会社補償契約と役員等賠償責任保険 ~役員の法的責任の整理も含めて~
情報センサー2020年10月号 特別寄稿
獨協大学 法学部教授 高橋 均
一橋大学博士(経営法)。新日本製鐵(株)(現、日本製鉄(株))監査役事務局部長、(社)日本監査役協会常務理事、獨協大学法科大学院教授を経て、現職。専門は、商法・会社法、金商法、企業法務。会社法等の専門家として法理論と企業勤務経験に基づく実務面からのアプローチを実践している。近著として『グループ会社リスク管理の法務(第3版)』中央経済社(2018年)、『監査役監査の実務と対応(第6版)』同文舘出版(2018年)、『実務の視点から考える会社法(第2版)』中央経済社(2020年)。
Ⅰ はじめに
令和元年会社法改正により、新たに会社補償契約制度と役員等賠償責任保険(Directors and Officers Liability Insurance、以下、D&O保険)制度が創設されました。会社補償契約制度は、概念としては存在していましたが、法制度としては新しい制度です。一方、D&O保険制度は、従前から上場会社を中心に広く普及していましたが、その法的位置付けや手続きなどを今回の会社法改正で明確化しました。
会社補償契約は、会社と役員等(取締役・監査役・執行役・会計参与・会計監査人。以下、役員)との間の契約、D&O保険は、保険会社と役員との保険契約ですので、両制度とも、片方の当事者は役員となります。監査役・監査(等)委員(以下、監査役)は、役員の一員ですから、自らが契約の当事者の立場から制度趣旨や内容を理解する必要があります。また、両制度とも、役員の損害賠償責任との関連で、損害額や関連費用を会社が支払うものであることから、会社と役員との間において、利益相反的な一面を持っています。監査役は、取締役の職務執行を監査する(会社法381条1項)ことから、取締役の損害賠償の支払義務との関係で、両制度の手続きや具体的な事案で、その適用の是非を判断する局面があります。
そこで、本稿では、役員の損害賠償責任との関連で、両制度の趣旨と制度の内容、具体的な手続きの解説と合わせて、監査役の視点から留意すべき実務について解説します。
Ⅱ 役員の損害賠償責任と支払いの負担軽減
1. 役員の損害賠償責任
(1) 役員が負う責任の種類
会社役員の責任として大きく分類すると、民事責任・刑事責任・行政罰があります。民事責任は、債務不履行の一般原則にのっとった損害賠償の支払いが典型的な責任です。刑事責任は、役員がその任務につき会社に財産上の損害を加える特別背任罪をはじめ、贈収賄罪等があり、罪状により懲役や罰金に処せられます。また、株主総会での説明義務違反や株主総会等の法定議事録に法令違反となる記載があれば、過料という金銭罰としての行政罰に科せられます。この中で、会社補償とD&O保険に関係するのは、民事の損害賠償責任ですので、役員における損害賠償責任について、確認してみたいと思います。
(2) 役員の損害賠償責任
役員は、一定の要件に該当すると、会社または第三者(取引先・株主等)に対して、おのおのが被った損害に対して、賠償の支払義務が発生します。
会社に対しては、会社が被った損害に対して、役員が職務につき任務懈怠(けたい)があり、かつ会社の損害と任務懈怠に相当の因果関係があれば、支払義務が発生します(会社法423条1項)。会社と役員とは委任関係にありますので(会社法330条)、役員は会社に対して善管注意義務を果たさなければなりません(民法644条)。従って、「任務懈怠」とは、役員が会社に対して、役員としてしかるべき注意義務を果たさなかった場合、および個別の法令・定款違反を犯した場合が該当します。善管注意義務を果たさなかったために法令違反を犯したとも言えるかもしれませんが、プロジェクトの失敗等、法令違反でなくても経営判断原則※1に該当しなければ、責任を問われる可能性があることから、両者を分けて考えるのが一般的です。任務懈怠責任は、過失責任ですので、役員が自らに過失はないとの主張・立証が認められれば、損害賠償責任を負うことはありません。
第三者に対する責任とは、役員がその職務を行うにつき、悪意または重過失によって第三者に損害を及ぼしたときに、損害賠償の支払義務が生じる責任のことです(会社法429条1項)。この場合、悪意とは違法行為であることを認知した上で行った行為、重過失は、文字通り過失の程度が重いことです。取締役が第三者に対し法令違反によって損害を及ぼした際に、その取締役が法令違反を知らなかったと主張したとしても、役員たる取締役として、重要な法令を知らなかったこと自体が重過失であるということになります(<表1>参照)。
(3) 役員の会社に対する任務懈怠責任の軽減措置
役員の損害賠償責任のうち、任務懈怠責任については、議決権を持たない株主も含めて総株主の同意がなければ、その全部を免除することができません(会社法424条)。総株主の同意要件ですので、一人の株主でも反対があれば、役員の責任免除ができないことを意味します。従って、大規模公開会社等では実質的には責任免除の実現は不可能ということになります。
他方で、役員が訴訟戦略の失敗等の理由により、事後的に多大な損害賠償が肯定されると、経営の萎縮にもつながり、経営全体にとってマイナス影響ともなり得ます。そこで、議員立法によって成立した平成13年改正商法において、役員の責任一部免除規定が導入されました。責任一部免除とは、役員の任務懈怠責任を原因としてその役員が支払わなければならないとされた金額に対して、一定金額を上限とした最低限度額を支払えば良いとする制度です※2。すなわち、当初の金額から実際に支払う金額の差が一部免除されたことになり、任務懈怠責任が軽減されたことになります。
具体的な手続きは、①株主総会決議(会社法425条1項)②定款で定めていることを前提とした取締役会決議(同426条1項)※3③監査役、非業務執行取締役、会計監査人、会計参与に限った責任限定契約の締結(同427条1項)の三通りの手続きがあります。監査役以外の責任一部免除の方法を採用する際は、いずれの場合もあらかじめ各監査役の同意が必要です(会社法425条3項・426条2項・427条3項)。①と②は、役員の任務懈怠責任が認容された後の事後的な対応であるのに対して、③はあらかじめの備えとして会社と非業務執行取締役らとの間で締結します。責任限定契約の締結は、責任軽減に該当すると思われる事象であっても、会社が責任軽減の議案を株主総会や取締役に提案しなければそもそも適用はされません。従って、会社が議案を提案しないとの社外役員候補者の懸念をあらかじめ払拭(ふっしょく)し、人材を確保するための意味もあります。また、①~③を適用する際の要件としては、役員がその職務を遂行するに当たり、善意かつ無重過失である場合です。「善意かつ無重過失」とは、例えば、法令違反を知らないで職務を行ったこと、かつ知らなかったこと自体の過失性が重大ではないことです。
もっとも、責任軽減制度が実務的に活用される例は極めて限られているのが実情です。裁判所の判決によって確定した損害賠償額に対して、株主総会等により軽減することは、司法の判断を覆すことを意味しますので、それ相当の理由付けが必要だからです。実際に、責任軽減制度が法定化されて20年弱の間で、少なくとも上場会社では株主総会や取締役会の決議が行われた事例はないようです※4。
以上のように、役員の全部責任の免除はおろか、一部免除も実務的には活用されていない現状において、役員が予期しない事件に巻き込まれて、経済的な負担を被ることもあり得ます。そこで、訴訟が提起されたときの経済的負担を少しでも軽減し、制度的にも利用しやすいようにとの趣旨から法定化されたのが、会社補償契約制度とD&O保険制度となります。
2. 補償契約とD&O保険の規定
(1) 補償契約
補償契約とは、役員がその職務の執行に関して発生した費用や第三者に生じた損害を賠償することにより生じる損失の全部または一部を会社が負担することを役員と約する契約です。従前は、補償契約制度が存在しなかったために、役員が法令違反を疑われて訴訟提起を受けた際に、会社が負担することができる費用や損害の範囲・手続きについては解釈に委ねられていました。そこで、実務的には都度、過失の有無等を判断した上で、その適用について検討する実態がありました。このために、補償契約の手続きや範囲を明確にし、会社補償が適切に運用されるための規定を定めることによって、役員の人材確保や役員が萎縮することなく職務の執行を行うことができるインセンティブの側面が認められるとの趣旨で立法化されました。
補償契約の範囲は、①役員が、その職務の執行に関し、法令の規定に違反したことが疑われ、または責任の追及に係る請求を受けたことに対処するために支出する費用②役員がその職務の執行に関し、第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合における損失です(改正会社法430条の2第1項)。
①は、いわゆる防御費用のことで、会社や第三者に対する責任追及を受けたときの弁護士費用や調査費用等が相当します。防御費用については、補償の要件はなく、結果的に取締役が敗訴した場合にも支払いが行われますが、通常要する費用の額を超える部分については、補償契約にかかわらず、補償はされません(改正会社法430条の2第2項1号)。過大な費用支出は、会社ひいては株主にとって不利益となるからです。
②の損失は、第三者から役員に対する損害賠償請求が行われた場合の損害賠償金や和解金が相当します。損失には、罰金や課徴金、及び役員が会社に対して支払う損害賠償金は含まれません。なぜならば、会社に対する損害を対象とすると、責任一部免除規定と同様の法的効果を生ずることとなり、ハードルが高い責任一部免除の手続規定が意味をなさなくなるからです。また、防御費用の補償の場合と異なり、役員が職務を行うにつき、善意かつ無重過失の場合のみ補償の対象となります(改正会社法430条の2第2項3号)。この要件は、前述した責任一部免除規定と同様です。会社が第三者に損害を賠償した場合において、その役員に対して求償できる部分についても補償はされません(改正会社法430条の2第2項2号)。
なお、補償を受けた取締役が自己もしくは第三者の不正な利益を図る目的でその職務を執行したことを認識していたとき、①の防御費用の場合は、会社は補償した金額の相当額の返還請求が可能です(改正会社法430条の2第3項)。
補償契約内容につき、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)での決議とともに、取締役会設置会社の取締役は実施後の報告も必要となります(改正会社法430条の2第1項・4項)。これらの手続きは、取締役の利益相反取引(会社法356条1項)を行う際の手続きと同様です。補償契約(次に解説するD&O保険も同様)は、会社が金銭を支出し、一方で役員が経済的利益を得るという利益相反取引の性格を持ち合わせているからです。もっとも、補償契約内容について株主総会または取締役会の決議を必要とすることから、利益相反取引規制そのもの(会社法356条1項・423条3項・428条1項)は適用されません(改正会社法430条の2第6項)。利益相反行為の手続きとは別の規定として整理されています。
新たに創設された補償契約は、会社と役員との契約であり、補償契約の具体的な内容は各社により異なります。その際、補償契約の範囲を制限的とするのか否かも含めて、各社が検討することになります。
なお、公開会社の場合は、当該役員の氏名、補償契約の内容の概要、補償を実行したときなどの一定事項について事業報告の開示項目となります(<表2>参照)。
(2) D&O保険
D&O保険とは、会社が役員を被保険者として保険者と締結する保険のことです。従前より、D&O保険は上場会社を中心に広く普及していたものの、その適用範囲や手続き、保険料について会社が負担することの可否等についての会社法の規定は存在していませんでした。特に、会社が保険料を負担することについては、会社と役員との間で利益相反の側面があることから、その是非については解釈が分かれていました。その後、保険料について、会社が支払うことができるとの一つの解釈が示されたこと※5もあり、令和元年改正会社法においては、D&O保険の定義を定めた上で、その範囲や手続きを明確にしました※6。
D&O保険について、「株式会社が保険者との間で締結する保険契約のうち役員等がその職務の執行に関し責任を負うこと、または当該責任の追及に係る請求を受けることによって生ずることのある損害を保険者が填補(てんぽ)することを約するものであって、役員等を被保険者とするもの」と定義されました(改正会社法430条の3第1項)。D&O保険の対象となるものは、法律上の損害賠償責任を追及され、賠償請求されたときに支払う賠償金や和解等法律上支払うべき賠償金、弁護士への着手金・報奨金・裁判所への手数料・調査費等の争訟費用となります。他方、罰金や過料、生産物賠償責任保険(PL保険)、企業総合賠償責任保険(CGL保険)、自動車賠償責任保険、海外旅行保険等は除外されます※7。
D&O保険の内容を決定する際には、株主総会(取締役会設置会社は取締役会)での決議が必要です(改正会社法430条の3第1項)。会社補償契約と同様に、利益相反の側面があることから、あらかじめ会社機関の決議を行うものです。従って、補償契約内容との関係等も踏まえてD&O保険契約内容を見直す場合には、株主総会または取締役会での決議を行った上で、施行日以降にその契約は有効となります。もっとも、すでにD&O保険を保険会社と締結していて、結果的に、今回の改正内容から見てその内容を変更する必要がない場合には、経過措置により、あらためて株主総会等の決議を行う必要はありません(改正会社法附則7条)。
なお、取締役と執行役を被保険者とする保険契約については、会社補償契約と同様、利益相反取引規制(会社法356条1項等)は適用されません(改正会社法430条の3第2項)。さらに、公開会社の場合は、D&O保険契約の内容の概要や被保険者等の一定事項について事業報告の開示項目となります。
3. 監査役としての実務対応
(1) 契約当事者としての留意点
監査役は役員であることから、補償契約もD&O保険も直接の当事者となりますので、会社が考えている制度設計に関心を持って、事前に関連部署から説明を受けたり、議論に加わることを推奨します。D&O保険は、取締役と監査役との間で保険契約が異なることはないでしょうが、補償契約では、第三者に対する損害賠償の支払補償については、執行部門から、第三者に対する責任の事例が少ない監査役と取締役との間で補償契約の内容を変える提案があるかもしれません。しかし、あえて、監査役と取締役との間で契約内容を分けて締結する必要はないと考えます。監査役として大切なことは、会社法で認められることになった防御費用や第三者への損害賠償の支払いによる損失関連の補償の対象となる具体的項目を検討して、漏れのないようにしておくことです。
補償契約はD&O保険と異なり、保険料として会社の外部への支出がある訳ではないので、職務を遂行する上で防御費用や損失への塡補として支出し得る項目を洗い出すことが大切です。その際、D&O保険内容でカバーできる項目は補償の範囲から除外して構いません。なお、補償契約の防御費用については、会社から支払いを受けるタイミングも契約内容に織り込んでおくべきです。防御費用の中には、弁護士費用のように、それ相当の額の着手金を必要とする場合、自らが立て替えなくても、合理的な費用であれば会社が前払いできるようにしておくと利便性は高まることになります。
D&O保険の場合は、会社法での規定を踏まえて保険が支払われる対象や要件、保険金が支払われる上限額、保険料等の詳細が会社と保険会社との間の交渉で決められます。D&O保険内容も取締役会の決議事項ですので、監査役としても、保険内容についてあらかじめ内容を理解した上で、何らかの意見があれば事前説明の段階で意見表明をしておき、取締役会で再確認する段取りとなります。
なお、補償契約制度もD&O保険契約制度も、令和元年改正会社法の施行日以降の契約締結でなければ有効ではありません。従って、できれば社内で制度設計を事前に検討し取締役会での決議を終え、実際の契約締結は改正の施行日以降とすることに注意が必要です。
(2) 業務監査の視点からの監査役実務
監査役としては、補償契約とD&O保険が、株主総会または取締役会でその内容が承認・決議される段取りとなっていることを確認します。その上で、取締役会設置会社の場合は、補償契約については、補償を受けた取締役は、補償についての重要な事実を取締役会に遅滞なく報告する必要があります。この事後報告は、補償契約にのみ適用があり、D&O保険の場合には報告義務はありません。従って、補償契約に基づき具体的に適用があった場合には、事後報告という手続上の瑕疵(かし)がないか監査役として監視し、取締役が失念している場合はその旨を指摘しなければなりません。
次に、内容面での確認です。D&O保険の場合は、保険金による塡補の範囲や金額は、あらかじめ締結された契約に基づいて支払われることになりますので、塡補される金額の多寡が恣意(しい)的に決定されることは基本的には考えられません。加えて、利益相反の観点からも、会社が支払う保険料と保険金の支払いとの点において、保険料の金額の方が実際に支払われる保険金の額に比べて、圧倒的に低額であるため、利益相反の程度は大きくないといえます。他方、補償契約の場合は、会社が取締役に補償として支出する金額は、そのまま取締役の経済的利益となりますので、利益相反の程度が強いといえます。従って、会社補償契約に基づき、具体的な事案で支払うことになったときには、防御費用であれば世間の常識から見て、過剰な支払いとなっていないか、第三者への支払いであれば、善意かつ無重過失の要件に合致しているか、十分に監視・検証する必要があります。例えば、会社が最終的に支払いを行ってくれるとの認識から、取締役が世間の常識から乖離(かいり)した防御費用の支出をすることは、利益相反の観点のみならずモラルハザードの点からも厳に慎まなければならないことになります。
監査役としては、補償契約を実際に適用する際の補償金額が大きい場合には、重要な業務執行の決定(会社法362条2項1号)に該当するとして、取締役会付議事項に付け加えることを執行部門に提案することが考えられます。仮に、法定通りの取締役会での報告事項とするのならば、監査役は取締役に実際に適用される前に、適切な支払予定か事務局部門に確認することが大切です。
なお、公開会社の場合、補償契約とD&O保険はともに一定事項が事業報告の記載となりますので、監査役は事業報告の期末監査の観点から適正な記載となっているか監査することになります。
Ⅲ おわりに
会社補償契約とD&O保険は、役員の経済的負担を軽減したり塡補する点で、役員の職務遂行に当たってインセンティブになり得る制度です。他方、役員の損害賠償責任という枠の中で理解すること、及び利益相反の側面があることを意識して、監査役としてはその制度設計が適切に運用されているか監査の視点から注視することが重要です。
両制度が適切に運用されることにより、役員が萎縮することなく職務の執行ができることになれば、令和元年会社法改正の立法趣旨にかなうことになります。
※1経営判断には、取締役に一定の裁量が認められることから、判断の前提に不注意な誤りがなく、判断に至る過程や内容に著しく不合理な点がなければ、個別の法令・定款違反でない限り善管注意義務違反とはならないという考え方であり、判例(「アパマンショップホールディングス株主代表訴訟事件」最判平成22年7月15日判時2091号90ページ)および学説で確立していている。
※2具体的には、報酬等(退職慰労金も含む)の6年分(代表取締役・代表執行役)・4年分(取締役・執行役)・2年分(社外取締役、監査役、会計監査人、会計参与)に新株予約権の行使によって得た利益を加えた額である。
※3ただし、総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主が反対したときは、責任免除はできない(会社法426条7項)。
※4監査役が責任を問われた事案で、任務懈怠は認められるものの、重過失にはあたらないとして、報酬に2年分の責任限定が適用になった裁判例がある(「セイクレスト事件」大阪高判平成27年5月21日判時2279号96ページ)。この事案も裁判所が結果的に責任軽減の適用を行ったのであって、会社の意思決定ではない。
※5経済産業省「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革」2016年3月18日 別紙3「法的論点に関する解釈指針」
※6国税庁も、取締役会の承認等一定の手続きを行った場合には、株主代表訴訟担保特約部分の保険料についても、役員個人に対する給与課税は発生しないとの見解を示した。国税庁「新たな会社役員賠償責任保険の保険料の税務上の取り扱いについて(情報)」(2016年2月24日)法人課税課情報第1号・個人課税課情報第2号。
※7立案担当者の解説では、利益相反性が低かったり、役員の職務執行の適正性が損なわれるおそれが大きくないという理由の他に、販売されている保険の種類や数が膨大なために、実務上D&O保険契約内容を決定する手続きに多大な影響を与えるおそれから除外したとのことである。竹林俊憲他「令和元年改正会社法の解説[Ⅳ]」旬刊商事法務2225号10ページ。