収益認識―取引価格を算定する
情報センサー2021年5月号 企業会計ナビダイジェスト
EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 森田寛之
監査部門に所属し、主にインターネット広告、イーコマース決済、ベンチャー投資の監査を経験。現在はIFRS適用会社、上場準備会社、ファンドの監査に従事する傍ら、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)に掲載する会計情報コンテンツの企画・執筆に従事している。
当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」が発信しているナレッジのうち、アクセス数の多いトピックスを取り上げ、紹介します。今回は「解説シリーズ『収益認識』第4回:取引価格を算定する」を紹介します。
Ⅰ 概要
収益認識に関する会計基準等では、<図1>のとおり5ステップで検討を行います。今回はステップ3の「取引価格を算定する」について解説します。
収益認識に関する会計基準等において取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する金額を除く)と定めており(収益認識に関する会計基準(以下、基準)第8項)、取引価格の算定に当たっては、契約条件や取引慣行等を考慮することとされています(基準第47項)。
取引価格はステップ2で識別した各履行義務に配分され(ステップ4)、各履行義務が充足又は充足するにつれて収益として計上されます。
Ⅱ 取引価格の算定
取引価格を算定するに当たっては、(1)変動対価、契約における(2)重要な金融要素、(3)非現金対価、(4)顧客に支払われる対価に関する全ての影響を考慮するものとされています(基準第48項)。従って、これらの影響を考慮すると、取引価格は必ずしも契約書に記載された金額の総額となるとは限らない場合があります。また、取引価格は、第三者のために回収する金額を除くとされていることから、例えば消費税等は取引価格から除かなければならない点に留意が必要です。(<図2>参照)
なお、取引価格の算定をする上では、財又はサービスが契約に従って約定どおりに顧客に移転するものと仮定しています。すなわち、契約の取り消しや変更はないものと仮定しなければなりません(基準第49項)。
Ⅲ 変動対価
ここでは取引価格の算定上の主な論点である変動対価について説明します。
1. 定義
変動対価とは、顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分をいいます(基準第50項)。具体例としては、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等が挙げられます(収益認識に関する会計基準の適用指針(以下、適用指針)第23項)。
変動対価は、契約条件で定められる場合のほか、企業の取引慣行や公表した方針等に基づいて価格の引下げを顧客が期待する場合や、契約締結時に企業に価格引下げの意図がある場合にも示されることがあります(適用指針第24項)。
2. 見積方法
変動対価の見積りは、企業が権利を得ることとなる対価の額を、より適切に予測できる方法を用いて見積もります。具体的には、変動対価を見積もるに当たって、最頻値法と期待値法のいずれを適用するかを企業は決定しなければなりません(基準第51項)(<表1>参照)。これらの方法は企業が任意で選択できるものではなく、企業が権利を得ることとなる金額をより適切に見積もることができる方法を選択しなければなりません。また、契約全体を通じて単一の方法を首尾一貫して適用することになります(基準第52項)。なお、変動対価の見積りについては、決算時に見直すことが必要となります(基準第55項)。
3. 取引価格に含めるべき変動対価
変動対価の全額が常に取引価格に含められるわけではなく、収益の過大計上を防ぐ観点から、取引価格に含めることができる変動対価には一定の制限がかけられています。すなわち、変動対価に関する不確実性が解消される時点で、収益認識累計額に大幅な減額が生じない可能性が非常に高い範囲でのみ、変動対価を取引価格に含めることができます(基準第54項)。
変動対価の見積りが制限されるケースは事業を取り巻く経済環境や、財又はサービスの個別の性質、その他契約条件等、総合的な判断が必要となります。同適用指針には収益が減額される確率又は減額の程度を増出させる可能性のある要因の例示は<表2>のとおりです(適用指針第25項)。