2021年3月期 決算上の留意事項
情報センサー2021年4月号 会計情報レポート
EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部
公認会計士 松下 洋 公認会計士 宮﨑 徹 公認会計士 平川浩光 公認会計士 大竹勇輝
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
Ⅰ はじめに
2021年3月期より、原則適用となる会計基準及び早期適用可能となる会計基準(執筆時点で公開草案であるものを含む)は<表1>のとおりです。
本稿ではこれらを中心に21年3月期決算にあたっての留意事項を解説します。また、本文中で使用する会計基準の略称及び適用開示時期は<表1>のとおりです。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。
Ⅱ 会計上の見積りの開示に関する会計基準
1. 見積開示会計基準の基本的な方針と開示目的
会計上の見積りの開示について包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示した上で、具体的な開示内容は企業が当該原則(開示目的)に照らして判断することを企業に求めることとされています。当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することが求められています。
2. 開示する項目の識別
開示する項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク(有利となる場合及び不利となる場合の双方が含まれる。以下同じ。)がある項目とし、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債が識別されるとされています。ただし、次の項目については、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合には、開示を妨げないとされています。
- 当年度の財務諸表に計上した収益及び費用
- 会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債
- 注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったもの
なお、翌年度の財務諸表の影響を検討するにあたっては、影響の金額的大きさ及びその発生可能性を総合的に勘案して企業が判断することになります。
3. 注記事項
識別した項目について、会計上の見積りの内容を表す項目名として注記し、併せて次の注記が求められています。
- 当年度の財務諸表に計上した金額
- 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
上記のうち、その他の情報については、企業が開示目的に照らして判断するとされていますが、次の項目が例示されています。
- 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
- 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
- 翌年度の財務諸表に与える影響
4. 連結財務諸表を作成している個別財務諸表における取扱い
会計上の見積りの開示は、連結財務諸表と個別財務諸表で同様の取扱いとすることを原則としています。ただし、開示の重複を避けるという趣旨で、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、連結財務諸表において記載した3.のその他の情報を参照できることとされています。
また、連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって3.のその他の情報に代えることができ、この場合であっても連結財務諸表における記載を参照できることとされています。
5. 新型コロナウイルス感染症に関連する会計上の見積りの開示
21年2月10日に第451回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(21年2月10日更新)」(以下、第451回ASBJ議事概要)が公表されており、見積開示会計基準の適用後の考え方が示されています。
前期決算においては、第429回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(20年4月10日公表)(以下、第429回ASBJ議事概要)を踏まえ、追加情報に記載するケースが多くありましたが、新型コロナウイルス感染症(以下、本感染症)の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、見積開示会計基準における開示に含まれることが多く、より充実した開示になることが想定されています。この場合には、改めて追加情報として開示する必要はないものとしています。
また、本感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断の開示が財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断し、追加情報として開示していたケースでは、見積開示会計基準における開示に含まれませんが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものと考えられるとされています。
Ⅲ 会計上の見積りのポイント
1. 新型コロナウイルス感染症の影響
会計上の見積りは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」とされていますが、本感染症の感染拡大は、この会計上の見積りに影響が生じると考えられます。
第451回ASBJ議事概要においては、本感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難である状況に変化はなく、会計上の見積りを行う上で、特にキャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況であることに変わりはないとしています。このため、21年3月期決算においても、第429回ASBJ議事概要における考え方を踏まえて会計上の見積りを行うことになります。その主な内容は次のとおりです。
当期の決算においても、本感染症の感染拡大に関連する事象について会計上の見積りを行うにあたっては、上記抜粋の考え方を踏まえて、検討を行う必要があります。例えば、以下のような項目は、その影響を大きく受ける可能性があるため、慎重に検討を行う必要があると考えられます。
2. 固定資産減損会計
減損の兆候の判定においては、本感染症の感染拡大に伴い、製・商品販売量の著しい減少が続くことが見込まれる場合など、将来の企業の経営環境にどのような影響を与えるかについて、慎重に検討する必要があります。
将来キャッシュ・フローの見積りにおいては、本感染症に関連して生じている企業の経営環境の変化や、企業が実施した工場の稼働や店舗の休止などにより、将来業績にどのような影響が生じるかなど、本感染症の感染拡大が与える影響についても考慮する必要があります。
3. 繰延税金資産の回収可能性
本感染症の感染拡大の影響により、繰延税金資産の回収可能性の検討における企業の分類の変更の必要性や、翌期以降の事業計画等に基づく一時差異等加減算前課税所得の見直しの要否を検討する必要があります。
翌期以降の事業計画等に基づく一時差異等加減算前課税所得の見積りにあたっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が将来の業績にどのような影響が生じるかなど、依然として正確な収束時期等の予測に不確実性があるなか、企業自らが合理的で説明可能な仮定を置いて見積る必要があり、慎重な判断が求められると考えられます。
Ⅳ 会計方針に関する開示の拡充
1. 公表の経緯
ASBJから、関連する会計基準の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続に係る注記情報を充実させるための改正が行われ、改正遡及会計基準が20年3月31日に公表されました。具体的な内容は、以下のとおりです。
2. 適用時期及び経過措置
適用時期については、<表1>のとおりです。また、改正遡及会計基準を適用したことにより新たに注記する会計方針は、表示方法の変更には該当しないものの、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に採用した会計処理の原則及び手続を新たに開示するときには、追加情報としてその旨を注記することとされています。
3. 重要な会計方針の開示目的
重要な会計方針の開示目的は、財務諸表を作成するための基礎となる事項を財務諸表利用者が理解するために、採用した会計処理の原則及び手続の概要を示すことにあり、当該開示目的は、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合も同様であるとされています。
4. 関連する会計基準等の定めが明らかでない場合
特定の会計事象等に対して適用し得る具体的な会計基準等の定めが存在しないため、会計処理の原則及び手続を策定して適用する場合とすることとされています。
例えば、関連する会計基準等が存在しない新たな取引や経済事象が発生した場合で重要性がある場合が含まれるとされています。
また、会計基準等には、一般に公正妥当と認められる会計処理の原則及び手続を明文化して定めたもの(法令等)も含まれるとされています。このため、法令等によらず、業界の実務慣行とされている会計処理の原則及び手続のみが存在する場合で当該会計処理の原則及び手続に重要性があると考えられる場合も「関連する会計基準等の定めが明らかでない場合」に該当するものと考えられます。例えば、法令等によらず業界団体が当該団体に所属する各企業に対して通知する会計処理の原則及び手続によって会計処理している場合も、当該会計処理の原則及び手続に重要性があるのであれば、関連する会計基準等の定めが明らかでない場合に該当し、開示の対象となると考えられることには留意が必要です。
Ⅴ 20年収益認識会計基準等による注記事項
18年3月30日に18年収益認識会計基準等が公表され、20年3月31日に、主に、表示及び注記事項を改正する20年収益認識会計基準等が公表されています。これらの適用時期は、<表1>のとおりです。
本稿では、収益認識会計基準等の早期適用時の論点のうち、特に、20年会計基準を早期適用した場合に、重要な論点となる収益認識に関する注記について解説します。
1. 開示目的
20年収益認識会計基準では、開示目的を定めた上で、企業の実態に応じて、企業自身が当該開示目的に照らして注記事項の内容を決定することとされています。
20年収益認識会計基準80-4項では、開示目的を次のように定めています。
顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること
2. 収益認識に関する注記
当該開示目的を達成するため、収益認識に関する注記として、次の項目を注記するとされています。
- 収益の分解情報
- 収益を理解するための基礎となる情報
- 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
(1) 収益の分解情報
当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報を注記することとされています。
区分の方法としては、財又はサービスの種類、地理的区分又はサービスの移転時点等が例示されていますが、セグメント情報の開示を行っている企業は、報告セグメントについて開示する売上高との関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報となっているか検討する必要があります。また、決算発表資料等で提供されている、より詳細な収益の分解に関する情報を、その開示目的に照らしてどのように開示すべきかを検討する必要があります。
検討の結果、従来収集していなかった情報が必要となる場合、企業内の各部門や子会社から収集できる体制を整備する必要があることも考えられるため、早期にどのような分解情報を開示するのかについて検討しておくことが望ましいと考えられます。
(2) 収益を理解するための基礎となる情報
顧客との契約が、財務諸表に表示している項目又は収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す基礎となる情報として、以下の事項を注記するとされています(20年収益認識会計基準80-12項から80-19項、179項から191項、20年収益認識適用指針106-6項、106-7項)。
- 契約及び履行義務に関する情報(ステップ1及びステップ2)
- 取引価格の算定に関する情報(ステップ3)
- 履行義務への配分額の算定に関する情報(ステップ4)
- 履行義務の充足時点に関する情報(ステップ5)
- 会計基準の適用における重要な判断
どのような注記をするかについては、開示目的、すなわち、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報であるかに照らして判断することになりますが、いずれも会計処理の検討と併せて検討すべき事項であると考えられます。
(3) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報
当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、<表2>の内容を注記するとされています。
未履行の履行義務残高については、非財務情報で開示される受注残高の情報を利用可能な企業も多いと考えられますが、<表2>の注記事項では、未履行の履行義務残高の将来における充足時期の情報等を要求しているため、既存のシステムの改修や新たな情報の収集体制の構築を検討する必要があると考えられます。
Ⅵ 時価算定会計基準のポイント
19年7月4日に時価算定会計基準が公表されました。これは、国内外の企業間における財務諸表の比較可能性を向上させる観点から、IFRS第13号「公正価値測定」の定めを基本的にすべて取り入れることを基本的な方針として開発されたものであり、概要は以下のとおりです。
なお、原則適用は21年4月1日以降開始する事業年度からですが、早期適用している場合、21年3月期決算に影響することとなるため留意が必要です。
1. 適用範囲
時価算定会計基準は、金融商品とトレーディング目的で保有する棚卸資産が適用範囲とされています。
なお、投資信託の時価の算定については、時価算定会計基準の公表後概ね1年をかけて検討を行うこととしていましたが、ASBJは21年1月18日に改正時価算定適用指針(案)を公表しています。この改正時価算定適用指針(案)では、投資信託財産が金融商品又は不動産である投資信託、及び貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資について、時価の算定及び注記に関する取扱いが提案されています。
2. 時価の算定方法
(1) 時価の定義
「時価」とは、算定日において市場参加者で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格とされています。
(2) 時価の算定方法・レベル
時価の算定に当たっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなど)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます。算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類します。また、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、重要な影響を与えるインプットが属するレベルのうち、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類することとなります。各レベルの内容は<表3>のとおりです。
(3) 市場価格のない株式等の取扱い
時価のレベルに関する概念が取り入れられたことにより、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」は想定されなくなったことから、この定めが削除されました。これにより、従来、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」に分類されていた有価証券のうち、株式や出資金等である「市場価格のない株式等」以外の社債等の債券等について、その会計処理及び開示は<表4>のとおり、従前と異なるため留意が必要です。一方で、「市場価格のない株式等」に関しては、従来の考え方を踏襲し、取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています。
3. 注記事項
注記事項は<表5>のとおりです。
Ⅶ 改正内閣府令適用後の非財務情報の開示
19年1月31日に企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が公布・施行され、有価証券報告書等の記載内容の見直しが、20年3月期の有価証券報告書までに原則適用されています。21年3月期においても記述情報の開示充実に向けた取組みが継続しており、また、21年3月期からのKAMの導入による監査報告書の透明化や、見積開示会計基準の原則適用に伴い、その開示の充実がより一層期待されています。20年3月期までに改正された有価証券報告書の非財務情報の項目は<表6>のとおりです。
1. 財務情報との関係性
MD&Aにおいては、会計上の見積りや見積りに用いた仮定について、不確実性の内容やその変動により経営成績に生じる影響等に関する経営者の認識の記載がされていますが、見積開示会計基準の適用により財務情報においても、会計上の見積りに関する注記が記載されることになります。
将来の業績に与える金額的重要性や発生可能性を考慮する観点からは、概ね同一の項目が識別されると考えられます。また、MD&Aにおいては、記載すべき事項の全部又は一部を「経理の状況」に注記した場合には、その旨を記載し、当該注記に記載した事項を省略できるとされています。
ただし、MD&Aにおいては、財務諸表の作成に当たって用いた重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の、不確実性の内容やその変動により経営成績等に生じる影響など、経理の状況に記載した「会計方針を補足する情報」を記載する必要があるとされています。
2. 「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A」及び「記述情報の開示の好事例集2020」
新型コロナウイルス感染症の広がりから、金融庁より20年5月29日に「新型コロナウイルス感染症の影響に関する記述情報の開示Q&A」が公表されています。記述情報における新型コロナウイルス感染症の影響に関する開示の考え方について、投資家が期待する好開示のポイントを、Q&Aでまとめています。また、20年11月6日に、新型コロナウイルス感染症の開示、及びESGに関する記述情報の開示の好事例を取りまとめた「記述情報の開示の好事例集2020」が公表されており、加えて、21年2月16日にも記述情報の開示の好事例の追加がされています。
Ⅷ グループ通算制度税効果
令和2年度税制改正において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行する令和2年法律第8号「所得税法等の一部を改正する法律」(以下、令和2年度改正法人税法)が20年3月27日に成立しています。グループ通算制度の適用対象となる企業については、22年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度が適用されることとなります。
1. グループ通算制度の概要
連結納税制度では、連結納税の範囲に含まれる連結会社群を、法人税法上の一つの納税主体として、法人税の申告納税を行うこととされています。
一方、グループ通算制度では、企業グループ内の適用対象の各法人を納税主体として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、損益通算等の調整を行う制度とされています。
2. グループ通算制度への移行に係る税効果会計の取扱い
(1) 公表の経緯
企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」(以下、税効果適用指針)44項では、税効果会計の適用における税法については、決算日において国会で成立されている税法に規定されている方法に基づき、繰延税金資産及び繰延税金負債の金額を算定するとされています。
このため、税効果適用指針44項の定めに基づけば、22年4月1日以後、グループ通算制度の適用を行う企業は、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計の処理を行う必要があります。しかし、グループ通算制度を前提として繰延税金資産の回収可能性の判断を行うことについて、実務上対応が困難であるとの意見が聞かれたため、ASBJでは、必要と考えられる取扱いを検討し、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下、実務対応報告39号)を公表したとされています。
(2) 適用範囲及び適用時期
令和2年度改正法人税法の成立日の属する事業年度において、連結納税制度を適用する企業及び令和2年度改正法人税法の成立日より後に開始する事業年度から連結納税制度を適用する企業が対象とされています。
また、実務対応報告39号については、公表日(20年3月31日)以後適用することとされています。
(3) 会計処理
令和2年度改正法人税法の成立日(20年3月27日)以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計における繰延税金資産及び繰延税金負債の額については、連結納税制度を適用する場合の税効果会計の取扱いに関する必要な改廃をASBJが行うまでの間は、グループ通算制度への移行及びグループ通算制度への移行にあわせて単体納税制度の見直しが行われた項目について、税効果適用指針44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができるとされています。
なお、21年3月9日現在において、ASBJより、連結納税制度を適用する場合の税効果会計の取扱いの改廃に関する公開草案は公表されていません。今後の公開草案の公表時期を鑑みると、2021年3月期においては、引き続き、実務対応報告39号の定めを用いることができることになると考えられます。
Ⅸ 令和3年度税制改正
20年12月21日に令和3年度税制改正の大綱が閣議決定され、ポストコロナに向けた経済構造の転換・好循環の実現を図るため、企業のデジタルトランスフォーメーション及びカーボンニュートラルに向けた投資を促進する措置を創設するとともに、こうした投資を行う企業に対する繰越欠損金の控除上限の特例が設けられています。
1. 繰越欠損金の控除上限の特例
産業競争力強化法の事業適応計画の認定を受けた場合には、2年間にわたって生じた欠損金額を、翌期以降、最大で5年間、適格投資の範囲内で繰越欠損金の100%繰越控除をすることができる特例が創設されます。その概要は<表7>のとおりです。なお、対象となる投資は、「単純な維持・更新投資は対象外」とあることから、新規事業・新しい製品を開発し、市場に出していく、積極的な投資に限られます。
このため、産業競争力強化法の改正後に事業適応計画の認定を受けた企業は、繰越欠損金の解消スケジュールについて、繰越欠損金の控除上限の特例の措置の影響を受けることになります。ただし、今後予定される産業競争力強化法の改正後に事業適応計画の認定を受けるスケジュールを踏まえると、21年3月期決算への影響は限定的と考えられます。
Ⅹ 19年改正会社法のポイント
19年12月4日に「会社法の一部を改正する法律」(以下、19年改正会社法)が成立し、同月11日に公布されました。14年の会社法改正時に設けられた附則において、企業統治に係る制度の在り方について、必要に応じて所要の措置を講ずるものとされており、また、14年の改正後にも、会社法の更なる見直しについて、様々な指摘がされていました。このため、これらの指摘等を踏まえ、会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため、会社法の一部を改正したものとされています。
また、19年改正会社法の施行に伴い、20年11月27日に「会社法の改正に伴う法務省関係政令及び会社法施行規則等の改正」が公布され、会社法施行令、会社法施行規則、会社計算規則などが改正されました。
改正会社法及び関連する政令等の改正については、一部を除き、21年3月1日に施行されました。下記1.及び2.については、株主総会の決議が必要となるため、21年3月期決算に直接影響を与えることは限定的であると考えられますが、21年3月期株主総会で導入される会社もあると考えられます。このため、21年3月期決算においても、重要な後発事象の注記などで記載することも考えられ、内容を理解しておく必要があると考えられます。
1. 取締役等の報酬等として株式を無償交付する規定の新設
取締役の個人別の報酬の内容は、取締役会又は代表取締役が決定していることが多いのが現状です。報酬は、取締役に適切な職務執行のインセンティブを付与する手段となり得るものであり、これを適切に機能させ、その手続を透明化する必要があります。その一環として、改正会社法においては,取締役又は執行役(以下、取締役等)の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式を発行することができることとされました。
これを受けて、ASBJでは、21年1月28日に株式報酬等取扱いを公表しており、上記の取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合の会計処理及び開示が定められています。会計処理の詳細は、21年3月号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」の解説をご参照ください。
2. 株式交付制度に関する規定の新設
完全子会社とすることを予定していない場合であっても、株式会社が他の株式会社を子会社とするため、自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度として、株式交付制度が新設されました。
現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度がありますが、完全子会社とする場合でなければ利用することができない点、自社の新株発行等と他の会社の株式の現物出資という構成をとる場合には、手続が複雑でコストが掛かるという点が指摘されていました。当該制度はこれらの指摘に対応するために新設されたものです。当該新設を受けて、上記のとおり会社計算規則等が改正されており、株式交付制度に基づき株式交付を実施した場合の株主資本等変動額に関する規定も新設されています。具体的には、株式交付に際し、株式交付親会社において変動する株主資本等の総額は、それぞれ<表8>の方法に従い定まる額となるとされています。また、その内訳である株式交付親会社の資本金及び資本剰余金の増加額についても規定されています。
3. 事業報告に関する規定の改正
株式会社の事業報告について以下<表9>の項目などの見直しをするとともに、所要の規定の整備が行われました。
4. 改正会社法に伴う金融庁関係政府令等の改正
改正会社法の施行等に伴い、21年2月3日に金融庁関係政府令等が公布されており、一部を除き、改正会社法の施行の日(21年3月1日)から施行・適用されます。
財務諸表等規則等においては、取締役等の報酬等として株式を無償交付する規定の新設に伴い、株式引受権の表示に関する規定等の新設がされ、また、株式交付制度の新設に伴う所要の規定の整備がされています。
企業内容等の開示に関する内閣府令においては、株式交付制度に係る所要の規定の整備がされたほか、改正会社法において補償契約及び役員等賠償責任保険契約に関する規定が新設されたことを踏まえ、「コーポレート・ガバナンスの概要」の開示項目の拡充がされています。また、改正会社法において取締役の個人別の報酬等に係る決定方針の規定が新設されたことを受け、「役員の報酬等」においても、開示拡充のための改正がされています。