取締役会、委員会等の活動状況については、有価証券報告書では「記載欄」を設けるべきとされたところ、コーポレート・ガバナンス報告書では開示推奨項目とされています。両者の関係について、例えば、有価証券報告書では提出前1年間の「基本的な活動状況」を記載した上で、コーポレート・ガバナンス報告書では、必要に応じ、時々の企業の置かれた状況を踏まえ、より具体的な活動内容や有価証券報告書提出後の活動等について記載することを推奨するなどにより、それぞれの開示書類の特徴や開示システムの利便性を踏まえて整理することが考えられるとされています。

Ⅴ おわりに

今回のDWG報告では、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示や、四半期開示制度の見直しなど、企業情報開示の特に重要なテーマについて多くの提言や今後の課題が示されました。これらの提言を受けて、今後は金融庁等において制度整備等が行われることになると考えられますが、各企業におかれては形式的な対応にとどまらず、投資家に対して真に必要な情報を適時にかつ十分に提供することで、中長期的な企業価値向上につながる資本市場が形成されることが期待されます。

※1 2022年3月期決算の会社で33社(前期27社)が定時株主総会前に有価証券報告書を提出している(EY新日本有限責任監査法人調べ)。

※2 財務制限条項の開示について、国際会計基準においては連結財務諸表の注記で開示が求められている一方、日本の開示規則等では「利害関係人が会社の財政状況、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関して適切な判断を行う上で必要と認めた場合」に開示することとされている。

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