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新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響 第13回 建設業

2020年10月1日 PDF
カテゴリー 業種別シリーズ

情報センサー2020年10月号 業種別シリーズ

建設業セクター 公認会計士 中條真宏

建設、不動産・ホテル、鉄道業界等の上場、非上場、IPO(株式上場)準備会社の会計監査に従事する他、執筆や当法人の建設業セクターナレッジメンバーとして各種ワーキンググループでの活動を行っている。

Ⅰ  はじめに

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)および企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下、収益認識適用指針)の原則適用まで残り半年余りとなりました。現在使用されている企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、工事契約会計基準)が廃止されるため、建設業での影響について現行の実務との相違点を中心に解説します。
なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 建設業における主な論点

工事契約会計基準に基づいて会計処理を行っている建設業においては、収益認識会計基準適用による影響が注目されてきましたが、収益認識会計基準では現行実務への配慮として代替的な取扱いも設けられるなど、影響は限定的であると一般的に考えられています。ただし、各企業において論点の検討を行った結果として現行実務との相違を判断する必要がある点はご留意ください。以下では、検討が必要と考えられる論点三つについて解説します。

1. 収益計上の方法とタイミング

収益認識会計基準では、<表1>の要件いずれかを満たす場合には一定期間にわたって、いずれの要件も満たさない場合には完全に履行義務が充足された一時点で、収益を認識します(収益認識会計基準38項、39項)。

表1 一定期間にわたり充足される履行義務の要件

工事契約は<表1>の要件(2)又は(3)に該当することが多いと考えられ、その場合には一定期間にわたって収益を認識し、工事契約会計基準における工事進行基準とほぼ同様の結果になります。
ただし、現行の工事契約会計基準では決算日における工事進捗(しんちょく)度が信頼性をもって見積もれない場合に工事完成基準を適用しますが、収益認識会計基準では進捗度を合理的に見積もることができないものの発生する費用を回収することが見込まれる場合には、原価回収基準で収益を認識することになります(収益認識会計基準45項)。なお、契約の初期段階で進捗度を合理的に見積もることができない場合には、発生費用に重要性が乏しいと考えられることから、原価回収基準を用いないことも代替的な取扱いとして認められています(収益認識適用指針99項)。
さらに、<表1>の要件を満たす契約の場合には、現行の工事完成基準に類似した一時点で収益を認識することは原則として認められませんが、期間がごく短い工事契約については完全に履行義務を充足した時点で収益を認識することが代替的な取扱いとして認められています(収益認識適用指針95項)。

2. 契約における重要な金融要素

信用供与についての重要な便益が顧客に提供される契約の場合、信用供与の約束が契約に明記されているか、あるいは支払条件に含意されているかにかかわらず重要な金融要素を含むとされています。契約に重要な金融要素が含まれる場合には、顧客との契約から生じる収益部分と金融要素の影響(金利相当)部分を区分して損益計算書で表示します。
なお、契約における取引開始日において、収益を認識する時点と顧客が支払を行う時点が1年以内であると見込まれる場合には、重要な金融要素の調整は不要です(収益認識会計基準58項)。
工事契約では、契約ごとに支払条件が異なり収益認識と顧客からの入金のタイミングが乖離することも多いことから、契約内容によっては重要な金融要素が含まれる可能性が高まります。また、わが国の現在の低金利情勢下では重要性がないと判断できる局面が多いと考えられるものの、金利水準が高い通貨による外貨建て契約の場合や将来金利上昇局面になった場合など、重要な金融要素の有無を契約ごとに検討する社内体制の整備は求められます。

3. 契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権

<図1>の通り、企業が履行している場合や企業が履行する前に顧客から対価を受け取る場合等、契約のいずれかの当事者が履行している場合には、企業は企業の履行と顧客の支払との関係に基づき、契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を計上します(収益認識会計基準79項)。

図1 契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権の概念

貸借対照表上は、契約資産と顧客との契約から生じた債権それぞれについて区分表示する方法と区分表示せずそれぞれの残高を注記する方法が認められています。また、契約負債について他の負債と区分表示していない場合には残高を注記します。
現行の完成工事未収入金や未成工事受入金とは概念を異にすることから、どのように区分して金額を集計するのかについて社内体制の整備が必要です。なお、貸借対照表での表示科目について、収益認識適用指針104-3項で「契約資産については、例えば、契約資産、工事未収入金等として表示する。」と例示されていますが、工事未収入金が必ず契約資産になると限定されているものではない点はご留意ください。

Ⅲ おわりに

本稿で触れた以外にも、契約変更および変動対価、割賦基準の廃止、本人と代理人の区分など企業によって論点はさまざまと考えられます。現行実務から変更となる点について検討の必要があることに加えて、社内マニュアルや経理規程の見直し、場合によってはシステム改修が必要になる場合も想定されます。
また、売上は企業の事業目的に大きく関わる勘定科目として、通常、財務報告に係る内部統制の評価範囲に含まれることから、内部統制の見直し作業も同時に進めていく必要があると考えます。

※ 履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法(収益認識会計基準15項)

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