グループ通算制度の概要 前編
情報センサー2020年11月号 Tax update
EY税理士法人 税理士 矢野 瞳
2014年よりEY税理士法人 ビジネスタックスサービス部にて連結納税導入支援業務、連結納税開始・加入時における時価評価業務、連結納税グループを含む日系企業の組織再編に関するアドバイザリー業務および連結納税グループを含む申告業務等に従事している。
Ⅰ はじめに
連結納税制度の導入から15年余りが経過しましたが、グループ内の損失を共同利用する損益通算等のメリットがある一方で、税額計算の煩雑さや税務調査後の修更正に期間を要すること等を理由に制度を選択しない法人も多く存在しています。
令和2年度税制改正では、損益通算等のメリットを残しつつ、制度の簡素化等の抜本的な見直しが行われ、令和4年4月1日以後開始事業年度から連結納税制度は「グループ通算制度」へ移行します(<表1>参照)。
Ⅱ 連結納税制度(現行制度)の概要
連結納税制度(以下、連納制度)は、国内100%企業グループ全体を一つの法人として法人税の申告納税を行う制度です(選択制)。親法人が納税義務者となってグループ全体の法人税の申告納付を行い、子法人は連帯納付責任を負います。
各法人の所得金額と欠損金額を合算(損益通算)して計算した連結所得金額に、親法人の適用税率を乗じ、各種税額控除等を行って連結法人税が計算されます。損益通算のほか研究開発税制や外国税額控除等をグループ全体で行うことで、単体納税に比べてグループ全体の法人税額が減少する効果が期待されます。
制度の選択によりこれらのメリットが期待される一方で、グループ全体計算による事務負担の増加や、制度開始又はグループへの加入時に、開始時の子法人及び加入法人の資産を時価評価するとともに開始・加入前に生じた子法人の欠損金を切捨てとする措置があること、一度制度を選択すると原則として継続適用が必要となる点に留意が必要です。
Ⅲ グループ通算制度の特徴
1. 個別申告方式
グループ通算制度(以下、通算制度)の適用対象は連納制度と同様ですが、親法人及び各子法人が個別に法人税の申告納付を行う個別申告方式となります。修更正が生じた場合は誤りが生じた法人だけが修更正を行い、グループ全体での再計算を不要とする仕組み(他の通算法人への影響を遮断する仕組み)が設けられます。
2. 損益通算・税額調整等
グループ内の欠損法人の欠損金額を所得法人の所得金額と損益通算します。連納制度ではグループ内の所得金額と欠損金額を合算することで損益通算を行いましたが、通算制度では欠損法人の欠損金額を所得法人に所得金額の比で配分する、いわゆるプロラタ方式となります。また、研究開発税制及び外国税額控除は連納制度と同様にグループ全体で控除限度額を計算しますが、研究開発税制の控除額は試験研究費の支出額の比ではなく納税額のある法人に配分されるなど、控除が行われる法人が連納制度と異なります。
なお、連納制度では各法人の法人税の負担額又は減少額について親子間で任意に金銭等の授受を行う場合の受取額・支払額は益金不算入・損金不算入とされています。通算制度でも損益通算等により生じた税効果相当額に係るグループ法人間での金銭等の授受は任意とされ、授受を行う場合の取扱いは同様とされます。
3. 開始・加入時の時価評価課税及び欠損金の制限
制度開始又はグループ加入時の時価評価の対象となる法人の範囲が連納制度に比べて大幅に縮小されます。一方で、グループ内の損益通算は合併と同様の効果があることから組織再編税制との整合性が図られ、時価評価の対象外となる法人であっても開始・加入前の支配関係5年超の継続や共同事業性がない場合は、開始・加入前に有する欠損金の使用及び含み損について開始・加入後の損金算入を制限する措置が設けられます。
4. 親法人の適用開始前の欠損金の取扱い
連納制度では親法人の適用開始前の欠損金は「非特定欠損金」として連結納税グループ内の子法人の所得金額から控除可能とされていますが、通算制度では親法人も子法人と同様に、適用開始前の欠損金は自己の所得の範囲内でのみ控除する「特定欠損金」とされます。ただし、経過措置により、連納制度を適用している親法人の非特定欠損金は通算制度へ移行後も非特定欠損金とされますので、親法人が欠損金を有している企業グループが通算制度を選択する場合には、連納制度を先行適用する方が有利となるケースが考えられます。3月決算法人は令和2年12月末、12月決算法人は令和3年9月末が連納制度を先行適用する場合の最後の申請期限となります。
5. 欠損金の通算
通算制度では、グループ全体の欠損金の控除限度額は各法人の損益通算後の所得金額の50%相当額(全法人が中小法人等の場合は100%)の合計額とされます。連納制度とグループ全体の控除限度額及び控除方法(発生年度が古い順に控除し、同一事業年度に発生した特定欠損金と非特定欠損金がある場合は特定欠損金を優先して控除)は変わりませんが、欠損金を有する法人ではなく所得法人において欠損金の控除が行われることとされます。
6. 地方税
法人住民税及び法人事業税は通算制度の適用はなく、損益通算等がないものとして課税標準額及び税額の計算が行われます。
7. 適用時期
通算制度は令和4年4月1日以後開始事業年度から適用されます。連納制度の承認を受けているグループは承認申請等の手続きなしに自動的に通算制度へ移行されます。なお、今回の移行のタイミングに限り、令和4年4月1日以後開始事業年度の前日までに届出書を提出することで通算制度に移行せずに単体納税へ戻ることができる措置が設けられています。