コロナ時代にどのようなデジタル変革(DX)及びビジネス変革(BX)が求められるのか?
情報センサー2021年3月号 EY Consulting
EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Consulting
ビジネストランスフォーメーション 岡崎 透
大手コンサルティングファーム、大手商社、事業会社役員等を経て、EYに参画。企業戦略立案から、M&A戦略、コーポレートファイナンス、財務経理マネジメント、組織・人財マネジメントまで広くコンサルティングおよび実務経験を有している。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株)では、ビジネストランスフォーメーションのアーキテクチャー分野のリーダーシップメンバーとして、企業の変革を戦略面及び戦略に適合した組織・人事体制、財務経理管理体制構築面から支援している。
Ⅰ コロナ長期化で確定的となった経営環境の急変化
デジタル社会への変化をはじめ、さまざまな経営環境の変化は何年も前から提唱され、徐々に変化していくものと考えられていました。しかし、昨年発生した新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)は、その経営環境を半強制的に急速に変化させるものとなりました。私たちは消費者として、労働者として、そして経営者として、この急速な変化に対応しなければならなくなりました。 (<図1>参照)
1. 経済活動のデジタル化
IT革命以降急速に進んだ経済活動のデジタル化は、コロナ前の2019年時点で次のように進展し、対応は避けられなくなってきています。
- スマートフォン普及率78%、ネット普及率90%(共に内閣府消費動向調査より)
- ネット広告費がテレビ広告費を逆転(電通調べ)
- 家電・書籍・エンタメ等の消費EC率は33%(経済産業省調査)
2. 新世代・ミレニアル世代の台頭
IT革命が提唱された2000年以降成人した“ミレニアル”世代がすでに40歳に差し掛かり、消費者として、そして労働者として過半数を占め始めてきます。消費に関する考え方、労働に関する考え方が根本的に違う世代が中心になり始め、企業活動も大きな変化をせざるを得なくなってきます。
3. 移動・対面活動の避止・抑制
コロナ発症を契機に、人々が移動・対面活動を控えるようになりました。しかし、実は時間を要する対面活動のための移動というものは、“無くても足りる”ものであるという事実・印象を決定的にしてしまいました。コロナが終息した場合でも、コロナ前ほどの移動や対面活動は起きないであろうといわれています。
4. “カネ”の価値の相対的下落(資本至上主義の終焉)
日本におけるアベノミクス、そして世界でも中華マネー・中東マネーのグローバル還流によるマネーサプライの増加・余剰化により、“カネ”の相対的価値が大幅に下がってきています。消費者は“安ければ買う”ではなくなり、労働者は“カネをもらえれば働く”ではなくなり、企業も“大型投資をすれば勝てる”でもなくなり、必ずしも“カネ”が経済を支配する“資本至上主義”ではなくなりつつあります。
5. “社会”概念の高位化
一時期は「会社は株主のもの」「企業活動の目的は株主価値最大化」といわれ、ひたすら利益最大化を目指しましたが、最近はSDGsが叫ばれ、社会配慮、社会的価値、社会的意義というものが重視される時代になりました。社会配慮を欠く企業は不買運動が起き、社会的意義を打ち出せない企業は退職率が増え、企業活動に大きな影響を及ぼすようになってきています。
Ⅱ 突然に必要となったビジネストランスフォーメーション
この経営環境の変化は、経営活動の想定・前提を大きく覆すものにすらなります。そのため企業はこの変化に対応するために、経営体制自体を根本から変えていく必要が生じてきました。これがデジタルトランスフォーメーションであり、その上位概念となるビジネストランスフォーメーションです。このビジネストランスフォーメーションとして考えなければならない骨子が以下の通りです(<図2>参照)。
① Mission/vision/Purpose の再定義
② ビジネスValue 、ビジネスモデルの再構築・変革
③ ビジネスプロセス、組織機能の再構築・変革
④ リソースマネジメントの再構築・変革
1. 未来に向けたミッション・ビジョン・パーパスの再定義
従来、会社のミッション・ビジョンは、創業者や経営トップが、会社をどうしたいか?という視点で作られていることが多くありました。これは従来の強力なリーダーシップを持って経営者が自分および会社の経済的成功のために邁進(まいしん)するときには明確な経済的目標として意味を持ちました。しかし、人々の価値観が変わり、人々はお金のためではなく、自分が働く事により得られる精神的満足、そして社会における意義を満たすために働きたいという欲求が生まれてきています。このような状況下、企業は有能な従業員を集め、自発的に企業価値創出のために働いてもらうために、明確な“パーパス(社会的存在意義)”というものを定義・提示する事が今まで以上に必要となってきています。
2. ビジネスValue、ビジネスモデルの再構築・変革
これまでビジネスを成功させてきた企業には、必ず何らかの競争優位性を持つ“ビジネスバリュー”というものがあります。商品力や価格競争力というのもありますが、駅前好立地による高い集客力や、テレビCMによる高い知名度、地元の営業マンによる押し売り営業力等も勝利の要因になってきていました。しかし、前述の経営環境変化、経営前提変化により、これらのビジネスバリューの一部が、競争優位性ではなくなるという事象が起きます。人々が出社や買い物に出かけなくなると、“駅前好立地”という価値は減退しますし、ネット購買が主流になると、ネット上でのエクスポージャーが集客力の源泉になります。ネット営業が主流になると、対面での営業力・営業網というものが逆に重荷になります。経営環境の変化に伴い、“何を競争優位性にするのか?”ということを再考し、それを再構築する必要性に迫られます。
3. ビジネスプロセス、組織機能の再構築・変革
これまでビジネスを成功させてきた企業は、明確な競争優位性を持つビジネスモデルに沿った、ビジネスプロセスというものが構築し維持し続けてきました。しかし、経営環境の変化によりそのビジネスモデルの変化が求められる場合、それに沿ったビジネスプロセスも大幅に変革が必要になります。例えば、駅前の好立地店舗でアパレル商品を売っていた会社は、それまでブランドの広告を打ち、各店舗の接客サービス品質を高め、適切な商品を適切品質で適時に生産・仕入れし、適切量、適切なタイミングで配送・配置するというビジネスプロセスを構築していました。しかしその会社は新時代には例えば、店舗ではなくオンライン上での宣伝と商品写真展示をし、商品は全国一括管理のもと、注文都度最速で配送するというビジネスプロセスへの変化が求められます。過去の経験・ノウハウを突然に否定し、新規プロセスを急速に創り直すという変革を従業員の理解を得ながら行わなければなりません。
4. リソースマネジメントの再構築・変革
新しいビジネスプロセスでは、人財、商品、設備、情報等必要な経営リソースはそれまでとは全く変わります。例えば駅前店舗でのアパレル企業で必要とされたリソースは、各店舗での接客人財、その場所で人気のある商品展示、店舗での展示設備、常連顧客の嗜好(しこう)等の情報でした。しかし新ビジネスプロセスでは、EC上のUX作り込み力、来客者を魅了する商品写真、コメント、見えない顧客の嗜好推定等が重要なリソースになります。ビジネスに必要なリソースを急速に定義しなおし、入れ替えを行わなければなりません。実際にはゼロから創り直した方が早いかもしれない再構築を経営制約下の最小損失で実現しなければならないという難度の高い変革が求められています。
Ⅲ 未来ビジョンに向けた変革の道のり ―新事業と旧事業の相反する事業論理の両立も必要
<図3>の通り、未来ビジョン到達の道のりは、Route(A)や(B)をたどるのが理想的ですが、実際にはRoute(C)又はRoute(D)をたどらざるを得ないことが大半です。
そしてまず、Turning Point(変革地点)、すなわち未来ビジョンに向けて一直線に進むべき道が定義され、その準備ができた地点(未来からさかのぼると理論的に現在あらなければならない状態)までにいかに早く到達するかが最初のゴールです。
この最初のゴールに組織をどう向かわせるかが一番の難題です。なぜなら、この最初のゴールへ向かうプロセスは、これまでの成長・安定・維持を続けるプロセスではなく、ビジネスおよび組織の‶変革”を実現するプロセスであるためです。すなわち、この“変革”のプロセスというのは、これまでの組織管理・経営管理の常識があてはまらず、むしろ<図3>にあるような、真逆のマネジメントを行う必要があるプロセスになります。これらの真逆のマネジメントは、経営者自身は理解・認識ができますが、実際には組織の中間管理職をも発想の転換をさせることが必要になります。これまで毎月口を酸っぱくして指示・教育してきたことと真逆のことをいわなければならなくなり、それを適切に伝えられなければ逆に大きな組織マネジメントの混乱をまねきます。最も難しいのは、新規事業のように全くゼロから新しいものだけを作るのではなく、既存の組織・既存の事業というのをある程度維持しながら変革をする必要があるため(Route(C)、(D)の場合)、この相反するマネジメントを両立しなければならないことにあります。
Ⅳ トランスフォーメーション期の経営管理
伝統的大企業における安定成長期、安定成長事業は、過去の傾向に基づいた目標を立て、何をすればそれを達成できるかという方策がある程度明確です。その場合は、やるべきことをどれだけ早く・高度に、大量に、確実に行うかというKPIを持って、人財管理、事業管理、経営管理を設計することができます。
一方で、企業自体の変革、事業自体の変革、組織・人財自体の変革が求められる期においては、どれだけ過去を眺めても未来は見えてきません。前提条件が違うので過去の施策の反省が未来につながるとは限りません。何をすれば目標を達成できるかも分からない、また目標の進捗を測る指標(KPI)は変わり得ますし、そもそも個別目標が組織の未来ビジョンに完全に適合しているかすら仮説でしかありません。
大切なのは、見えない未来へのゴールの方策を仮説でいったん設定し、その施策実行を仮説検証と同時に行い、施策を修正しながら推進するということです。
そして、経営管理の方法自体も、決めたことがその通りに行われているかの管理からゴールに向けた施策自体が正しいかの検証を行い、不適合を瞬時にかつ柔軟に変えていくための経営管理体制の変更が必要になります。これらは成功するベンチャー企業や、欧米のデジタル系急成長企業が行っている経営管理手法に近いものになります。 (<図4>参照)
Ⅴ トランスフォーメーション期に必要な管理数値・金額収集体制・在り方
経営管理の在り方が変革されると、当然その経営管理に必要な情報・係数・金額の収集プロセス・体制も変革が必要になります。
変革時代における経営管理は、以下を持ち合わせる必要があります。 (<図5>参照)
① 未来数値に向けた、未来に影響を及ぼす指標の網羅的収集
② 管理対象指標を施策の変化、仮説の変化に応じて即座に変えられるリアルタイム性
③ 管理対象指標の変更を許容する柔軟性と、それを担保するデジタル化・自動処理化
従来型の、紙による業務プロセスでは、業務工数がかかるために入力項目を絞り、限定的になってしまいますし、月末締めで翌月の業務完了等リアルタイム性を持てません。また入力方法やチェック方法が変わる度に全従業員に入力業務変更の通知とマニュアル変更が必要となり、とても柔軟性は持てません。
Ⅵ おわりに
ビジネストランスフォーメーションは、大上段からのビジネスのあるべき姿を定義し、組織・機能を変革するというイニシアティブとともに、そのトランスフォーメーション期を見据えた、現場レベル、ボトムアップからの、業務プロセスの見直し、自動化も、“業務効率化”“コスト削減”という目的だけではなく、“経理管理の高度化”という側面からも、早期に行う必要があります。
これらは、必ずしも単にERPを導入して自動化が図れればよいというものではなく、未来に向けた事業設計と合わせながらやらなければ、システム投資が無駄になる恐れもあります。
私どもEYでは、従来の会計監査、税務アドバイザリー、システム導入の支援等に加え、デジタルトランスフォーメーション/ビジネストランスフォーメーションを支援するコンサルティングチームも組成しています。財務管理の在り方、業務効率化にとどまらず、事業・組織・管理プロセスの設計をした上での未来を見据えた在るべき姿、それに基づいた財務の在り方、業務プロセスの在り方、システムの在り方の提言までご支援させていただいています。ぜひ、お気軽に幅広い範囲でご相談ください。